個人事業主の確定申告では、白色申告と青色申告のどちらかを選択します。節税の観点から言うと、青色申告のほうがお得です。それぞれのメリットについてわかりやすく整理し、選ぶ際の考え方を解説します。
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目次
白色申告と青色申告の違いとは?
白色申告と青色申告の違いは、ごくシンプルにまとめると下表の通りです。 青色申告のほうが少しだけ面倒ですが、そのぶん節税につながる特典が用意されています。
白色申告 | 青色申告 | |
---|---|---|
事前申請 | 不要 | 初回のみ必要 |
税金 | 不利 | 有利 |
事務負担 | ほぼ変わらない |
青色申告ができるのは「事業所得・不動産所得・山林所得」です。 よって、個人事業主であれば、青色申告を選択できます。一方、サラリーマンなどの給与所得や雑所得については、青色申告ができません。
違い① 事前申請の必要性
青色申告をするには、事前申請が必要です(最初の年だけ)。原則として、対象年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出しないといけません。ただし、新規開業した年は、開業日から2ヶ月以内に申請書を提出すればOKです。
一方、白色申告であれば事前申請は不要です。 青色申告の申請をしなければ、自動的に白色申告となります。ちなみに、青色申告の申請をした人でも、あとから青色申告をやめて白色申告を選ぶことは可能です。
違い② 税制上の優遇
青色申告なら、さまざまな税制優遇の特典が受けられます。 これらの特典を上手に活用すれば、所得税や住民税の負担を軽減できます。他方、白色申告にはこのような特典が用意されていません。
なかでも、最大65万円の控除が受けられる「青色申告特別控除」は、万人向けのおいしい特典です。 控除額は「10万円・55万円・65万円」の3段階あります。10万円控除であれば、申告の難易度は白色申告とさほど変わりません。
違い③ 帳簿の種類や記帳方法
白色申告と青色申告のどちらでも、簡易簿記での記帳が可能です。 簡易簿記なら、収支と残高を記帳するだけなので、専門知識はほぼ不要です。さらに青色申告の場合は、複式簿記で記帳することで、55万円・65万円の青色申告特別控除が狙えます。
白色申告 | 青色申告 | ||
---|---|---|---|
10万円控除 | 55万円控除 | 65万円控除 | |
簿記方式 | 簡易簿記 | 簡易簿記 | 複式簿記 |
主な帳簿* (一例) |
◯法定帳簿 ◯任意帳簿 ・現金出納帳 ・預金出納帳 ・売掛帳 ・買掛帳 ・固定資産台帳 |
・現金出納帳 ・預金出納帳 ・売掛帳 ・買掛帳 ・経費帳 ・固定資産台帳 |
◯主要簿 ・総勘定元帳 ・仕訳帳 ◯補助簿 ・現金出納帳 ・預金出納帳 ・売掛帳 ・買掛帳 ・経費帳 ・固定資産台帳 |
* 国税庁「帳簿の記帳の仕方」を参照した。必要に応じて上記以外の帳簿を作成してもよい。
白色申告の帳簿は、基本的に簡易簿記でOKです。 「法定帳簿」とは、収入や必要経費を記入する帳簿で、最低限これだけは作成しないといけません。任意で、現金出納帳などを追加で作成してもよいです(任意帳簿)。
青色申告の帳簿も、10万円控除であれば、基本的に簡易簿記でOKです。55万円・65万円の控除を狙う場合は、複式簿記での記帳が必要です。 複式簿記とは、ごく簡単に言うと、取引を借方と貸方に分けて記録する方法です。
違い④ 帳簿書類の保存期間や提出書類
白色申告のほうが、帳簿や書類(レシートなど)の保存期間がやや短く、確定申告での提出書類も少なめです。 とはいえ、実務的には青色申告と大差ありません。白色のほうが、ちょっと書類管理がラクかな?という程度です。
白色申告 | 青色申告 | |
---|---|---|
帳簿の保存期間 (最長) |
7年 | 7年 |
書類の保存期間 (最長) |
5年 | 7年 |
主な提出書類 |
・確定申告書 ・収支内訳書(2ページ) |
・確定申告書 ・青色申告決算書(4ページ) |
青色申告者の帳簿書類は、7年保存するのが基本です。一部、5年保存でよい書類もありますが、ややこしいので7年で統一したほうがわかりやすいでしょう。
青色申告決算書は、全4ページありますが、必ず記入しないといけないのは2ページのみです。残り2ページは、必要に応じて記入すればOKです。
【補足】副業は青色申告ができない?
