「電子契約サービス」で交わした契約書の保管方法を、電子帳簿保存法の観点から解説します。電子契約サービス(クラウドサイン・GMOサイン・freeeサイン等)を介して受領した契約書は、いくつかの要件に従って保存する必要があります。
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目次
電子契約書の保存方法
オンラインで交わした契約書の多くは、電子帳簿保存法における「電子取引の取引情報」に該当します。これを紙に印刷して保管するのは、原則としてNGです。下記の要件をすべて満たして、電子保存(データ保存)する必要があります。
電子契約書などの保存要件
① 概要書の備付け |
保存に使うシステムの説明書などを用意する ※パソコンのフォルダや市販のソフトを使う場合は不要 |
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② 見読装置の備付け |
保存データを画面&書面で速やかに見られるようにする |
③ 検索機能の確保 |
保存データを一定の方法で検索できるようにする ※前々年(前々年度)の売上が1,000万円以下の事業者は省略可能 |
④ 真実性の確保 |
不正防止のために「タイムスタンプ」などを利用する |
「面倒くさそうだな…」と思うかもしれませんが、電子契約サービスで交わした契約書なら、わりと簡単に上記の保存要件を満たせます。具体的な保管方法を、2つのパターンに分けて説明します。
- アカウントを持っていない「電子契約サービス」を介して届いた契約書
- 自分もアカウントを持っている「電子契約サービス」を介して届いた契約書
ここでいう「電子契約サービス」とは、たとえば「クラウドサイン」「GMOサイン」「freeeサイン」などのオンラインサービスを指します。細かな機能はサービスごとに異なりますが、電子帳簿保存法への対応方法は基本的に同じです。
A. アカウント未登録の電子契約サービスを使う場合
- アカウント未登録の場合、電子契約サービスの書類保存機能は使えない
- 届いた電子契約書をダウンロードして、パソコンのフォルダ等に保存しておく
- このとき「検索機能」の要件に注意が必要
「自分がアカウントを持っていないサービス」で交わした契約書は、検索機能の要件に気をつけて電子保存しましょう。(契約時にアカウントを作成した場合は、後述のBを参考にしてください)
保存要件の主な対応方法(アカウント未登録の場合)
① 概要書の備付け |
自作のソフト等を使う場合だけ用意すればOK |
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② 見読装置の備付け |
ディスプレイとプリンターがあればOK |
③ 検索機能の確保 |
ファイル名に「日付・取引先・金額」を入れて保存する ※ 前々年(前々年度)の売上が1,000万円以下の事業者は省略可能 |
④ 真実性の確保 |
電子契約サービスがタイムスタンプを付けてくれる* |
* タイムスタンプがない場合は、別途で事務処理規定の備付などの対応が必要
検索機能の要件は、WindowやMacで、ファイルを単純にフォルダ管理する場合でも、ファイル名に「日付・取引先の名称・取引金額」を含めることでクリアできます。たとえば、「20221031_山田商事_110000」などといったファイル名がおすすめです。
検索要件への対応方法を詳しく【電子取引の保存】
もし電帳法に対応した専用ソフトに保存する場合は、ソフトのガイドに従っておけばOKです。たとえば「freee会計」や「マネーフォワード クラウド」には、オンラインで交わした書類を簡単にデータ保存できる機能があります。
「真実性」の要件について
電子契約サービスでやりとりした契約書には、両者の「電子署名」が完了した時点でタイムスタンプが付与されます。したがって、電子契約サービスで契約を交わせば、「真実性」の要件は自動的にクリアできると考えて構いません。
- 厳密に言うと「真実性」の要件を満たすには、総務省が定める「認定タイムスタンプ」が必要。電子契約サービスによっては、電子署名の際に付与するタイムスタンプが「認定タイムスタンプ」でない場合もある。その場合は、別の方法(事務処理規程の作成など)で真実性の要件をクリアする必要がある。
B アカウント登録済みの電子契約サービスを使う場合
- 交わした電子契約書を、そのままアカウント上に保存できる
- 「検索機能」や「真実性」の要件について、特別な対応は基本的に不要
- 電子契約書が届いた段階でアカウント登録をしてもOK
「自分もアカウントを持っている電子契約サービス」で交わした契約書は、基本的にそのままアカウント上に電子保存できます。このとき、特別な操作をしなくても、要件を満たしてデータ保存できる場合が多いです。
保存要件の対応方法(アカウント登録済みの場合)
① 概要書の備付け |
自作のソフト等を使う場合だけ用意すればOK |
---|---|
② 見読装置の備付け |
ディスプレイとプリンターがあればOK |
③ 検索機能の確保 |
電子契約サービスの検索機能を利用できる |
④ 真実性の確保 |
電子契約サービスがタイムスタンプを付けてくれる |
※ 電子契約サービスによっては特別な対応が必要な場合もある
たとえば「freeeサイン」のユーザー同士なら、送信側も受信側もごく簡単な操作だけで、契約書を適切に電子保存できます。保存した契約書データは、検索機能の要件にもバッチリ対応した形式で管理されます。
要件に対応した検索機能の例
電子契約サービス「freeeサイン」の文書検索画面
ちなみに「freeeサイン」のユーザーでなくても、契約書が届いた段階でアカウント登録をすれば、既存ユーザーと同じように保管が可能になります。得意先が使っている電子契約サービスについては、自分も早めにアカウントを作っておくとよいでしょう。
【補足】全ての契約書をちゃんと保存しないとダメ?
