一定の要件を満たす個人事業主は、「現金主義」による記帳が可能です。ただ、現金主義の適用を受けている事業者は少数です。手書きやエクセルによる帳簿づけで事足りるような零細事業者向けの特例といえます。
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目次
青色申告の現金主義
個人事業の帳簿づけは「発生主義」にもとづいて行うのが原則です。しかし、特例を利用することで「現金主義」による帳簿づけが可能になります。
発生主義と現金主義の違いはこちら
「現金主義による所得計算の特例」
概要 | 現金主義の考え方で所得計算ができる特例 (ただし事業所得と不動産所得に限る) |
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要件 |
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申請期限 | 適用を受けようとする年の3月15日まで (または開業日から2ヶ月以内) |
この特例を利用する場合、青色申告特別控除は最低額の10万円控除しか受けられません。55万円・65万円の控除を受ける場合と比べると、会計業務はだいぶラクになりますが、節税効果はあまり見込めないということです。
発生主義と現金主義
「発生主義」と「現金主義」では、取引を計上するタイミングの考え方が異なります。現金主義は、実際にお金が動いたタイミングで取引を記帳します。
発生主義 | 現金主義 |
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経済的事実が発生した時点で、収益や費用を計上する | 実際にお金のやり取りをした時点で、収益や費用を計上する |
メリットとデメリット
現金主義による青色申告は、発生主義の青色申告(55万円控除等)と比べると、下記のようなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
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メリットについて
現金主義のメリットは、なんといっても会計業務がラクになる点です。最低限「現金出納帳」と呼ばれる帳簿を作成すればよく、これはお小遣い帳のような感覚で記帳できます。簿記の知識がない人でもカンタンです。
現金出納帳以外にも、必要に応じて帳簿を作成しましょう。たとえば、事業用の資産がある場合は「固定資産台帳」が必要です。青色申告の現金主義でも、減価償却は行います。現金主義だからといって「固定資産を取得した時点で全額経費にできる」というわけではありません。
デメリットについて
大きなデメリットは、発生主義のように正確な損益の把握ができないことです。現金主義では、お金が動いた時点でだけ記帳します。ですから、たとえば掛けで商品を仕入れた場合、実際に支払うまでは帳簿に反映されません。掛け取引が多い事業者には、向いていない方法です。
また、メジャーな会計ソフトは「青色申告決算書(現金主義用)」の作成に対応していません。帳簿づけまでは会計ソフトでできますが、決算書は別途で作成することになります。
要件の詳細(小規模事業者の定義)
現金主義の特例における「小規模事業者」の定義は、下記のとおりです。
引用
小規模事業者とは、その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額(事業専従者給与(控除)の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下である方のことです。
「300万円以下」という所得要件ですが、これは、事業所得と不動産所得の合計額で判断します。「所得」であり、「収入」ではありません(収入 - 必要経費 = 所得)。
この所得要件は、申請する年の「前々年分の所得」に課されます。したがって、新規開業者の場合、少なくとも開業から2年間は対象です。
現金主義の申請が通った場合、仮に当年分の所得が300万円を超えてしまっても、翌年分までは現金主義でOKです。ただし、翌々年分からは認められなくなってしまいます。
申請方法
申請の際は「青色申告承認申請書(兼)現金主義の所得計算による旨の届出書」という1枚の書類を提出します。通常の青色申告を受けるときに提出する「青色申告承認申請書」とは別モノです。
すでに青色申告の承認を受けている場合には「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を提出します。
提出書類 | 【青色申告と現金主義の両方を申請する場合】 青色申告承認申請書(兼)現金主義の所得計算による旨の届出書 (ダウンロードはこちら) 【青色申告は承認済みで、現金主義を申請する場合】 現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書 (ダウンロードはこちら) |
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提出先 | 所轄の税務署 >> 税務署を調べる – 国税庁 |
申請期限 | 原則として、適用を受けようとする年の3月15日まで (または開業日から2ヶ月以内) |
申請書の提出期限日は、確定申告の期日と同じです。現金主義に切り替える場合は、確定申告のついでにこれらの書類も合わせて提出するとよいでしょう。そうすれば、次回から現金主義による申告ができます。
まとめ
青色申告の現金主義は、「将来的に事業を拡大する予定がない事業者」や「掛け取引が少ない事業者」に向いています。
【重要ポイント】青色申告の現金主義
- 適用される青色申告特別控除額は「10万円」
- 所得要件は、前々年分の「事業所得 + 不動産所得」が300万円以下
- 適用を受けようとする年の3月15日までに申請書を提出する必要がある
- 現金主義でも「減価償却」は必要
- 「少額減価償却資産の特例」「最長3年の赤字繰越」などの特典は受けられる
- 青色申告の特典のなかでも「貸倒引当金の特例」は認められない
- 発生主義のように正確な損益の把握ができない
- 会計ソフトは現金主義の決算書作成に対応していない
本記事では青色申告の現金主義について説明してきましたが、今もなお現金主義の申請を迷っているのであれば、「発生主義」による記帳をおすすめします。青色申告対応のクラウド会計ソフトを使えば、55万円・65万円控除を受けるために必要な帳簿づけもそこまで難しくはありません。