会社員の副業収入は、基本的に「事業所得」か「雑所得」に該当します。事業所得なら青色申告が可能ですが、雑所得なら青色申告ができません。大まかな目安として、副業収入が本業の10%未満の場合や、帳簿を作成していない場合は雑所得と考えましょう。
白色申告を選択するメリット
- 白色申告用の会計ソフトは費用が安い
- 確定申告時の提出書類がやや少ない
- 書類の保存年数がやや少ない
- 事前申請の必要なし
白色申告のメリットは、会計ソフトを安価に導入しやすい点です。 たとえば「やよいの白色申告 オンライン」は、永年無料ですべての機能が利用できます。こうしたクラウド会計ソフトを活用すれば、記帳~確定申告の大部分を自動化できます。
ただし、会計ソフトが安く使えたとしても、白色申告には青色申告特別控除のような特典がありません。節税額なども含めたトータルで考えると、白色申告のほうが損になることも多いため注意しましょう。
会計ソフト以外の点でいうと、書類の作成や管理が、青色申告よりも多少ラクです。とはいえ、劇的な差はないので、ほんのおまけ程度に考えておきましょう。
青色申告を選択するメリット
- 青色申告特別控除が適用される
- 少額減価償却資産の特例が受けられる
- 最長3年にわたって赤字を繰り越せる
- 専従者に対する給与を経費にできる
- 現金主義での記帳が可能
- 一括評価による貸倒引当金の特例がある
- 推計課税を受けない
青色申告のメリットは、さまざまな税制優遇の特典が受けられる点です。 上記の優遇制度を上手に活用することで、所得税や住民税の負担を軽減・分散できます。
とくに節税効果を実感しやすいのが「青色申告特別控除」です。 所得税や住民税を計算する際、所得から最大65万円を差し引けます。所得が少なければ、そのぶん税金が安くなります。
また、青色申告者は「推計課税」を受けません。意外と知られていませんが、これも大きなメリットです。推計課税とは、ざっくりいうと、帳簿や書類に不備があって所得が正しく計算できないときに、税務署側の言い値で税額が決まる仕組みのことです。
結局どっちがお得?白色申告と青色申告が向いている人の特徴
結論から言うと、白色申告には特筆すべきメリットがなく、青色申告のほうがお得です。 白色と青色のどちらを選んでも、帳簿付けや書類管理など、やるべきことはほとんど変わりません。
白色申告が向いている人の特徴
すでに解説した通り、とくにメリットもないので、わざわざ白色申告を選ぶ必要はありません。 青色申告の事前申請が間に合わなかった年は、ひとまず白色申告を行いましょう。そのついでに、次年分へ向けて青色申告の事前申請も同時に済ませるとよいです。
10万円控除の青色申告が向いている人の特徴
- 所得が少なめで、それほど税負担を感じていない人
- 複式簿記に抵抗がある人
- 会計ソフトを導入する予定がない人
10万円控除で妥協すれば、白色申告とほぼ同じ難易度で青色申告ができます。 白色申告に比べて、レシート類の保存義務が「5年→7年」に増え、確定申告での提出書類も1~2枚増えますが、いずれも負担としては微々たるものです。
「青色申告はなんとなく難しそうだから、自分は白色申告しかできそうにない……」と考えていた人は、まず10万円控除の青色申告からスタートしてみるのもよいでしょう。
55万円・65万円控除の青色申告が向いている人の特徴
- 節税に関心がある人
- 確定申告の期限を守れる人
- 会計ソフトを導入するor複式簿記の知識がある人
55万円・65万円控除の青色申告では、複式簿記での記帳が必要です。 簿記の知識がない初心者でも、青色申告用の会計ソフトを活用すれば、問題なく複式簿記で記帳できます。
会計ソフトの導入を前提とすれば、55万円・65万円控除を狙うのがおすすめです。取引の金額や勘定科目を入力するだけで、複式簿記の帳簿や決算書を自動的に作成できるので、10万円控除と比べても手間はそれほど変わりません。
節税対策と確定申告の負担を軽減させる方法
節税においては、税負担と事務負担のバランスが重要です。 会計ソフトなどのツールを上手に活用して、事務負担を抑えながら、効率よく節税しましょう。ここでは個人事業主向けに、主要な節税方法を紹介します。
- 所得控除や税額控除を活用する
- 必要経費を正確に計上する
- 電子申告(e-Tax)を活用する
- 会計ソフトを活用する
節税方法① 所得控除や税額控除を活用する
所得控除や税額控除は、確定申告の際にひと手間かかりますが、節税効果は比較的高いです。個人事業主の場合、以下のような控除が利用しやすいです。
青色申告特別控除 | 青色申告をすれば受けられる |
---|---|
小規模企業共済等掛金控除 | 以下のような制度に加入すれば受けられる ・iDeCo(イデコ) ・小規模企業共済 |
ふるさと納税(寄附金控除) | ふるさと納税をすれば受けられる |
※ 青色申告特別控除は所得控除ではないが、仕組みとしては同類と考えて良い。
