国税庁は「給与所得者で確定申告が必要な人」として、7つの類型を挙げています。本記事ではこの7パターンを噛み砕き、具体例を交えながらわかりやすく解説します。会社員で確定申告の義務があるか気になっている方は、本記事を参照してみて下さい。
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給与所得者で確定申告が必要な人
国税庁は「給与所得者で確定申告が必要な人」として、以下の7パターンを挙げています。これらは「確定申告をしたほうがいい人(税金の還付を受けられる人)」ではなく、原則として「確定申告をしなきゃダメな人」です。
確定申告の義務がある会社員
- 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
- 1ヶ所から給与を得ていて「給与所得及び退職所得以外の所得」が合計20万円を超える人
- 2ヶ所以上から給与を得ていて、年末調整されなかった給与と「給与所得及び退職所得以外の所得」が合わせて20万円を超える人
- 同族会社の役員等で、その会社から貸付金の利子などを受け取っている人
- 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
- 源泉徴収義務のない者から給与等を受けている人
- 退職所得の正規の税額が、源泉徴収された金額よりも多くなる人
本業以外の収入がある会社員は、②か③に該当する可能性があります。②と③はどちらも、簡単に言うと「本業以外の稼ぎがボーダーラインを超えたら確定申告してね」というルールです。勤務先が1ヶ所か複数かによって、ボーダーラインの考え方が異なります。(詳しくは後述)
②と③以外は、ひとまずどれもレアケースだと考えてよいでしょう。以降では、ひとつずつ詳しく説明していきます。
① 年収が2,000万円を超える
年間の給与収入が2,000万円を超える会社員には、確定申告が義務づけられています。ここで言う「給与収入」とは、簡単に言うと「給与 + ボーナス + 残業手当など」のことです(ただし、通勤手当は非課税のため給与収入に含まれない)。
正確な給与収入の金額は、会社から受け取る源泉徴収票で確認できます。複数の会社から収入を得ている場合は、それらを合計して考えましょう。
ちなみに国税庁の統計によると、年間の給与が2,000万円を超える人は、給与所得者全体のうち1%もいません。なので、稀なケースと考えてよいです。
② 勤務先が1つで「給与・退職以外の所得」が20万円超
1つの会社からだけ給与を得ている場合は、「給与所得及び退職所得以外の所得」の金額が20万円を超えるかどうかで判断します。要するに、下記の両方に当てはまる会社員は、確定申告が義務になるわけです。
- 1つの勤務先からのみ給与をもらっている
- 「給与所得及び退職所得以外の所得」の合計額が年間で20万円を超える
「勤務先が1つ」とは、その年の1月1日~12月31日のあいだに「複数の会社から給与をもらったりしていない」ということです。会社勤めとアルバイトを掛け持ちしている人や、年の途中で転職をした人は、後述する③の基準で考える必要があります。
「給与所得及び退職所得以外の所得」とは、10種類の所得のうち「給与所得と退職所得の両方を除いた所得」の合計額を指します。つまり、事業所得・不動産所得・譲渡所得・一時所得・雑所得などの合計が20万円を超えたら、確定申告が義務になるということです。
このルールによって確定申告が必要になるのは、たとえば下記のような会社員です。
該当する会社員の例
- 副業で雑所得や不動産所得を得ている会社員
- 土地や建物を売却して譲渡所得を得た会社員
- 株取引で譲渡所得を得た会社員
- 競馬や競輪で一時所得を得た会社員
- 保険の一時金や満期返戻金による一時所得を得た会社員
※いずれも勤務先が1ヶ所の場合に限る
会社員の副業収入は「雑所得」に該当する場合が多いです。ただ、その他の所得に該当するときも、「20万円」というボーダーラインの考え方は変わりません。
>> 会社員の副業収入は事業所得?雑所得?
