2022年1月1日から「電子帳簿保存法」の改正が適用され、帳簿や書類の電子保存ルールが大幅に緩和されます。本記事では、改正のポイントや新しい要件を、個人事業主向けに解説しています。
INDEX
目次
改正のポイント
- 帳簿などの電子保存について、事前申請が不要になる
- 電子保存の要件が大幅に緩和される
- これにより、特別なソフトを使わなくても電子保存できるようになる
- ただ、青色65万円控除の要件における「電子帳簿保存」のハードルは高いまま
「電子帳簿保存法」では、おおよそ下図のような区分で電子保存のルールが定められています。この大枠は、改正後も変わりません。本記事では、この①~④における重要な改正点をそれぞれ説明していきます。
>> 電子データ保存・スキャナ保存ってなに?【電帳法の詳細】
「帳簿・書類を紙で保管するのが面倒!」という人にとっては、今回の改正が電子保存を始める良い機会です。なお、①~④の電子保存をすべて一度に始める必要はありません。部分的に電子保存を始めてもOKです。
- 国税庁は上記の①と②の部分をまとめて説明していることが多いが、本記事では説明を分かりやすくするために、法令にならって①と②を区別している。
① 電子的に作成した帳簿
- 電子保存の要件が大幅に緩和される
- 改正後も厳格な要件を満たして保存した帳簿は「優良な電子帳簿」と認められる
- 「優良な電子帳簿」なら電子申告なしでも青色申告65万円控除を狙える
改正後も、電子帳簿保存によって青色65万円控除を受けるには、従来同様の厳格な要件を満たす必要があります。しかし、単に帳簿を電子保存するだけなら、最低限の要件を満たせばOKということになります。
優良な電子帳簿 | その他の電子帳簿 |
---|---|
厳格な要件を満たす必要がある ほぼ従来どおりの難易度 |
最低限の要件を満たすだけでOK 大幅に簡易化される |
|
|
* 別途で届け出が必要
具体的な要件は、それぞれ下記のように異なります。なお、どちらの場合も複式簿記で帳簿付けしていることが前提となります。
改正後の要件(概要)
厳格な要件 (優良な電子帳簿) |
最低限の要件 | |
---|---|---|
訂正・削除の履歴が残るシステムを使うこと | ◯ | – |
入力が遅れた場合に、その事実を確認できること | ◯ | – |
帳簿間の関連性を相互に確認できること | ◯ | – |
保存に使うシステムの説明書等*を用意しておくこと | ◯ | ◯ |
帳簿の内容を速やかに表示・印刷できること | ◯ | ◯ |
記帳内容について 一定の検索機能を備えていること |
◯ | – |
税務調査などの際に 必要な帳簿をダウンロードできること |
– | ◯ |
* オンラインマニュアルやヘルプ機能で代替可能
最低限の要件(右側の3つ)は、電帳法対応の会計ソフトを使っていれば簡単にクリアできます。ソフトによっては、左側の厳密な要件を満たしている場合もあります。
電子帳簿保存法対応の会計ソフトまとめ【個人事業主向け】
② 電子的に作成した書類
- 保存書類の検索機能がなくてもOKになる
- 代わりに「必要な書類をダウンロードできること」が要件に加わる
書類の電子データ保存について、従来は「保存書類を日付や金額で検索できること」という要件がありました。改正後は、税務調査などの際に書類を適宜ダウンロードできれば、検索機能がなくても問題ありません。
改正後の要件(概要)
- 保存に用いるシステムの説明書等*を備え付けておくこと
- 保存書類を速やかに表示・印刷できること
- 税務調査などの際に、必要な書類をダウンロードできること
* オンラインマニュアルやヘルプ機能などで代替可能
改正後は、特別なファイル管理ソフトを使わなくても書類の電子保存が可能になります。たとえば、Windowsの「エクスプローラー」や、Macの「ファインダー」を使っても問題ありません。
③ 電子的に交付・受領した書類
- 電子取引の取引情報(メールで授受した書類など)は電子保存が原則となる
- 保存した書類の検索機能に関わる要件が緩和される
- 保存に関して不正があった場合は、重加算税が10%加重されることに
電子的に受領・交付した書類について、従来は「紙に印刷して保存してもいいよ」とされていました。しかし、改正後は「電子データのまま」での保存が原則となります。下記4つの要件を満たして、電子保存しておきましょう。