あらゆる電子契約書について、すべて「電帳法の要件に従って保存しないとダメ」というわけではありません。たとえば、具体的な金額等が載っていない契約書(取引基本契約書や秘密保持契約書など)は、要件を気にせずに保存してよい場合もあります。
ただ、電帳法に従って保存する必要が「ある or ない」の区別について、具体的な基準は示されていません。ひとまず言えるのは、電子契約書に「取引情報」が記載されている場合は電帳法に従って保存する必要がある、ということです(国税局に確認済み)。
- ここで言う「取引情報」とは、おおよそ「注文書や領収書などに通常記載されている事項」のこと。厳密には「取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう」と定義されている(電帳法2条5)。
「通常記載される事項ってなに!?」と思われるかもしれませんが、これ以上の細かな判断については、事案ごとに税務署等へ問い合わせるしかなさそうです。自分で判断しづらい電子契約書は、念のため電帳法の要件に従って保存しておくと安心でしょう。
ちなみに、電子保存した契約書は、少なくとも「日付・取引先の名称・取引金額」のそれぞれで検索できないといけません(検索機能の要件)。金額が載っていない場合の対応方法は、国税庁が下記のように説明しています。
引用
問48 単価契約のように、取引金額が定められていない契約書や見積書等に係るデータについては、検索要件における「取引金額」をどのように設定すべきでしょうか。
【回答】記載すべき金額がない電子取引データについては、「取引金額」を空欄又は0円と設定することで差し支えありません。ただし、空欄とする場合でも空欄を対象として検索できるようにしておく必要があります。
まとめ – 電子契約書の保存方法に関するQ&A
電子契約サービスで交わした契約書は、電子帳簿保存法における「電子取引の取引情報」の保存要件に従ってデータ保存しましょう。「アカウントを持っていない電子契約サービス」を介して契約書を受け取った場合は、検索要件への対応に注意が必要です。
電子契約サービスで交わした書類の保存方法
アカウントがない場合 | アカウントがある場合 |
---|---|
契約書をダウンロードして 別ソフトに保存する必要がある → 検索要件に気をつけよう |
電子契約サービスの アカウント上に保存できる → 特別な対応は不要 |
※ 電子契約サービスの機能によっては異なる場合も
「自分もアカウントを持っている電子契約サービス」で契約書を受け取った場合、電帳法への対応はかなりラクになります。もちろん、自分から契約書を発行する場合にも便利なので、主要なサービスについてはアカウントを作っておくとよいでしょう。
個人事業主におすすめの電子契約サービス【比較一覧表】
- 電子契約書を紙に印刷して保管するのはダメ?
- 紙での保存は原則NGです。「電子取引の取引情報」に該当する書類データは、データのまま保存しておく必要があります。2022~2023年の電子取引に関しては「ひとまず紙でもOK」とする経過措置もありますが、早めに対応しておくのがよいでしょう。
- 「見読装置」の要件を満たすにはプリンターも必須?
- 国税庁の説明によると、税務調査などの際に「近隣の有料プリンタ等」で速やかに印刷できれば問題ありません。近所のコンビニプリントなどを使える場合は、事業所にプリンターがなくても大丈夫ということです。
- 特別なソフトを使わずに「検索機能」の要件を満たせる?
- パソコンにもともと入っているファイル管理ソフト(エクスプローラー・Finderなど)でも、ファイル名に「日付・取引先の名称・取引金額」を入れておけば検索要件をクリアできます。これは、実際に国税庁が例として示している保管方法のひとつです。
- 電子契約サービスでは、受取側もアカウント作成が必須?
- 利用する電子契約サービスによって異なります。「freeeサイン」のように、受取側のアカウント作成が不要のサービスもあります。ただ、契約書のデータ保存にかかる手間を考えると、利用者の多いサービスなどはアカウントを作っておいたほうがラクです。