③ 従たる給与と「給与・退職以外の所得」が合計20万円超
前述の②と違って、こちらは「複数の会社から給与を得ている会社員」が基準とすべきルールです。「従たる給与(年末調整されなかった給与)」と「給与所得及び退職所得以外の所得」が、合計で20万円を超える場合は確定申告が義務になります。
複数の会社に勤める際は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出した会社の給与が「主たる給与」となります。逆に、それ以外の会社から受け取った給与が「従たる給与」に当たるわけです。従たる給与の金額は、その会社から受け取る源泉徴収票で確認できます。
「20万円超」のボーダーラインは、上記の金額(従たる給与が複数ある場合は合計額)と「給与所得及び退職所得以外の所得」の合計で考えます。これによって確定申告が必要になるのは、たとえば以下のようなケースです。
「20万円超」になるケースの例
- 従たる給与が15万円で、10万円の雑所得がある
- 従たる給与が10万円で、8万円の譲渡所得と5万円の雑所得がある
- 給与所得以外の所得は無いが、従たる給与が25万円ある
このとき、従たる給与は「収入金額」のまま計算するのに対し、「給与所得及び退職所得以外の所得」は「所得金額」で考えます。「収入」と「所得」を足す、というアンバランスな計算式になっていることに注意しましょう。
「20万円超」でも確定申告をしなくていい場合
「従たる給与」と「給与所得及び退職所得以外の所得」の合計が20万円を超えても、下記の両方を満たす場合は、確定申告をする必要がありません。
- 給与収入から一定の所得控除を差し引いた金額が150万円以下である
- 「給与所得及び退職所得以外の所得」が20万円以下である
所得税法121条2のロ
ここで言う「給与収入」には、主たる給与と従たる給与の両方が含まれます。また「一定の所得控除」とは「雑損控除・医療費控除・寄附金控除・基礎控除以外の所得控除」のことです。少し分かりづらい部分もあるので、迷ったら税務署で相談しましょう。
>> 所得控除の一覧
④ 同族会社の役員等で、貸付金の利子などをもらっている
「同族会社」とは、ごく簡単に言うと「少数の株主(またはその親族等)による出資で成り立っている会社」のことです。家族経営の中小法人が該当します。経営者が一人だけで運営する「一人会社」もこれに含まれます。
下記のすべてに当てはまる人は、確定申告が義務づけられています。
- 同族会社の役員、もしくはその親族などである
- 同族会社から役員報酬や給与を受け取っている
- その会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている
要するに、同族会社の役員等が、その会社から「給与や役員報酬以外の一定のお金」を受け取っていると、確定申告が必要になるわけです。ここで言う「一定のお金」には、会社に貸したお金の利子や、会社に貸した不動産の賃貸料などが含まれます。
引用
…(前略)…同族会社の役員が、その同族会社から給与のほかに貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている場合には、これらの所得金額が20万円以下であっても確定申告が必要になります。また、その役員と特殊な関係にある人の場合も同様です。…(中略)…役員と特殊な関係にある人とは、例えば、この役員の親族又は親族であった人などです。
このルールによって確定申告が必要になるのは、たとえば下記のような人です。
該当する人の例
- 同族会社の役員で、その会社に貸したお金の利子を受け取っている人
- 同族会社の役員の親で、その会社に土地を貸して地代を受け取っている人
- 同族会社の役員の子供で、その会社に営業権を貸して対価を受け取っている人
※いずれも同族会社から給与や役員報酬を得ている場合に限る
一般的な会社員でも、「親族が同族会社を経営している」というケースはあるかもしれません。その場合、あなたは「同族会社の役員の親族」に該当します。ただ、その会社から「給与 + 貸付金の利子など」を受け取っていないなら、ひとまず気にしなくてOKです。
⑤ 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている
災害で住宅や家財に大きな被害を受けたときは、「災害減免法」の規定により、税金に関わる救済措置を受けられます。会社員の場合は、給与の源泉徴収を一旦ストップしてもらったり、すでに徴収された金額を還付してもらったりできます。
