個人事業特有の勘定科目「事業主貸(じぎょうぬしかし)」と「事業主借(じぎょうぬしかり)」について、概要や複式簿記での記帳例をまとめました。名称が似ていてややこしいですが、きちんと使い分けて帳簿づけを行う必要があります。
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目次
事業主貸・事業主借とは?
「事業主貸」と「事業主借」は個人事業に特有の勘定科目です。個人事業の場合、事業用の資金と普段の生活で使うプライベートなお金を混同しがちです。これを区別するための手段として「事業主貸」「事業主借」の勘定科目があります。
事業主貸(じぎょうぬしかし) | 事業主借(じぎょうぬしかり) |
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どうして事業主貸・事業主借を使うのか
個人事業主は、事業主本人の生活用のお金を事業用口座にいれたり、事業資金を事業主個人としての支出に利用することがあります。このような、公私をまたぐお金の流れを示す手段として「事業主貸」と「事業主借」を用いることになっています。
名称に「貸」や「借」という漢字が使われていますが、比喩のようなものです。どちらの場合も、実際にお金を返す必要はありません。
事業主貸と事業主借は毎年「元入金」に集約される
毎年、期首(個人事業の場合は基本1月1日)になると、「事業主貸」と「事業主借」の金額はゼロにリセットされます。これは、年をまたぐときに「事業主貸」と「事業主借」が「元入金」という勘定科目にまとめられるからです。
なお「元入金」とは、事業のために用意している資金を表します(法人における「資本金」のようなもの)。
事業主貸について
事業用の資金を、生活費などプライベートな支出に使ったとき「事業主貸」の勘定科目で帳簿づけをします。「事業主本人に資金を貸している」ので「事業主貸」というわけです。
「事業主貸」で帳簿づけする主なタイミング
- 事業用の資金から事業主本人の生活費を支払ったとき
- 事業用の資金から個人を対象にした税金や保険関係の費用を支払ったとき
- 家事按分をしたとき
税金なども、個人を対象にしたもの(経費として扱えない)を事業用口座から支払った場合は「事業主貸」で処理をします。具体的には、所得税や住民税などが該当します。
また、自宅で仕事をしている場合の家賃などを按分したときは、家事使用分(経費にならないプライベートな部分)を「事業主貸」で記帳します。
事業主貸の仕訳例① – 私的な税金を納めるとき
税金や保険関係の費用は、所得税や住民税など事業主本人に関わる支出であれば「事業主貸」で処理をします。一方、個人事業税や事業用車両の自動車税といった事業に必要な費用は、必要経費としての計上が可能です。その際は「租税公課」などの勘定科目で帳簿づけをします。
たとえば、所得税10万円を事業用口座から納めた場合、以下のように帳簿づけします。
所得税を事業用口座から納付した場合
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
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20XX年4月21日 | 事業主貸 100,000 | 普通預金 100,000 | 所得税納付 |
税金や保険関係の費用について、事業主貸として処理するものと、必要経費として扱えるものは下記のとおりです。所得税や年金など、経費として扱えない個人的な支出は「事業主貸」で記帳します。
事業主貸として処理する主な支出 (プライベートな費用) |
必要経費に計上できる主な支出 (事業に必要な費用) |
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事業主貸の仕訳例② – 自宅兼事務所の家賃を家事按分するとき
自宅兼事務所の家賃など、事業とプライベート両方の側面をもっている費用は、家事按分して事業用の分だけを必要経費に計上します。必要経費として扱えないプライベートな分は「事業主貸」で記帳します。
自宅兼事務所の家賃10万円を、事業用の口座から支払う場合を例に挙げます。按分比率(事業用の割合)が30%なら、3万円を「地代家賃」として計上します。そして、残りの7万円は「事業主貸」で帳簿づけします。
家賃を事業用口座から支払った場合(按分比率:30%)
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
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20XX年5月25日 | 地代家賃 30,000 | 普通預金 100,000 | 6月分の家賃 |
事業主貸 70,000 | 家事使用分 |
事業主借について
事業主の個人的なお金を、事業に関する支払いに使ったとき「事業主借」の勘定科目を使います。「事業主本人から事業用にお金を借りている」ので、「事業主借」です。
「事業主借」で帳簿づけする主なタイミング
- 事業主の個人的なお金で、事業に必要なものを購入したとき
- 事業主の個人的なお金を、事業用口座に振り込んだとき
- 事業用口座の預金に利息がついたとき
事業で使う事務用品の購入費用を、プライベートな個人用の口座から振り込んだ場合などに、「事業主借」を使います。
事業主借の仕訳例① – 事業用口座に個人のお金を預金するとき
個人的なお金(現金や預金)を事業用の口座に振り込んだ場合は「事業主本人からお金を借りる」ということで、「事業主借」で処理をします。
たとえば、事業用口座の残高が少なくなってきたので、生活用にとっておいた10万円を事業用口座に振り込んだ場合は、このように帳簿づけします。
事業用口座にプライベートのお金10万円を預金した場合
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月1日 | 普通預金 100,000 | 事業主借 100,000 | 預金預入 |
事業主借の仕訳例② – 事業用の預金に利息がついたとき
事業用口座に銀行から預金利息を振り込まれた場合は「事業主借」で仕訳をします。預金利息は、あらかじめ税金が差し引かれて振り込まれることになっているので、事業の収入としてカウントしません(事業の収入としてカウントすると、二重で税金がとられることになる)。そのため、個人事業では「事業主借」で帳簿づけをします。
仕訳例は以下のとおりです。通帳と帳簿の預金残高を合わせる必要があるので、小さな金額であってもきちんと記帳しておかなくてはいけません。
銀行利息100円が事業用口座に入金された場合
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月20日 | 普通預金 100 | 事業主借 100 | 預金利息 |
ちなみに、法人の場合は「受取利息」という勘定科目で仕訳をします。個人事業の場合「受取利息」ではなく「事業主借」を使うので気をつけましょう。
まとめ – 事業主貸と事業主借
個人事業は法人とは違って、事業用の資金とプライベート用のお金の区別があいまいになりがちです。公私をまたぐお金の流れについては、「事業主貸」と「事業主借」の勘定科目を用いて記帳しましょう。
事業主貸(じぎょうぬしかし) | 事業主借(じぎょうぬしかり) |
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「事業主貸」と「事業主借」には「貸」や「借」という漢字が使われていますが、実際にお金を返す必要はありません。
事業主貸のポイント
- 事業用の資金を、プライベートな支出に使ったときは「事業主貸」で処理する
- 経費を家事按分した場合は、プライベートな部分を「事業主貸」で記帳
プライベート用スマホの通信料金や、所得税や住民税といった、事業主本人に関する個人的な支出を事業用のお金から支払ったときは「事業主貸」を使います。ざっくりいえば、「経費として扱えない費用を、事業用資金から支払ったときに使うのが事業主貸」ということです。
事業主借のポイント
- プライベートなお金を、事業の支出に使ったときは「事業主借」で処理する
- 生活用のお金を、事業用口座に補填したときは「事業主借」で記帳
事業用口座の残高が足りなくなったとき、生活費で補充したら「事業主借」を用いて帳簿づけします。事業で必要なものを購入するときに個人用クレジットカードで支払ったときも同様です。