個人事業主・フリーランス向けに、自分や家族に給与を支払った際の仕訳方法を解説します。基本的に、自分や家族への給料は経費にできません。
目次
個人事業主の給与を整理!
個人事業主・フリーランスは、自分自身への給与を必要経費に計上できません。そもそも、個人事業主の取り分は「給与」という考え方をしません(税法上は「個人事業主が自分に給与を支給する」という行為そのものが存在しない)。
個人事業においては、事業の利益がすべて事業主の取り分とみなされます(事業収入 – 必要経費 = 事業所得)。「利益のうち〇〇円を自分の給与にする」というような会計処理は存在しないわけです。
家族や従業員へ支給する給与との違いを整理すると、以下のようになります。
① 自分への給与 | ② 家族への給与 | ③ 従業員の給与 |
---|---|---|
経費にできない | 条件を満たせば 経費にできる (専従者給与) |
経費にできる (給料賃金) |
家族に対して支払った給与も、基本的には経費にできない決まりになっています。ただし、家族がその事業に専従しているなどの一定要件を満たせば、経費として扱うことが可能です。これについて、詳しくは後ほど説明します。
① 自分への給与 ‐ 経費にできない
個人事業主の取り分を、帳簿上で必要経費として扱うことはできません。自分の生活費などについては、次のように考えます。
事業で得た収入を、自分の生活費としてプライベート用の口座に移動させたり、プライベート用に使ったりするときは、「事業主貸」という科目で帳簿づけしましょう。これは経費の科目ではなく、個人的用途の支出であることを示す科目です。
事業用の口座から生活費として30万円おろしたときの仕訳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月31日 | 事業主貸 300,000 | 普通預金 300,000 | 生活費 |
事業用のお金を私的な用途で使う場合、この「事業主貸」で記帳すれば、それっきりで処理は終了です。「事業主貸」という名称ですが、あとで事業用口座へお金を返したりする必要はありません(帳簿上でそのような返済の処理をする必要もありません)。
>> 事業主貸・事業主借を分かりやすく!
② 家族への給与 ‐ 条件付きで経費にできる
同じ家計で生活している家族への給与は、原則としては経費にできません。ただし、その家族が「専従者(せんじゅうしゃ)」に該当する場合のみ、特別な取り扱いが可能です。
青色申告者は、専従者に支給した金額を「専従者給与」として、すべて経費にできます。なお、この場合、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」などを税務署に提出しておかなくてはなりません。
青色申告者が専従者に8万円の給与を支給したときの仕訳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月25日 | 専従者給与 80,000 | 普通預金 80,000 | 妻 5月分 専従者給与 |
白色申告者は、専従者に給与を支給しても、そのままの金額を経費にはできません。ですが、一定の金額まで「専従者控除」を受けられます。
なお、白色申告者が帳簿を管理する都合などで、家族への給与額を帳簿につけておきたければ「事業主貸」の科目で記帳しましょう。
③ 従業員の給与 ‐ 経費にできる
個人事業主が従業員を雇った場合は、その給与を「給料賃金」の科目で必要経費に計上できます。
アルバイト代として5万円を支給したときの仕訳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月25日 | 給料賃金 50,000 | 普通預金 50,000 | 山田太郎 4月分 給与 |
原則としては、給与や専従者給与を支給する際、源泉徴収を行う必要があります。あらかじめ、従業員の所得税などを預かっておいて、あとで事業主が従業員の代わりに納付するということです。その場合、上記の例よりも複雑な仕訳が必要になります。
ただ、給与の支給金額が毎月88,000円未満で、かつ「扶養控除等申告書」を提出させる場合には、源泉徴収を行う必要はありません。上記の仕訳例は、この要件を満たしたときの仕訳です。
個人事業主の給与に関する疑問【Q&A】
- 個人事業主は自分に給与を払える?
- 個人事業主が自分に給与を支払うことはできません。正確に言うと、個人事業において「事業主自身の給与」という概念は存在しません。もちろん、自分への給与を経費にする、ということも不可能です。
- 事業収入の一部をプライベート口座に移してもいい?
- もちろん、事業口座からプライベート口座にお金を移しても全く問題ありません。その際は、移した金額を「事業主貸」の勘定科目で仕訳しておきましょう。
- 事業主貸とは?
- 事業主貸は、事業のお金を私的に使ったことを表す勘定科目です。必要経費の勘定科目ではありません。事業口座からプライベート口座にお金を移す際や、事業用カードで生活費を支払った際などに使います。
事業主借・事業主借について詳しく
- 子どもに払った給与も経費にできる?
- 15歳未満の子どもに支払った給与は経費にできません。税法上、家族従業員(専従者)として認められるのは15歳以上になってからです。
まとめ
個人事業で得た収入を、自分の生活費として取り分ける場合、必要経費にはできません。帳簿をつける際は「事業主貸」の科目で記帳します。
生計をともにしている家族が事業を手伝ってくれているケースもあるでしょう。このような身内への給与も、個人事業では特別な扱いをします。一定の要件を満たせば経費にすることができますが、一般的な従業員への給与とは異なるものとして考えます。
① 自分への給与 | ② 家族への給与 | ③ 従業員の給与 |
---|---|---|
経費にできない | 要件を満たせば経費にできる (専従者給与) |
経費にできる (給料賃金) |
家族ではない従業員に支払った給与については、もちろん「給料賃金」として経費にできます。