ただ、このように「源泉徴収の猶予」や「源泉徴収税額の還付」を受けた際は、年末調整を受けることができません。したがって、税金の精算をするために、確定申告が必要になるのです。
申請書を出していなければ気にしなくてOK
災害減免法による「源泉徴収の猶予」や「源泉徴収税額の還付」を受けるには、会社を通して、税務署に所定の申請書を提出する必要があります。したがって、そもそも申請書を提出していなければ、このケースで確定申告が必要になることはありません。
⑥ 源泉徴収義務のない者から給与等を受けている
下記のどれかに該当する人は、給与の支払者に源泉徴収の義務がないので、自分で確定申告をしなくてはなりません。ただ、一般的な会社員の場合、これらに該当するケースは極めて稀です。
- 「2人以下の家事使用人だけを雇っている個人」から給与等を受け取った人
- 在日大公使館 or 在日外交官から給与等を受け取った人
- 国外において給与等を受け取った人
会社員は基本的に、勤務先で源泉徴収や年末調整を受けることから、確定申告が不要とされています。しかし、そもそも「給与を支払う側」に源泉徴収の義務がない場合は、自分で確定申告をする必要があるのです。
ちなみに、3つ目の「国外で給与等を受け取った人」には、日本に居所を置きながら、国外法人から給与を得る人などが該当します。海外出張をした人も、給与の支払者が日本の会社である限り、これに該当することはありません。
「給与等」の範囲について詳しく
⑦ 退職所得の正規の税額が、源泉徴収された額より多い
下記の両方に当てはまる人には、確定申告が義務づけられています。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を提出せずに退職手当等を受け取った
- 退職手当等から源泉徴収された金額が、正規の税額よりも少ない
退職金を受け取る際、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出するのが一般的です。これを出していれば、その人の所得状況に合わせた正規の税額が源泉徴収されます。この場合、退職所得について確定申告を行う必要はありません。
一方「退職所得の受給に関する申告書」を提出していないと、一律20.42%の税率でざっくりと源泉徴収が行われます。このとき徴収された税額が、本来納めるべき正規の税額よりも少ないときは、確定申告によって差額を納付する必要があるのです。
ただ、20.42%の税率で源泉徴収をされると、現実には正規の税額より多く納めてしまう場合がほとんどです(還付申告をすれば過納分が戻ってくる)。なので、このケースで確定申告が「義務」になる人は、極わずかだと考えてよいでしょう。
>> 退職所得について詳しく
まとめ
下記の7パターンのいずれかに該当する会社員には、原則的に確定申告が義務づけられています。
確定申告の義務がある会社員
- 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
- 1ヶ所から給与を得ていて「給与所得及び退職所得以外の所得」が合計20万円を超える人
- 2ヶ所以上から給与を得ていて、年末調整されなかった給与と「給与所得及び退職所得以外の所得」が合わせて20万円を超える人
- 同族会社の役員等で、その会社から貸付金の利子などを受け取っている人
- 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
- 源泉徴収義務のない者から給与等を受けている人
- 退職所得の正規の税額が、源泉徴収された金額よりも多くなる人
たとえば「給与所得以外の所得がある人」や「2つ以上の会社から給与を得ている人」は、②か③に該当する可能性があります。ただ、それ以外はどれもレアケースだと考えて構いません。
義務がなくても「還付申告」をしたほうがいいケース
確定申告の「義務」がなくても、税金の還付を受けるために「確定申告をしたほうがいい」という人もいます。会社員の場合、たとえば以下のようなケースが該当します。
- 年末調整で適用できない控除を受けたい
- 年末調整で申請しわすれた控除がある
- 年の途中で退職し、そのまま年を越すので年末調整を受けられない
「年末調整で適用できない控除」とは、たとえば「医療費控除」や、初年の「住宅ローン控除」などです。上記のような人は、確定申告をしなくても罰則はありませんが、税金面で損をしてしまう可能性が高いので注意しましょう。