個人事業の「修繕費」についてまとめました。「修繕費」は減価償却が必要な「資本的支出」と判断が難しい勘定科目です。ここでは、修理や改良の費用を仕訳する際のポイントや、具体的な仕訳例などを紹介します。
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目次
「修繕費」とは
「修繕費」とは、固定資産(高額で、長期間にわたって使用するもの)を修理・改良したときの費用を指す勘定科目。壊れたパソコンや事業用自動車などの修理代は、「修繕費」として経費に計上できます。消費税区分は「課税」です。
実際の修理費用だけでなく、修理に必要な物品の購入費用や、業者によるメンテナンス料(保守料)なども「修繕費」に該当します。20万円未満の少額なものなら、改良にかかった費用も「修繕費」で処理できます(詳しくは後述)。
電球や電池など、使用期間が短くて低価格のものは「消耗品費」という勘定科目で計上することが多いです。ただ、厳密な区別は求められていないので、一貫性のある勘定科目で毎年処理をしていけばOKです。
「資本的支出」とは – 「修繕費」との違い
「修繕費」を考える上では「資本的支出」との区別が重要になります。「資本的支出」とは、固定資産に新たな価値を加えたり、使用できる期間(耐用年数)を伸ばした際にかかる費用を指します。これは勘定科目の名称ではなく、費用の性質を表している言葉です。
「修繕費」として仕訳をした費用は、すべての金額を経費として計上できます。一方「資本的支出」は減価償却をすることになり、毎年少しずつ経費計上していきます。
「減価償却」をざっくり説明すると「何年にもわたって使用するもの(固定資産)を、定められた年数に従って毎年少しずつ経費として計上していく」というものです。
修繕費を判定するポイント – 形式基準など
実務において、比較的少額だったり、修繕の周期が短かったりする修理・改良の費用は「修繕費」で仕訳をします。以下の基準どちらかに該当すれば「修繕費」でOKです。
- 20万円未満である
- 3年以内の周期で修繕する必要がある
2つ目の「3年以内の周期で修繕する必要がある」とは、「修繕の頻度が高い」ということです。たとえば、パンクしたタイヤの交換費用などが該当します。サマータイヤからスタッドレスタイヤ(雪道用)に交換する費用も「修繕費」です。
「形式基準」に該当すれば修繕費 – どちらか明確でない場合
修理と改良を同時に行った場合など、「修繕費」か「資本的支出」か明らかではないときは、以下の「形式基準」で判定します。いずれかに当てはまる費用は、「修繕費」として扱うことができます。
- 60万円未満である
- 固定資産の前期末における取得価額の約10%相当額以下である
「前期末における取得価額」は、「原始取得価額+前期末までに支出した資本的支出の額」で算出します。購入してから全く修理などをしていないのであれば、つまり「購入時の取得価額」ということです。
この場合はどっち? – フローチャートでかんたん判定
とにかく簡単に「修繕費」と「資本的支出」どちらに該当するのか知りたい!という方は、このフローチャートを参考にしてみてください。
これはあくまでも簡易チャートです。災害によって壊れたものを修理した場合など、複雑なケースには当てはまらないことがあります。
「修繕費」と「資本的支出」の判定ラインは曖昧 – 証拠を残す
修理・改良にかかった費用が「修繕費」なのか「資本的支出」なのかを判断するのは非常に難しく、税務調査の際には慎重なチェックが入ります。
費用が数百万円など、高額な場合でも「修繕費」として認めてもらえることがあります。判定の際、重要なのは価格ではなく、その実質で判断されるのです。
修理前と修理後の証拠を残しておく
固定資産を修理に出す際は、修理前と修理後を写真に撮っておきましょう。税務調査が入った際に、証拠として提出できます。
仕訳例① 修繕費の記帳例
「事業用車(軽自動車)のエンジンが故障したので新しいもの(50万円)と交換した。」場合、この支出は「修繕費」の対象です。以下のように仕訳をします。
複式簿記の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年1月10日 | 修繕費 500,000 |
普通預金 500,000 |
エンジン修理代 |
確定申告の際に青色申告65万円・55万円控除をねらうなら、上記の「複式簿記」の形式で帳簿づけをします。ちなみに「単式簿記」の記帳例は、下記のとおりです。
単式簿記の記帳例
日付 | 修繕費 | 摘要 |
---|---|---|
20XX年1月10日 | 500,000 | エンジン修理代 |
仕訳例② 資本的支出の記帳例 – 減価償却
