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必要経費の記帳例 – 個人事業主の仕訳を分かりやすく

更新日: 2024/04/26
必要経費の記帳例 – 個人事業主の仕訳を分かりやすく

本記事では、必要経費の記帳方法をパターン別に解説しています。複式簿記の仕訳例に加えて、会計ソフトでの入力例も紹介します。青色申告で55万円控除・65万円控除をねらう個人事業主は、ぜひ参考にしてみてください。

INDEX

目次

    記帳は漏れなく正確に!

    個人事業の「必要経費」とは、ざっくり言うと「事業のために必要な支出」のことです。確定申告において、税金の計算は下図のように行います。

    所得税算出のおおまかな流れ(必要経費)

    所得(収入 - 必要経費)を低くおさえることができれば、税金もその分少なく済むわけです。余計な税金を払わないためにも、必要経費の記帳を正確に行い、漏れなく申告することが重要です。

    必要経費とは?
    個人事業において、事業で収入を得るために必要な支出を「必要経費」という。単に「経費」と呼ぶ場合も。売上に直結する仕入金額などはもちろんのこと、事業運営に必要なその他の費用(旅費交通費や接待交際費など)も経費にできる。

    すべての個人事業主には「帳簿づけ(記帳)」と、その根拠となる「書類の保存」が義務付けられています。この帳簿には、収入や経費に関する事項を必ず記帳しなくてはなりません。本記事では、必要経費の記帳方法を、具体例を用いてわかりやすく説明します。
    >> 帳簿づけと書類の保存期間について

    基本の仕訳例

    取引先への移動に、5,000円のタクシー代がかかり、現金で支払ったとします。これを必要経費に計上する場合は、「旅費交通費」という経費の勘定科目を用いて、以下のように仕訳をします。

    複式簿記」では、以下のように、ひとつの取引を「借方」と「貸方」にわけて記録します。この複式簿記による帳簿づけのことを「仕訳」と呼びます。複式簿記による帳簿づけは、55万円・65万円の青色申告特別控除を受ける要件になっています。

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年5月20日 旅費交通費 5,000 現金 5,000 タクシー代
    自宅~〇〇社

    このように、経費が発生したときは、その金額と勘定科目を「借方(かりかた)」のほうに記入します。さらに、今回の例は現金での支払いなので、同じ行の「貸方(かしかた)」には、その金額と「現金」という勘定科目を記入しておきます。
    >> 借方・貸方の詳細はこちら

    「日付」は、基本的には支払った日付でOKです。ただし、年末年始時期の支払いや、10万円以上する備品の購入などは、必ずしもこの限りではないので要注意です(記事後半で少し紹介します)。

    「摘要(てきよう)」は、その他の重要事項を記載する欄です。交通費の例で言えば、「どこからどこまで、どんな目的・手段で移動したか」のような内容を記入します。

    会計ソフトによる帳簿づけ例

    基本の取引入力画面(やよいの青色申告)

    やよいの青色申告 オンライン」の帳簿づけ画面

    青色申告対応のソフトなら、上図のような項目を入力するだけで、自動的に複式簿記の形式に変換してくれます。したがって、借方・貸方のような専門用語にまどわされることなく、会計初心者でもカンタンに複式簿記で帳簿作成ができます。

    発展① 私用でも使っているものの仕訳例

    事業と生活上の両方で必要な支出については、事業用の割合に応じた金額を経費計上することができます。これを俗に「家事按分(かじあんぶん)」といいます。たとえば自宅兼事業所において、下図の状態なら、家賃の30%を経費計上できます。

    家事按分の考え方(地代家賃の場合)

    自宅兼事業所の家賃が月10万円で、うち事業用の割合が30%なら、以下のように仕訳をします。事業用の家賃を経費計上する際は、一般的に「地代家賃」の勘定科目を用います。

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年6月27日 地代家賃 30,000 普通預金 100,000 家賃 7月分
    事業用30%
    事業主貸 70,000 家事使用分

    事業用の普通預金口座から引き落とされた場合

    事業主貸」は、お金の流れを示すための勘定科目で、事業用から生活用へお金が流れたときに使用します。このように2行に分けて仕訳をすれば、口座から引き落とされた10万円の内訳が、きちんと漏れなく記帳できるわけです(複合仕訳)。

    家事按分には明確な根拠が必要!

