個人事業主が家族に対して給与を支払っても、普通は経費に計上できません。しかし、青色申告をしている個人事業主は、要件を満たすことでその全額を「専従者給与」として経費計上できます。
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目次
専従者給与とは
家族に個人事業を手伝ってもらい、給与・賞与を支払っても、原則的には経費計上できません。しかし青色申告者の場合は、以下の条件をどちらも満たすことで、「専従者給与」の勘定科目で必要経費にできます。消費税区分は不課税(通勤手当のみ課税)です。
- 個人事業主に雇われる家族(正確には親族)が「青色事業専従者」に当てはまる
- 個人事業主が所定の届出書(2種類)を提出している
※ただし、不動産所得の場合は「事業的規模」であること
親族とは、厳密には6親等以内の血族(事業主本人と血の繋がりがある人)と配偶者、3親等以内の姻族(事業主の配偶者と血の繋がりがある人)のことをいいます。この記事では、わかりやすく「家族」とします。
なお、不動産所得については、その貸し付け業務が「事業的規模」に満たないときは、青色申告者であっても専従者給与の経費計上はできません。一般的には、マンションを10部屋くらい貸せる状態であれば、事業的規模とみなされることが多いです(形式基準)。
>> 「事業的規模」と「事業所得であること」は異なる!不動産所得の基本
青色事業専従者の要件
以下の3つの要件をすべて満たす家族のことを、「青色事業専従者」といいます。たんに「青色専従者」と呼ぶこともあります。
- 青色申告者と「生計を一に」する親族
- その年の12月31日時点で、「満15才以上」である
- 従事可能な期間の半分を超えて「専ら(もっぱら)従事」している
たとえば、「青色申告者と同じ家で生活していて、週5日で毎日8時間ずつ個人事業の手伝いに専念してくれている18才の息子」は、上記の条件をすべて満たしているので、青色事業専従者として認められます。
「生計を一にする」(=同一生計)
- 同じ家で生活している家族(明らかに独立して生計を立てている家族を除く)
- 別々に住んでいるが、事業主からの仕送りで生活が成り立っている家族
「専ら従事する」
- その事業を本業として、専念して働いている家族
- 他の仕事や学業がない家族
ちなみに、「専ら従事」の条件にある「従事可能な期間」とは、その事業が営まれている期間を指します。たとえば、夏季限定で4ヶ月間だけやっている店の場合、2ヶ月を超えて専ら従事していれば、「専ら従事」の条件はクリアです。
青色事業専従者の要件に当てはまらない場合
青色事業専従者の要件に当てはまらない場合は、「専従者給与」として経費計上できません。当てはまるかどうか微妙なケースでは、税務署が個別の状況に応じて判断するので、心配な事業者は事前に税務署の窓口で相談してください。
通常の従業員として雇う場合
15才以上の親族であっても、生計を一にしていない場合は、青色専従者の条件から外れます。しかし、通常の従業員として雇うことは可能なので、その給与は「給料賃金」として経費にできます。この場合、労働基準法で保護される「労働者」扱いになります。
たとえば、自分の父親と二世帯住宅で暮らし、それぞれ独立して生計を立てている場合は、生計を一にしていることになりません。この父親に事業を手伝ってもらい、その給与を経費にしたいならば、通常の従業員として雇う必要があります。
まったく経費にできない場合 – ただのお手伝い
生計を一にする親族であっても、15才に満たなかったり、専ら従事している期間が足りなかったりすると、専従者給与として経費にはできません。報酬を支払っても、ただの「おこづかい」とみなされ、必要経費にはできないということです。
たとえば、年間を通じて6ヶ月間だけお店を開いている場合、専ら従事すべき期間は3ヶ月超です。事業主からの仕送りで生活している大学生の息子が、夏休みの2ヶ月間だけこのお店でバイトに専念しても、そのバイト代は経費にできません。
家族を青色専従者として扱うための手続き
初めて青色専従者として扱う、または青色専従者が増えるなどの変更があるときは、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出します。この提出期限は、「青色申告承認申請書」と同じです。年の途中で雇い始める場合は、とくに注意してください。
さらに、通常の従業員を雇用するときと同様に、「給与支払事務所等の開設届出書」も税務署へ提出しなければなりません。期限は、初めて従業員を雇うことになった日から1ヶ月以内です。2人目以降は提出しなくてOKです。
ちなみに「事業専従者控除」は、白色申告者だけが利用できる制度です。青色申告者が専従者の恩恵を受けたければ、必ず上記の手続きが要ります。と言っても、どちらもA4用紙1枚で、記入も10分程度で済みます。
確定申告書類への記入方法 – 青色申告決算書と確定申告書
確定申告の際、記入が必要なのは以下の4ヶ所です。
① 青色申告決算書(1枚目)
・専従者給与……給与として支給した金額を、右詰めで記入
② 青色申告決算書(2枚目)
- 続柄……事業者本人との関係を記入 (例) 父、妻、子
- 年齢……12月31日時点での満年齢
- 従事月数……(例) 6月から12月まで働いた場合は、7ヶ月
- 支給額……給料と賞与を区別して記入
- 延べ従事月数……専従者全員分の合計月数