「資本的支出」を記帳する際、まずは修理などの費用を支払ったときに「車両運搬具」「工具器具備品」「機械装置」など、固定資産の勘定科目で仕訳をしておきます。そして、その年の年末に減価償却費の計上を行うというのが「減価償却」の流れです。
「事業用車(軽自動車)のエンジンが故障したので、より高性能なエンジン(72万円)に交換した」場合は「資本的支出」に該当するので、一旦「車両運搬具」の勘定科目で処理をします。
業者に修理代を支払ったときの記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
2023年1月10日 | 車両運搬具 720,000 |
普通預金 720,000 |
エンジン購入代 |
そして、年末に減価償却費を法定耐用年数(軽自動車の場合は4年)に合わせて計算していきます。この場合、72万円を4年にわたって少しずつ「減価償却費」として経費計上していきます。
その年の減価償却費を計算する式(定額法)
取得価額とは、支払ったときの金額のことを指します。償却率は耐用年数によって定められています。今回は耐用年数4年のものなので、償却率は0.25%です。この式に数字を当てはめていきます。
- 72万円 × 0.25% ÷ 12 ×12ヵ月 = 18万円
2023年度分の減価償却費(経費に計上できる分)は18万円ということです。算出した金額を、年度末(個人事業の場合は12月31日)に帳簿づけします。
【年度末】減価償却費を計上する際の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
2023年12月31日 | 減価償却費 180,000 |
車両運搬具 180,000 |
エンジンの減価償却 |
そして翌年以降も同様に減価償却費を計算していきます。
【翌年度】減価償却費を計上する際の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
2024年12月31日 | 減価償却費 180,000 |
車両運搬具 180,000 |
エンジンの減価償却 |
購入時の減価償却費が残っている場合 – 資本的支出
場合によっては、固定資産を購入したときの減価償却が残っていながらも、その固定資産の改良費用(資本的支出)を減価償却することがあります。この場合、「購入費用の減価償却」と「資本的支出の減価償却」2つをそれぞれ分けて考えます。
軽自動車にカーナビ(32万円)を取りつけた場合
たとえば、事業専用の軽自動車を2023年に購入したとします。軽自動車(小型車)の耐用年数は4年なので、購入費用を2023年から2026年の間、少しずつ経費にしていきます(減価償却)。
そんななか、2025年に埋め込みタイプのカーナビ(32万円)を取りつけました。この場合、カーナビの購入費用は「資本的支出」の対象です。そのため、2025年から4年かけて減価償却をしていきます(資本的支出でも法定耐用年数は同じ)。
「自動車の購入費用」と「カーナビの購入費用(資本的支出)」2つの費用をそれぞれ別物と捉えて、減価償却していくというわけです。上記のように同じ「減価償却費」でも、購入費用と資本的支出は分けて処理をします。
修繕費の重要ポイントまとめ
「修繕費」は、固定資産を修理・改良したときの費用を指します。基本的に、20万円未満のものであれば、修理だけでなく改良をした場合でも「修繕費」として経費に計上できます。
修繕費のポイント
- 基本的に消費税区分は「課税」
- 実際の修理費用だけでなく、修理に使う部品やメンテナンス料も「修繕費」
- 修理に出す際は、修理前と修理後の写真を残しておくと◎
- 20万円未満 or 3年以内に修繕する場合は「修繕費」
- 「資本的支出」と曖昧な場合は、形式基準で判断する
「修繕費」に仕分けした費用は、金額のすべてをその年の経費に計上できますが、その支出が「資本的支出」に該当する場合は、減価償却をしなくてはなりません。
「資本的支出」は、固定資産に対して明らかに機能をプラスしたり、耐用年数を伸ばしたりするような修繕の費用を指します。
資本的支出のポイント
- 固定資産の価値を高める修繕の費用は「資本的支出」
- 「修繕費」との区別は、その実質において判断される
- 減価償却をする(全額をその年の経費にできない)
たとえば、事業用の自動車にドライブレコーダー(2万円)を取りつけた際の購入費用は、基本的に「修繕費」として判断されます。金額が大きくないですし、ドライブレコーダーを設置した程度では固有資産の価値が高められたとは考えにくいからです。
一方、「自動車のエンジンが壊れたので、ついでに高性能なエンジンと交換した」といった場合は、明らかに固有資産の価値が高まっているので「資本的支出」と判断される可能性が高いです。