    「事業にも使っているから」というだけでは、家事按分の根拠としては不十分です。事業に必要な部分を「明らかに区分」できる場合のみ、家事按分が可能です。区分のしかたについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
    >> どんな支出が家事按分の対象になるの?具体例でわかりやすく解説!

    会計ソフトによる帳簿づけ例

    按分割合の入力画面(やよいの青色申告)

    家事按分の設定画面 – やよいの青色申告 オンライン

    一般的な会計ソフトの場合、確定申告書類を作成するときの一連の流れで、上図のように家事按分の割合を設定できます。この機能を使えば、家賃を支払うたびにいちいち按分の仕訳をする必要がなく、年一回のカンタンな作業で家事按分の計算が完了します。

    発展② 10万円以上の備品などの仕訳例

    事業用に購入した備品などは、10万円未満ならそのまま経費計上できます。しかし、10万円以上だと、原則的には複数年に分けて経費計上しなくてはなりません(減価償却)。

    たとえば、テレビを店舗に設置するために、15万円で買ったとします。これを上記の原則に当てはめて考えると、下図のようになります(テレビは5年に分けて経費計上するよう、法律で決められている)。

    減価償却資産の考え方(具体例)

    さらに、上図の考え方に沿って記帳すると、次のような仕訳となります。まず、購入した日付で、購入額15万円を「工具器具備品」という資産の勘定科目で仕訳しておきます。

    日付 借方 貸方 摘要
    2024年1月20日 工具器具備品
    150,000
    現金
    150,000
    店舗用テレビ

    次に、年末になったら「減価償却費」という経費の勘定科目で、以下のように仕訳します。これで15万円のうち、3万円分だけ経費計上できたことになります。基本的には、これを5年にわたって繰り返せば、最終的には15万円全額が経費計上されることになります。

    日付 借方 貸方 摘要
    2024年12月31日 減価償却費
    30,000
    工具器具備品
    30,000
    店舗用テレビの償却


    2025年12月31日 減価償却費
    30,000
    工具器具備品
    30,000
    店舗用テレビの償却


    なお、今回は例示をシンプルにするため、1月に購入したケースを紹介しました。年の途中に購入した場合は、月割計算も必要となるので、その分さらに計算が細かくなります。
    >> 減価償却資産の仕訳方法をもっと詳しく解説

    会計ソフトによる帳簿づけ例

    減価償却資産の入力画面(やよいの青色申告)

    減価償却資産の設定画面(やよいの青色申告 オンライン)

    年末に行う「減価償却費」の仕訳は、会計ソフトが自動的に行ってくれます。購入した備品の情報を、上図のようにあらかじめ登録しておくだけでOKです。登録さえしておけば、翌年、翌々年と、ずっと自動で処理を続けてくれるので便利です。

    発展③ 使いきれなかったものの仕訳例

    通常、宣伝用のチラシを購入して経費計上する際は、「広告宣伝費」の勘定科目で以下のように記帳します。

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年6月1日 広告宣伝費 30,000 現金 30,000 チラシ

    この数量が通常の年に比べて特に増えた場合、それを消費しないかぎり、原則としては購入した年の経費にできません。

    引用

    消耗品その他これに準ずる棚卸資産の取得に要した費用の額は、当該棚卸資産を消費した日の属する年分の必要経費に算入するのであるが、その者が、事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これらに準ずる棚卸資産(各年ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限る。)の取得に要した費用の額を継続してその取得をした日の属する年分の必要経費に算入している場合には、これを認める。

    (消耗品費等)37-30の3 – 国税庁

    たとえば「今年は利益がたくさん出そうだから」と、汎用的なチラシ50万円分を年末に発注したとします。しかし、このチラシを全く配らないまま年を越した場合は、「貯蔵品」という資産の勘定科目を用いて、以下のような仕訳が必要です。

    日付 借方 貸方 摘要
    2024年12月1日 広告宣伝費 500,000 現金 500,000 チラシの購入


    2024年12月31日 貯蔵品 500,000 広告宣伝費 500,000 チラシの在庫

    本例ではチラシを大量購入したものの、その年には全く使っていませんから、原則として当年分の経費としては計上できません。そこで、いったん資産に振り替える仕訳が必要なのです。

