本記事では、個人事業主・フリーランス向けに、開業届・確定申告書の「職業」欄を記入する際の注意点などを解説します。ほかの記入欄について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
開業届の書き方
確定申告書の書き方
INDEX
目次
職業欄の書き方
開業届の職業欄 | 確定申告書の職業欄 |
---|---|
職業欄には、いつも名乗っている職業名を書けばOKです。とくに決まりごとはありません。パッと思いつかない人は、以下のリストを参考にしてもよいです。
事業を複数営んでいる場合は、代表的なものを1つ記入すれば充分です。ご覧のように狭い記入欄ですから、いくつも列挙するのはそもそも困難でしょう。
ちなみに、確定申告書の手引きには、下記のように「全ての事業を記入せよ」とあります。しかし、国税局に確認したところ「書ききれなければ、代表的なものだけ記入すればいいですよ」との回答でした。
記入するときの注意点
職業欄に記入した内容は、以下の①②に関係する場合があります。これらを念頭において記入すると安心です。とはいえ、どちらも重要度は高くないので、気にしなくても構いません。
① 個人事業税 |
|
---|---|
② 国民健康保険組合 |
|
とくに個人事業税に関して「法定業種以外の職業を書けば、納税しなくていいんだ!」と、ネットなどで書かれていることがあります。
しかし、それは誤りなので注意しましょう。職業欄ごときに、そこまでの効果はありません(詳細は後述)。
① 個人事業税の法定業種
開業届と確定申告書では、以下のように取り扱いが異なります。ここでは、確定申告書の職業欄にスポットを当て、わかりやすく解説していきます。
開業届の職業欄 | 確定申告書の職業欄 |
---|---|
個人事業税には影響しない ※自治体には情報共有されない |
個人事業税の参考材料として扱われる ※自治体にも情報共有される |
個人事業税の計算においては、確定申告の内容を“総合的に”考えて、各自治体が以下の2点を判定します。職業欄は、あくまでその参考材料の一つにすぎません。
- 「法定業種」に該当しない場合は、非課税となる
- 「法定業種」のうち、特定の業種は税率が優遇される
個人事業税の「法定業種」とは?
芸術・スポーツなどに関する一部の業種を除き、大抵の個人事業は法定業種に該当します。最終的には、事業の実態に基づいて、各自治体が判定を行います。
正確な判定を行うため、自治体から「個人の事業内容に関する回答書」という文書が届くこともあります。その場合は、詳しい事業内容を書いて返送しましょう。
② 国民健康保険組合の加入要件
個人事業主が加入する医療保険は、基本的に「国保」です。ただし、一部の業種などでは、「国保組合」が運営する医療保険を選ぶこともできます。所得や家族構成によっては、後者のほうが保険料を節約できる場合があります。
「国保組合」の医療保険へ加入して、保険料を節約したい方は、加入要件をチェックしておきましょう。たとえば「文芸美術国保組合」へ加入するには、別途以下のような団体に所属する必要があります(以下は一例)。
- 日本イラストレーション協会(JILLA)
- 日本デジタルライターズ協会
- 日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)
- 日本インテリアコーディネーター協会
- 日本ネットクリエイター協会(JNCA)
上記のなかには、確定申告書などの職業欄に特定の名称を記入していないと、入会できない団体もあります。例として、「日本イラストレーション協会(JILLA)」の入会資格の一部を紹介します。
引用
確定申告書…(中略)…の職業欄に「加入できる職業名」が明記されている事がご加入の条件です。…(中略)…
JILLAに加入できる職業名一覧:イラストレーター/イラストレーション制作(業)/絵本作家/画家/美術家/建築パース(制作)/3DCG(制作)…(後略)…
とはいえ、基本的に「国保組合」の医療保険で節約できるのは、事業が軌道に乗ってからです。開業してしばらくの間は、「国保」や「健康保険の任意継続」で充分でしょう。
【補足】労災保険の特別加入 – ITフリーランスの場合
個人事業主は、原則的には労災保険へ加入できません。ですが、特定の業種については、特別加入が可能です。主に、建設業や運輸業が対象ですが、新たにITフリーランスなどにも対象が拡大されました(2021年9月~)。
上図のように、まず特別加入団体へ加入する必要があります。現時点で、ITフリーランスの申し込みを受け付けているのは「ITフリーランス支援機構全国労災保険センター」のみです。
確定申告書の職業欄に「こう書いてないとダメ」のようなルールはないようです(2021年11月26日時点)。もし気になるようなら、開業届・確定申告書の職業欄には、IT関連とわかるように記入しておくと安心です。
会計ソフトではどうなってる?
大手3社(弥生・freee・マネーフォワード)のクラウド会計ソフトでも、確定申告書を作成できます。このとき、もちろん職業欄にもデータ入力をします。参考までに、各社の入力フォームを見比べてみましょう。
弥生(やよい) | freee(フリー) | マネーフォワード |
---|---|---|
細かく カテゴリ分けされている |
大雑把だが その分選びやすい |
選択肢を 一切表示してくれない |
弥生とfreeeでは選択肢の内容がまったく異なります。マネーフォワードに至っては、選択肢そのものがありません。このように、職業欄はけっこう自由に書いてよい項目なのです。
どうしても自分で職業名を決めるのが心配な方は、弥生かfreeeで確定申告書を作成するのがおすすめです。弥生は、初年度無料で使えます(白色申告なら初年度以降もずっと無料のプランあり)。freeeは、単月での契約も可能です(最安プランで1,628円/月)。
弥生・freee・マネーフォワードを徹底比較!個人事業主の会計ソフト
まとめ
開業届・確定申告書の職業欄には、自分がコレと思うものを書きます。「法定業種」や「日本標準産業分類」などを参考にしても構いません。明確なルールはないですが、強いて言うなら、以下2点を意識して記入するとよいでしょう。
- 個人事業税の法定業種
- 国民健康保険組合への加入要件
① 個人事業税の法定業種
レアケースですが、特定の業種に関しては、個人事業税において優遇されます。該当する方は、職業欄には以下のように記入するのがおすすめです。
非課税の業種 芸術・スポーツなど |
法定業種以外を記入するのがベター |
---|---|
税率優遇の業種 水産業・マッサージなど |
法定業種をそのまま記入するのがベター |
なお、これらレアケースに当てはまる方は、申告書第二表の「事業税に関する事項」欄の記入をお忘れなく。こちらのほうが、職業欄よりも重要です。
② 国民健康保険組合への加入要件
お目当ての「国保組合」がある方は、その加入要件を調べておきましょう(文芸美術国保組合など)。通常の国保とは異なり、確定申告書などの職業欄に特定の名称を記入していないと加入要件を満たせない場合があります。
ちなみに、すでに提出した確定申告書について、職業名を変更したいという理由だけでは、原則として修正申告は受け付けてもらえません(申告期限内の訂正申告なら可能)。修正申告は、あくまで“税額を正す”ための手続きだからです。