近年、タニタや電通といった大企業が社員の「個人事業主化」(社内フリーランス)を導入し、ひとたび話題となりました。これは、これまで正社員だった人が一度会社を退職したうえで、個人事業主として元の会社と業務委託契約を結ぶという働き方です。
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【タニタの場合】導入5年目で契約者は31人
株式会社タニタは、2017年から「日本活性化プロジェクト」という社員をフリーランス化する制度を導入しました。全社員(約230人)に応募資格があり、スタートから5年目の2021年は、全体の1割強に及ぶ31人がこの制度を利用しています。
制度の利用者には、社員時代の給与をベースに決定された「基本報酬」に加えて、インセンティブ分の「追加報酬」が支給されます。契約期間は原則3年で、1年ごとに業績を見て3年先まで再契約していく仕組みです。
この制度は、谷田千里社長の「仕事にやりがいや主体性をもって取り組むようになってほしい」という意向で導入されました。制度の利用はあくまでも「選択制」で、会社側が独立を強要することは一切ないというスタンスです。
【電通の場合】導入1年目で応募者は約230人
株式会社電通は2021年1月から、社員の一部をフリーランスに切り替える「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」制度を導入しました。応募資格があるのは40代以上のミドル社員で、対象者全体の3%相当である約230人が応募しました。
LSPの利用者は、一旦電通を早期退職し、新たに電通の子会社「ニューホライズンコレクティブ合同会社」と、個人事業主として業務委託契約を結びます。契約期間は10年間で、期間中は社員時代の給与をベースに決定される「固定報酬」のほか、業務で発生した利益に応じて「インセンティブ報酬」が支払われます。
10年間のうちに固定報酬部分は段階的に減らされ、代わりにインセンティブ報酬が段階的に引き上げられていく仕組みです。LSPの発起人である野澤友宏氏は「チャレンジと安心の両立が可能な仕組み」であるとしています。
世論は賛否両論、批判の声も多数
社内フリーランス制度について「働き方の多様性が実現する」「仕事への意識が向上する」などの肯定的な意見がある一方で、「労働法逃れ」「人件費削減では」など、批判の声も上がっています。
賛成の声
- 時間や場所に縛られることなく仕事ができるのは魅力的
- 一定期間は収入が約束されているので、一から起業するより低リスク
- 本人の頑張り次第で収入アップが見込める
反対の声
- 「残業」がなくなることで「働かせ放題」の状態になってしまうのでは
- 労働基準法から逃れるために、形式的に業務委託にしているだけではないのか
- 社会保険料や残業手当など、人件費に類する費用を削減したいだけでは
業務委託契約の場合、基本的には仕事の成果に対して報酬が支払われます。社員のように「定時」や「残業」という概念がないので、長時間働いても支払われる報酬が増えることはありません。
また、会社員は社会保険料の一部を会社に負担してもらえますが、個人事業主は社会保険料を全額自分で負担しなくてはなりません。社員の個人事業主化が進むほど、会社は経費削減になるので、一部では「単なる人件費削減ではないのか」と批判されているわけです。
「社内フリーランス」になるメリットは?
- 会社との関わりを持ちつつ独立できる
- 勤務時間や勤務場所の拘束がなくなるので、時間の融通が効く
- 裁量が大きくなるので、能力次第で収入アップを見込める
いわゆる社内フリーランスの大きなメリットは、所属する会社との関わりを持ったまま独立できる点です。個人事業主になってからも一定の報酬が約束されるのなら、低リスクで起業に踏み込むことができます。
また、本人の仕事の進め方によっては収入アップを見込めるのも、フリーランスになるメリットの一つです。実際にタニタで社内フリーランスとなった元社員で、年収が40%アップしたケースもあるようです。
これから個人事業主になる人が注意するべきこと
これから独立を検討している会社員の方は、以下のポイントに注意しましょう。
① 給与面
- 長時間労働しても残業手当や休日手当は発生しない
- 契約終了しても退職金などは発生しない
当然ながら、個人事業主が長時間働いたり、休日に仕事をしても、残業手当や休日手当は発生しません。また社員ではないので、会社都合で契約が終了して仕事がなくなっても、退職金や失業手当を受け取ることはできません。
② 税金面
- 確定申告が必要になる
- 所得税や住民税を自分で納めなくてはならなくなる
- 社会保険料が全額自己負担になる
個人事業主は、自ら確定申告を行って所得税を納めるのが基本です。住民税や社会保険料も、自分で納付します。このように、フリーランスになると本業以外の面倒な庶務が増えてしまいます。
③ 環境面
- 原則として労災保険や雇用保険に加入できない
- トラブルがあった際に労働法が守ってくれない
- 福利厚生がなくなる
個人事業主になると、社員時代に加入していた「雇用保険」と「労災保険」には原則加入できません。また、万が一長時間労働を強いられた場合なども労働法が守ってくれません。