    翌年に無事チラシを配り終えたら、たとえば下記のように仕訳をします。

    日付 借方 貸方 摘要
    2025年12月31日 広告宣伝費 500,000 貯蔵品 500,000 チラシ代の計上

    これで、今回のチラシ代は当年分ではなく翌年分の経費として計上されます。もし仮に、購入したチラシの半分だけ配ったのなら、半分だけ振り替えの仕訳をします。残りは翌年以降に持ち越されます。

    会計ソフトによる帳簿づけ例

    貯蔵品の仕訳入力画面(やよいの青色申告)

    やよいの青色申告 オンライン」の仕訳入力画面
    ※「貯蔵品」の勘定科目は、「設定メニュー > 科目の設定」の「流動資産」タブで作成する

    会計ソフトを使っても、「貯蔵品」に関しては特殊な作業が必要になります。たとえば「やよいの青色申告 オンライン」の場合、上図のような複式簿記形式の画面に移動した上で、仕訳を直接入力する必要があります。この手間は、どのソフトでも大体同じです。

    発展④ 年をまたぐ取引の仕訳例

    代金の支払いが先に済んでいて、その対価(商品やサービス)を受け取るのが翌年以降になる場合は注意しましょう。このような場合、代金の支払い時点で経費計上をするわけではありません。

    年をまたぐ取引の経費計上時期(前払金)

    たとえば、新幹線で取引先へ行くために、前もって12月末に切符を購入し、翌年の1月4日に乗車したとします。この切符代は、上記の原則にしたがって以下のように仕訳を行い、翌年分の経費としなくてはなりません(当年分の経費にはできないということ)。

    日付 借方 貸方 摘要
    2023年12月28日 前払金 30,000 現金 30,000 〇〇~△△駅 往復
    □□社・打合せ
    新幹線代
    2024年1月4日 旅費交通費 30,000 前払金 30,000 〇〇~△△駅 往復
    □□社・打合せ
    新幹線代

    なお、当年の経費にできないとはいえ、新幹線代を支払った事実は、きちんと帳簿に記録しなくてはなりません(発生主義)。したがって、上記のように12月28日の日付でも「前払金」などの勘定科目で仕訳をする必要があるのです。

    ちなみに、この「前払金」は資産に含まれる勘定科目です。今回の前払金は、新幹線を利用する権利という意味で、資産なのです。

    このような込み入った仕訳が必要になるのは、本例のように年をまたぐ特殊な場合です。税額計算は年単位(1月1日~12月31日)で行うので、年をまたがない取引なら支払った日付で経費計上しても、通常は問題ありません。
    >> 発生主義とは?現金主義との違い

    会計ソフトによる帳簿づけ例

    年をまたいだ場合の仕訳入力画面(やよいの青色申告)

    やよいの青色申告 オンライン」の仕訳入力画面

    会計ソフトで「前払金」を処理する際は、特殊な作業が必要です。大体どのソフトでも、上図のような複式簿記形式の画面で入力する必要があります。

    まとめ

    必要経費の記帳は、できるだけ正確に行いましょう。帳簿の裏付けがない必要経費は、最悪の場合、税務署から経費として認めてもらえない恐れがあります。必要経費の基本的な仕訳は、以下のように行います。

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年5月20日 旅費交通費 5,000 現金 5,000 タクシー代
    自宅~〇〇社

    難しく感じる方は、個人事業主向けの会計ソフトを使うのがおすすめです。複式簿記を知らなくても、会計ソフトなら直感的な操作ができますし、ヘルプページも充実しているので安心です。

    特殊な考え方をする経費など

    • 事業と生活の両方で生じた費用は、事業用の割合のみ経費計上できる
    • 10万円以上の備品などは、減価償却により少しずつ経費にする
    • 使い切れなかったものは、購入した年の経費にできない場合もある
    • 商品などの代金を先に支払い、年をまたいで受け取る場合は、受け取り時点で経費計上する

    上記に当てはまる経費については、基本の仕訳だけでは対応できない場合があります。とはいえ、一度にすべてを理解する必要は全くありません。当メディア『自営百科』では、このような仕訳も一つ一つ丁寧に解説しているので、参考にしてみてください。

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