-
「電子取引」の電子保存義務化については、2年間の猶予期間が設けられる見込みです。詳しくは、下記リンク先の記事をご覧ください。
>> 【電子取引】電子保存義務化の「経過措置」について
改正後の要件(概要)
可視性の要件 | 保存に用いるシステムの説明書等*を備え付けておくこと |
---|---|
保存した情報を速やかに表示・印刷できること | |
保存した情報について、一定の検索機能を備えていること ※小規模事業者(前々年の売上が1,000万円以下)の場合、必要な情報を適宜ダウンロードできるようにしておけば検索機能は不要 |
|
真実性の要件 | 下記のいずれかの措置を行うこと
|
* オンラインマニュアルやヘルプ機能などで代替可能
たとえば、メールでPDFの請求書を受け取ったら、あとから検索ができるよう規則性のあるファイル名に変更し、フォルダ分けをして保存しておけばOKです。
このとき、あらかじめ「事務処理規程」を定めておけば、その他の措置は必要ありません。この規程は、国税庁の該当ページからサンプルをダウンロードして、簡単に作成できます。
「電子取引」の電子保存が義務化!要件や対応方法を詳しく
④ 紙で作成・受領した書類
- タイムスタンプを利用しなくても要件を満たせるようになる
- 保存書類の検索機能に関わる要件が緩和される
- 面倒な事務処理規程の作成が不要になる
- 保存に関して不正があった場合は、重加算税が10%加重されることに
従来、スキャナ保存には「タイムスタンプの利用」や「事務処理規程の作成」など、面倒な要件が多くありました。が、今回の改正でそれらは不要になります。
改正後の主な要件は下記の通りです。(スキャナの解像度や色調など、細かな要件は他にもあります)
改正後の主な要件
- 書類の作成後 or 受領後、速やかに保存業務を行うこと
- 訂正・削除の記録が残る or そもそも訂正・削除ができないシステムを使うこと
- 保存書類と帳簿の関連性が相互に確認できること
- 保存書類を検索する際、日付・金額・取引先を検索条件に設定できること
- 保存に用いるシステムの説明書等*を備え付けておくこと
* オンラインマニュアルやヘルプ機能などで代替可能
見積書や注文書などの「一般書類」については、要件にある「速やかに」の部分を無視しても構いません。ただ、その場合は「事務の手続を明らかにした書類」を作る必要があります(国税庁の該当ページでサンプルがダウンロード可能)。
まとめ – 気になるポイント【Q&A】
本記事で説明した改正は、2022年1月1日から適用されます。「電子保存の要件が緩和された!」という面では、多くの事業者にとって嬉しい改正だと言えます。
嬉しいポイント | 嬉しくないポイント |
---|---|
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|
* メールで交付・受領した書類などのこと
以下では、今回の改正に関して、気になりそうなポイントをQ&A形式でまとめています。
- 改正後も事前申請が必要なケースはある?
- 従来は3ヶ月前までに「電子保存を始めさせてください」という申請が必要でしたが、改正後はこのような事前申請が一切不要になります。ただ「優良な電子帳簿」の優遇措置(65万控除&加算税の軽減)を受けたい場合のみ、所定の届け出が必要です。
- 会計ソフトを使っていれば大抵の要件はクリアできる?
- 電子帳簿保存法対応の会計ソフトで作った帳簿や書類は、そのままでも保存要件を満たせる場合が多いです。ただ「電子取引の取引情報」と「スキャナ保存」に関しては、システム側に課される要件が多いので、事前に対応状況を確認しておきましょう。
- 改正後は青色65万円控除を電子帳簿保存で狙うのもアリ?
- 電子帳簿保存で65万円控除を狙うには、仕訳帳&総勘定元帳を「優良な電子帳簿」の要件に従って保存する必要があります。この場合、要件の難易度は従来とほとんど変わらないので、改正後も65万円控除は「電子申告」で狙うのがおすすめです。
- 改正前から帳簿・書類の電子保存していた人はどうなる?
- 改正前から、税務署長の承認を受けて帳簿・書類の電子保存をしていた人は、改正後も「承認を受けた時点での要件」に従う必要があります。新要件を適用するには、いったん「取りやめ」等の手続きを行わなくてはなりません。