個人事業主の場合、確定申告を行う義務があるかどうかは、実際に計算してみないと判定できません。一般的には「所得48万円」が基準とも言われますが、それはあくまで目安です。本記事では、正確に判定するための考え方を詳しく解説します。
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目次
確定申告が義務の個人事業主
国税庁の説明によると、下記の計算で残額が生じる個人事業主は、確定申告をする必要があります。要するに、以下の計算結果がプラスになれば「確定申告をしなきゃダメ」ということです。
引用
1. 各種の所得の合計額(譲渡所得や山林所得を含む。)から、所得控除を差し引いて、課税される所得金額を求めます。
2. 課税される所得金額に所得税の税率を乗じて、所得税額を求めます。
3. 所得税額から、配当控除額を差し引きます。
この計算の流れは、おおよそ以下のように図示できます。
特に重要なのは1つ目の計算です。所得の合計額から所得控除を引いて「課税される所得金額」が生じる場合は、基本的に確定申告が義務だと考えましょう。「配当控除」を受けられる人は少数なので、あとから計算結果がゼロになるケースは稀です。
【前提】給与所得がある人は別の基準で考える
給与所得者に対しては、「こういう場合に確定申告をしなさい」というルールが個別に定められています。副業・兼業で給与所得も得ている個人事業主は、下記のページを参考にしてください。
>> 確定申告が必要な給与所得者
ポイント①「各種の所得の合計額」とは
計算のベースとなる所得の金額について、国税庁は「各種の所得の合計額」という言葉で説明しています。これは、所得税法における下記の部分を言い換えた表現です。
引用
居住者は、その年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が第二章第四節(所得控除)の規定による雑損控除その他の控除の額の合計額を超える場合において…(中略)…所得税の額の合計額が配当控除の額を超えるときは…(中略)…税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。…(後略)…
※「次に掲げる事項を記載した申告書」とは確定申告書のこと
所得税法120条
専門的な言い方をすると、これは「総所得金額等」のことです。「総所得金額等」とは、おおよそ「全ての所得をひっくるめた金額」のことです。事業所得だけでなく、その他の総合課税の所得や、申告分離課税の所得もあわせて考えるわけです。
【青色申告】55万・65万の特別控除はナシで考える
55万・65万の青色申告特別控除は、期限内に確定申告をしないと適用されません。したがって、ここではひとまず「青色申告特別控除は10万円」と仮定して所得金額を考えましょう。10万円控除なら、期限内の申告でなくても適用できます。
ポイント②「配当控除」とは
「配当控除」は、株の配当などによる配当所得がある場合に受けられる税額控除です。この配当控除によって、最終的な計算結果がゼロになるなら、確定申告の義務をおいません。
そもそも、配当所得を得ていない人が配当控除を受けることはありません。また、配当所得を得ていたとしても、配当控除を受けられるケースは限られます。
配当所得がない人 | 配当所得がある人 |
---|---|
配当控除を受けることはない | 配当控除を受ける場合がある (株の配当等で総合課税を選ぶ時のみ) |
ちなみに、その年分の課税総所得金額等が1,000万円以下なら「配当所得の10% or 15%」が、配当控除額になります。そこそこ大きな金額になる可能性もあるので、心当たりがある人は確認しておきましょう。
所得48万円超なら確定申告が義務ってホント?
ネット上では、よく「所得48万円以下の個人事業主は確定申告不要」という情報を目にします。これはあくまで一般的な目安であって、必ずしも「所得48万円を超えたら確定申告が必要!」というわけではないので注意しましょう。
そもそも「48万円」というボーダーラインは、基礎控除の控除額が根拠になっています。所得が48万円以下なら、基礎控除を差し引くだけで、課税される所得金額(所得の合計額 - 所得控除)は必ずゼロになります。
ただ、ほとんどの個人事業主は、基礎控除の他にも社会保険料控除などの所得控除を受けられます。そのため、たとえ所得が48万円を超えていても、課税される所得金額がゼロになる可能性は十分にあります。
冒頭で紹介した計算式に従えば、課税される所得金額がゼロであれば、確定申告の義務はありません。確定申告の義務は「所得が48万円を超えるか?」ではなく、「所得が所得控除の総額を超えるか?」を目安に考えるのがよいでしょう。
【補足】義務がなくても確定申告はしたほうがいい
ここまでは、所得税の確定申告を行う「義務」について説明してきました。たとえ申告義務がなくても、個人事業主には以下の理由で確定申告することをおすすめします。
確定申告をしたほうがいい理由
- 申告をすれば、税金の還付を受けられる場合がある(還付申告)
- 申告をすれば、事業の赤字を翌年以降に繰り越せる場合がある(赤字の繰越)
- 申告をしないと、別途で住民税の申告が必要になる場合がある
- 申告をしないと、国民年金や国保の保険料が本来より高くなる場合がある
- 申告をしないと、税務署が発行する納税証明書を取得できない
確定申告の義務がない場合でも、任意で申告を行うことで、税金面でメリットを得られる可能性があります。納めすぎた税金の還付や、赤字の繰り越し(繰り戻し)などがこれに当たります。
なお、確定申告をしなかった場合は、基本的に「住民税の申告」という手続きが義務になります。住民税の申告までほったらかしていると、社会保険料などで損をする可能性が高いので注意しましょう。
>>「住民税の申告」が必要なのはどんな場合?
まとめ
個人事業主の場合、上記の計算で残額が生じると確定申告をする必要があります。逆に言うと、残額が生じないのであれば、確定申告をする義務を負わないことになります。
残額が生じない | 残額が生じる |
---|---|
確定申告の義務はない 申告をしなくてもOK (とはいえ申告しておくのがベター) |
確定申告の義務がある 申告をしないとペナルティの対象に |
計算の重要ポイント
- 「各種の所得の合計額」とは「総所得金額等」のこと
- 「各種の所得の合計額」に源泉分離課税の所得は含めない
- 「所得控除」には、最低でも基礎控除の48万円が含まれる(高所得者を除く)
- 「課税される所得金額」がゼロなら、確定申告の義務はない
- 「税率」は課税される所得金額に応じて異なる
- 分離課税の所得には、個別に定められた税率を適用する
- 「配当控除」を受けられるのは配当所得を総合課税で申告する場合だけ
- そもそも配当所得がなければ「配当控除」を受けることもない
よく「所得48万円以下なら確定申告不要!」などと言われていますが、所得が48万円を超えても、必ず確定申告の義務が生じるとは限りません。義務があるかを確認したい場合は、いちど上記の流れに沿って試算してみましょう。