ここでいう「源泉徴収税額」とは、専従者が負担する所得税を、専従者給与から天引きして納税した金額のことです。専従者給与として月88,000円以上支給する場合は、この源泉徴収が必要になります。
③ 確定申告書(1枚目)
・専従者給与(控除)額の合計額……給与として支給した金額を、右詰めで記入
④ 確定申告書(2枚目)
- 個人番号……マイナンバーのこと
- 従事月数・程度・仕事の内容……(例) 9ヶ月、1日7時間、販売
専従者給与の適正額 -「労務の対価として相当」とは
専従者給与に上限の定めはありませんが、注意したいのは、税務署が「給与として不相応な金額」と判断した場合、その部分については必要経費にできないということです。所得税法では、「専従者だけ特別待遇にはできないよ」と、次のように釘が刺されています。
- 従事した期間、業務内容、業務量、拘束時間に見合った額
- 事業の規模、業績に見合った額
- 同種・同規模の仕事を行う一般労働者と同程度の額
ちなみに一般的には、月80,000円ぐらいに落ち着くことが多いです。多く支給すれば、その分経費を増やせますが、事務的な負担も増えます。とくに、月88,000円以上支給すると所得税の源泉徴収が必要になります。
青色専従者給与と配偶者控除・扶養控除の比較
専従者は、配偶者控除・扶養控除の対象になりません。専従者扱いすることで、かえって損になることもあります。配偶者控除・扶養控除は、条件により控除額が異なるので、下表を参考にしてください。
配偶者控除 | 扶養控除 |
---|---|
納税者の所得によって控除額が決まる | 扶養親族の年齢などで控除額が決まる |
1,000万円超:控除なし 950万円~1,000万円:13万円控除 900万円~950万円:26万円控除 900万円以下:38万円控除 |
70才以上の同居老親:58万円控除 70才以上:48万円控除 19才~23歳:63万円控除 16才~19歳:38万円控除 |
(配偶者控除の「~」は「超 ~ 以下」。扶養控除の「~」は「以上 ~ 未満」)
配偶者控除・扶養控除で充分にメリットが得られる事業者は、あえて専従者の届出をしないという選択もできます。専従者給与と配偶者控除・扶養控除を比べて、どちらが得になるか計算してみてください。
専従者給与 | 配偶者控除・扶養控除 |
---|---|
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専従者給与 4つの注意点
- 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要
- 月88,000円以上支給する場合は、所得税の源泉徴収が必要になる
- 給与を支給した分、専従者の所得が増え、専従者の税金が高くなる
- 不相応な金額の場合、一部必要経費に認められないことがある
専従者給与の仕訳例
青色事業専従者である妻に、10万円の給与を現金で支給した場合、以下のように記帳します。源泉徴収する場合は、その天引き分を「預り金」としておきます。ここでは数字をわかりやすくするため、実際の源泉徴収税額に近い数字で表記します。
複式簿記の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月25日 | 専従者給与 100,000 | 現金 99,000 | 妻 5月分 専従者給与 |
預り金 1,000 | 源泉所得税 |
青色申告55万円控除や65万円控除をねらう事業者のみ、複式簿記で記帳する必要があります。青色申告10万円控除の事業者は、以下のように単式簿記で記帳して構いません。
単式簿記の記帳例
日付 | 預り金 | 専従者給与 | 現金残高 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
3,300,000 | ||||
20XX年 5月25日 |
-100,000 | 3,200,000 | 妻 5月分 専従者給与 |
|
+1,000 | 3,201,000 | 源泉所得税 (預かり) |
なお、白色事業専従者に給与を支給しても、そのまま経費にはできないので、上記のような記帳は不要です。お金の出入りを管理するには、現金出納帳や預金出納帳などを活用しましょう。
まとめ – 専従者給与の重要ポイント
青色申告者の家族従業員が、事業専従者の3つの条件にすべて当てはまり、かつ事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していれば、「専従者給与」を支給し、その全額を必要経費にできます。
事業専従者の3つの条件
専従者の条件を満たさない場合、同一生計の親族は「ただの家庭内のお手伝い」とみなされ、給与を支給しても必要経費にはできません。生計を一にしていない親族を雇う際は、通常の従業員として扱い、給与は「給料賃金」として経費にできます。
青色専従者給与のポイント
- 消費税区分は不課税(通勤手当のみ課税)
- 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出
- 「給与支払事務所等の開設届出書」を一ヶ月以内に税務署へ提出(初回のみ)
- 月88,000円以上支給する場合は、所得税の源泉徴収が必要になる
- 給与として不相応な金額の場合、必要経費として認められないことがある
専従者給与として経費計上する場合、配偶者控除・扶養控除と併用できません。状況によって、専従者扱いはせずに、配偶者控除・扶養控除を受けたほうがよい場合もあります。