従業員を雇っている個人事業主向けに、「給料賃金」の勘定科目についてまとめました。お給料を渡す際は、税金を差し引いたり、通勤手当を上乗せしたりと、複雑な計算が伴います。その記帳方法などを、初心者向けにわかりやすく解説します。
INDEX
目次
給料賃金とは?
「給料賃金」とは、従業員に支給する給料や残業代などを経費処理するときに使う勘定科目。「給与」「給与手当」などと呼ばれることもあります。従業員を雇っていない個人事業主は、使うことのない勘定科目です。
給料賃金に含めるもの・含めないもの(一般的な使い分け)
給料賃金に含めるもの | 給料賃金に含めないもの |
---|---|
|
|
ちなみに「給料賃金」の消費税区分は、基本的に「不課税」です。しかし、現物給与など「課税」となるものもあります。
専従者への給料や外注先への報酬など
家族従業員は「専従者」と呼ばれ、一般の従業員とは区別が必要になります。この専従者に支払う給料にも「給料賃金」は使えません。青色申告の場合は、専従者への給与を「専従者給与」という勘定科目で経費計上します。白色申告の場合は、専従者への給与を一定額までなら控除できます。
外注などで外部へ支払う報酬は、給料賃金ではなく「外注工賃」で経費処理を行います。
天引きしたお金は「預り金」で処理 – 源泉徴収など
事業主が従業員に給料を支給する際には、給料の総支給額(額面の金額)から、税金などを差し引いて、残った金額を支給します。
差し引いたお金は「預り金」で処理する
従業員の給料から差し引いて預かったお金は、一旦「預り金」という勘定科目で処理します。このとき差し引くものは、主に所得税や住民税、雇用保険など。必要に応じて健康保険や厚生年金を徴収することもあります。そして、事業主は預かった税金や保険料などを、のちに従業員に代わって納めます。
「源泉所得税の納期の特例」を使えばまとめて納付ができる
事業主が給料から所得税を天引きすることを源泉徴収といいます。原則的に事業主は、毎月従業員から源泉徴収した所得税を、翌月の10日までに納付しなければいけません。しかし税務署に申請して「源泉徴収所得税の納期の特例」という制度を利用すれば、半年分ずつまとめて納付が可能となり、以下のように納付が年2回で済みます。
納付期限および特例の対象 – 源泉所得税の納期の特例
納付期限 |
|
---|---|
対象となる 源泉所得税 |
|
備考 | 外注先などへの報酬にかかる源泉所得税は対象外 |
給料賃金の仕訳例① 従業員に給料を支給するとき
従業員の給料30万円から、所得税6,000円、住民税18,000円、雇用保険1,000円を給料から差し引いて口座振込をする場合、仕訳例は以下のようになります(例示を簡略化するため、おおよその金額にしています)。
複式簿記の記帳例 – 支給するとき
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月25日 | 給料賃金 300,000 | 普通預金 275,000 | 山田太郎 5月分 給与 |
預り金 6,000 | 源泉所得税 | ||
預り金 18,000 | 住民税 | ||
預り金 1,000 | 雇用保険 |
借方には、税金などを差し引く前の総支給額を記入します。この30万円が「給料賃金」として経費計上できる金額です。また、給料から差し引いて預かったお金は、「預り金」で貸方に仕訳します。
青色申告65万円控除で節税を狙うなら「複式簿記」での仕訳が必須です。
個人事業でも、従業員を厚生年金・健康保険に加入させている場合は、給与の支払い時にそれらの折半額も「預り金」として同様の処理をします。
給料賃金の仕訳例② 預かった税金などを納付するとき
事業主は、給料から差し引いて預かった税金などを、従業員に代わって納めなくてはなりません。仕訳例①で預かった源泉所得税6,000円を、税務署に現金納付した場合の仕訳例は以下の通りです。
複式簿記の記帳例 – 納付するとき
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年6月5日 | 預り金 6,000 | 現金 6,000 | 5月分 源泉所得税 納付 |
住民税や雇用保険も同様で、納付する時に「預り金」を借方の列で帳簿づけします。
給料賃金と旅費交通費