青色申告特別控除は、青色申告をするだけで受けられる控除です。簡易簿記でも10万円もの控除が受けられます。さらに、複式簿記などの要件を満たせば、最大65万円の控除が受けられます。
iDeCoや小規模企業共済は、平たく言うと個人事業主向けの退職金制度です。掛け金の全額が控除の対象となる上に、将来その退職金を受け取る際にも税制的に優遇されます。「支払い時」と「受け取り時」の両方で節税できる仕組みです。
ふるさと納税は、自治体に寄付を行うと住民税が安くなり、返礼品がもらえる仕組みです。手残りのお金が増えるわけではないので、厳密には「節税」ではないとする見方もあります。とはいえ、返礼品がもらえるぶん、お得な制度なのは間違いありません。
節税方法② 必要経費を正確に計上する
必要経費をもれなく計上すれば、余計な税金を納めずに済みます。そのためには、経費になるもの・ならないものをきちんと理解することが重要です。経費を使った証拠として、そのレシートなどは5年or7年保存する必要があります。
節税方法③ 電子申告(e-Tax)を活用する
確定申告書をオンラインで提出することを電子申告といいます。自宅や事務所にいながら確定申告ができるので、事務負担の軽減にもつながります。また、55万円控除の要件を満たした状態で電子申告をすると、控除額が65万円にアップします。
節税方法④ 会計ソフトを活用する
会計ソフトを活用すれば、65万円控除の青色申告をするハードルがグッと下がります。銀行やクレジットカードを紐づけて、取引明細をオンラインで自動取得すれば、記帳の手間を大幅に減らすことも可能です。
会計ソフトで帳簿を作成していれば、確定申告書類の大部分を自動作成してくれて、そのまま電子申告することも可能です。これらの機能をうまく活用すれば、帳簿付け~確定申告のかなりの部分をソフトにおまかせできます。
よくある誤解 – Q&Aでわかりやすく
最後に、白色申告と青色申告の違いについて、よく誤解されがちなポイントを紹介します。これらを誤解したままだと、税務署の人に怒られたり、税金を余分に取られたりして、痛い目にあうこともあるので要注意です。
Q. 白色申告なら帳簿をつけなくていい?
帳簿付けは、すべての個人事業主に法律で義務付けられています。 そのため、白色申告者であっても帳簿付けは必須です。収支と残高を記帳するだけの「簡易簿記(単式簿記)」で差し支えありません。
ちなみに、2013年分までの昔のルールでは、所得300万円以下の白色申告者は記帳義務が免除されていました。その当時であれば、帳簿を用いない“どんぶり勘定”での確定申告も可能でしたが、現在では認められていません。
Q. 白色申告のほうが帳簿付けが簡単?
白色申告と青色申告のどちらも、簡易簿記での記帳が可能です。 白色申告だからといって、とくに記帳の難易度が下がることはありません。
ただ、先述した通り、白色申告用の会計ソフトは費用が安い傾向にあります。記帳業務の効率化において、会計ソフトを導入しやすいという意味では、白色申告のほうが若干ハードルは低いといえます。
Q. 白色申告では経費にできないものが多い?
「必要経費にできる・できない」の基準や考え方は、白色と青色で共通です。 合理的にみて、事業に必要な費用であれば、同様に必要経費になりえます。白色申告者だけが差別的な扱いを受けることはありません。
ただし、先述の通り、青色申告の各種特典については例外です。たとえば、家族に給与を払ったとき、青色申告なら専従者給与の特例により全額経費にすることも可能ですが、白色申告ではそうはいきません。
Q. 青色申告のほうが家事按分が認められやすい?
結論から言うと、白色申告と青色申告とで、家事按分の基準に違いはありません。 よくネット記事などで「白色申告では事業割合が50%以上でないと家事按分できない」などと書かれていますが、実務上はそのようなことはありません。
なお、家事按分ができるのは、事業割合をはっきり区分できる場合だけです。これも白色と青色で共通のルールです。青色申告だけ特別に基準が緩いということはありません。
白色申告と青色申告で家事按分の基準が違う?50%ルールについて解説
まとめ
白色申告と青色申告を比べると、青色申告のほうが節税しやすく、事務負担はどちらもほとんど変わりません。 そのため、青色申告のほうがおすすめです。ただし、事前申請が必要なので、間に合わなかった事業主は白色申告をしましょう。
白色申告 | 青色申告 | |
---|---|---|
事前申請 | 不要 | 初回のみ必要 |
税金 | 不利 | 有利 |
事務負担 | ほぼ変わらない |
青色申告の事前申請は、以下の期日までに行う必要があります。 これから新規開業する人は、開業届と同時に青色申告承認申請書も提出するものと考えておきましょう。あとで白色申告に変更することは可能ですが、その逆はできません。
青色申告の場合、簡易簿記と複式簿記のどちらを選んでも構いません。複式簿記を選ぶと、最大65万円の青色申告特別控除が狙えます。青色申告用の会計ソフトを使えば、簿記の知識のない初心者でも、わりと簡単に複式簿記で記帳できます。