ここでは、個人事業における「開業費」にできる支出・できない支出について、具体的な例を紹介しています。そもそも経費にできないものや「固定資産」「棚卸資産」など別の資産については、開業前の支出であっても開業費にはできません。
INDEX
目次
個人事業の「開業費」
開業のために必要とした支出は、任意で「開業費」に計上できます。これは「資産」の勘定科目です。たとえば、名刺や印鑑の制作費用、店舗の水道光熱費・賃料、オープン告知用の広告宣伝費などが当てはまります。
通常、経費を使ったら、原則その年の経費にしかできません。しかし、開業費に計上することで、経費にする年を任意でズラせます。この仕組みをうまく活用すれば、かなりの節税につながる場合も多いです(詳細は後述)。
開業費として計上〜経費にする流れ – 償却(しょうきゃく)とは?
開業費は、繰延資産という「資産」に含まれる勘定科目です。開業費として扱う支出は、まず開業日の日付で開業費として資産計上し、あとで経費にしていきます。この会計処理を「償却」といい、個人事業の場合は「均等償却」「任意償却」のどちらかを選択できます。
均等償却 | 任意償却 | |
---|---|---|
償却年数 | 5年 (個人事業の開業費の場合) |
自由に決められる |
償却金額 | 計算式に則って計算 | 自由に決められる |
開業費の範囲は法人とは異なる!
法人の会計でも「開業費」という勘定科目を使いますが、個人事業の会計とは範囲が異なります。また「創立費」という勘定科目は法人特有のもので、個人事業の会計には登場しません。
開業費にできる支出
開業費として扱えるのは「開業のために必要とした支出」です。よくわからなければ、通常では必要経費として計上するようなものを開業前に支払ったら「開業費」として扱うことができる、と考えてください(>> 必要経費とは?)。
以下、開業のために必要とする支出(=開業費)の具体例を並べてみました。右の勘定科目は「通常であればこの勘定科目で計上する」というものを置いています。参考までにご覧ください。
下記の支出は開業前のものなら「開業費」に計上できる
具体例 | 通常時の勘定科目 |
---|---|
・開業場所調査のための旅費やガソリン代 ・打ち合わせのための電車代やバス代 |
旅費交通費 |
・オープン告知用チラシ・ポスターの印刷代 ・看板や店頭ディスプレイの制作費用 |
広告宣伝費 |
・関係者との打ち合わせ費用(飲食代含む) ・関係先あいさつのための手土産代 |
接待交際費 |
・印鑑の制作費用 ・事務用デスク・チェアの購入費用(10万円未満) |
消耗品費 |
・名刺デザインの依頼費用 ・ウェブサイトの制作を外部に依頼した際の費用 |
外注工賃 |
・市場調査のために購入した書籍代 | 新聞図書費 |
・開業セミナーの参加費用 | 研修費 |
・開業するまでのオフィス・店舗の水道代や電気代 | 水道光熱費 |
・開業するまでのオフィス・店舗の家賃 ・開業するまでの土地の賃料 |
地代家賃 |
・開業するまでの事業用電話の利用料金 ・開業するまでのインターネットの利用料金 ・回線の開設工事費用 |
通信費 |
開業前の支出でこういった類のものは「開業費」として計上できます。開業した年の経費として計上したくない場合には、開業費として資産計上しておきましょう。
個人事業では経常的な費用も「開業費」でOK
上表で挙げた具体例は、あくまでも個人事業の場合です。法人の場合、水道光熱費・地代家賃・給与などで経常的な支出は、開業前の支出であっても開業費に含めることはできません(最初の事業年度の費用として扱う)。
開業費にできない支出
資産を大きく分けると「繰延資産」のほかに、「固定資産」と「流動資産」があります。たとえ開業前の支出であったとしても、ほかの資産に該当するものは「開業費(繰延資産)」に計上できません。
「繰延資産」以外の資産に該当するもの
具体例 | 勘定科目 | 大きな分類 |
---|---|---|
10万円以上するパソコンの購入費用 | 工具器具備品 | 固定資産 |
店舗にかける火災保険料・地震保険料 | 長期前払費用 | 固定資産 |
事務所を借りる際の敷金(保証金) | 敷金 | 固定資産 |
駐車場として使う敷地の取得費用 | 土地 | 固定資産 |
開業後に届く商品の手付金 | 前払金 | 流動資産 |
材料の仕入れ代金 | 棚卸資産 | 流動資産 |
上記の勘定科目は、一般的に用いられるものです。もし会計ソフトにデフォルトで備わっていない場合には、上記の名称で新しく勘定科目を作ってしまって構いません。
火災保険料や地震保険料は、2年契約や3年契約が基本なので「長期前払費用」で資産計上します。「前払費用」で資産計上しても問題ありません。
>> 短期前払費用・前払費用・長期前払費用の違い
固定資産に含まれる勘定科目の例
建物 | 家屋・建物のこと 例:事務所・店舗・工場・倉庫・ガレージなど |
---|---|
建物附属設備 | 建物に付属している設備のこと 例:給排水設備・電気設備・冷暖房設備・エレベーターなど |
車両運搬具 | 人や物を運ぶ車両や運搬具のこと 例:自動車・オートバイ・トラック・台車など |
工具器具備品 | 工場で使う道具や、事務所などで使う設備のこと 例:パソコン・コピー機・デスク・冷蔵庫など |
敷金や保証金のように、最終的に自分の手元に戻ってくるお金は、費用ではなく資産として計上します。ただ、家賃や礼金などは戻ってこないお金なので、開業前に支払っていたら「開業費」として扱えます。
>> 家賃・敷金・礼金の仕訳例
何年前のものまで開業費にできる?
開業日から何年前の支出まで開業費にできるかについては、明確に定められていません。いつの時点の支出であろうと、客観的に見て開業に必要な支出であると認められることが重要です。
たとえば事業を始めるための準備期間として、2年かかったとしましょう。2年前の支出を開業費に計上するのであれば、そのときから開業の意思があって準備していたことを証明できるのが望ましいです。もちろん、レシートや領収証などの証憑書類も必要です。
まとめ – 開業費にできる支出・できない支出
個人事業の場合、事業を始めるために必要な支出は繰延資産のひとつである「開業費」に計上できます。しかし、そもそも経費にできない支出や、固定資産や流動資産に当てはまるものは開業費には計上できません。
開業費にできる支出 | 開業費にできない支出 |
---|---|
|
|
開業費にできる支出の扱い
冒頭で述べた通り、開業費にできる支出であっても、開業した年の経費に計上してよいのであれば、実務的には該当の勘定科目でそのまま経費計上して問題ありません。たとえ開業費に計上したとしても、けっきょくは開業年を含めた任意の年に償却できるからです。
開業した年の経費に計上したくないという場合には、それを開業費として資産計上すれば、翌年以降の経費として計上できます。