通勤手当(通勤時の定期代など)や出張手当などは「給料賃金」には含めず、基本的に「旅費交通費」で処理します。「旅費交通費」は、移動にかかった費用や、出張時の宿泊費用などを処理する勘定科目です。
給料賃金 | 旅費交通費 | |
---|---|---|
主な具体例 |
|
|
消費税 | 不課税 | 課税 |
「給料賃金」と「旅費交通費」は消費税区分が異なります。これらの仕訳を間違えると、消費税の計算が正確に行えなくなるので気をつけましょう。
給料賃金と外注工賃
外注や業務委託の費用は、「給料賃金」ではなく「外注工賃」で処理します。「外注工賃」とは、外部の業者などに仕事を依頼したときにかかる費用を処理する勘定科目です。
給料賃金 | 外注工賃 | |
---|---|---|
支払う対象 |
|
外部の人 |
源泉徴収 | 必ず必要 | 場合によっては必要 |
消費税区分 | 不課税 | 課税 |
「給料賃金」の費用を「外注工賃」でつけてしまうと、「本来は必要だった源泉徴収をしそびれてしまった」などの問題が発生してしまいます。
給料賃金の確定申告 【収支内訳書・青色申告決算書】
従業員に給料を支払った個人事業主は、確定申告書類の「給料賃金の内訳」という項目に記入が必要です。
白色申告者は「収支内訳書」1ページ目に、青色申告者は「青色申告決算書」2ページ目に、該当部分があるので必要事項を記入しましょう。なおどちらの書類も記入する内容は同じです。
収支内訳書(白色申告) | 青色申告決算書(青色申告) |
---|---|
① 氏名・年齢・従事月数
従業員の氏名、年齢、その年に働いてもらった月数を記入します。1年間働いてもらった場合は「12」です。また「延べ従事月数」には、従業員全員分の従事月数の合計を記入します。
② その他( 人分)
従業員をたくさん雇っていて①に書ききれない場合は、ここに残りの従業員の情報を記入します。書ききれなかった分の従業員の人数と、その従業員分の従事月数の合計を記入しておきましょう。
例:「その他」の人数が、Aさん(12ヶ月勤務)・Bさん(3ヶ月勤務)の場合、人数は「2」従事月数は「15」と記入します。
③ 給料賃金
その従業員へ、会計期間中に支払った「給料賃金」の合計金額を記入します。ここに記入するのは「賞与」を含んでいない金額です。源泉徴収などを差し引く前の総支給額を記入します。
④ 賞与
その従業員に、1年間で支払った「賞与」の合計金額を記入します。「給料賃金」は含みません。②と同様に、総支給額を記入しましょう。
⑤ 合計
「給料賃金」と「賞与」の合計金額を記入します。
⑥ 所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額
所得税(復興特別所得税を含む)の源泉徴収した所得税額を記入します。
⑦ 計
給料賃金や賞与など、それぞれの縦枠の合計金額を、ここに記入していきます。
まとめ – 給料賃金の重要ポイント
「給料賃金」は、従業員に支給した、給料や残業代などを処理する勘定科目です。ただし、通勤手当などはこれに含まず、他の勘定科目を使います。
給料賃金に含めるもの | 給料賃金に含めないもの |
---|---|
|
|
※ あくまで一般的な使い分けを示しています
給料賃金のポイント
- 「給料賃金」は従業員やアルバイトの給料などを経費計上する勘定科目
- 基本的に消費税区分は「不課税」
- 通勤手当の部分は、旅費交通費として消費税区分「課税」で経費計上する
- 給料を支払う時には、税金や社会保険料を「預り金」として差し引く
- 「預り金」は後日、事業主が所定の方法で納付する
- 専従者への給与は「給料賃金」ではない
- 専従者への給与は、白色申告と青色申告で処理が異なる
従業員へ支給するお金には「旅費交通費」など、間違えやすい勘定科目があるので注意しましょう。また、外注扱いの費用や、専従者への給与も別の勘定科目で処理します。
給料賃金と間違えやすい勘定科目
あてはまる主な具体例 | |
---|---|
旅費交通費 | 通勤手当や出張手当など |
外注工賃 | 外注や業務委託にかかった費用 |
専従者給与 | 青色専従者に支払う給料 |
源泉徴収の有無や消費税の区分に関わるので、これらの勘定科目は正しく区別しましょう。なお「専従者給与」は、青色申告者が専従者に支払った給料を経費処理する勘定科目です。白色申告者の場合、専従者に支払う給料は経費にできません。