租税公課の代表的な仕訳例を個人事業主向けにまとめました。税金を複数回に分けて納付する場合や、納付した税金を家事按分する場合を中心に、具体的な記帳方法を紹介していきます。
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目次
租税公課の基本ポイント ‐ 経費にできる?できない?
一般的な意味での租税公課は、税金や公的な負担金などを指す言葉です。そのなかでも、個人事業主が経費にできるもの、できないものがあります。記帳の際は、経費にできるものだけを「租税公課」という勘定科目で扱います。消費税区分は基本的に「不課税」です。
経費にできる | 経費にできない |
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所得税や住民税は、租税公課として経費計上できないので、注意が必要です。所得税や住民税を事業用口座から振替納付する場合は、租税公課ではなく「事業主貸」の勘定科目で記帳してください。
引用
必要経費になる租税公課は、以下のようなものです。
・事業税、固定資産税、自動車税、不動産取得税、登録免許税、印紙税などの税金
・商工会議所、商工会、協同組合、同業者組合、商店会などの会費、組合費又は賦課金
なお、次のような租税公課については、それぞれ次のようになります。
・所得税及び復興特別所得税、相続税、住民税、国税の延滞税・加算税、地方税の延滞金・加算金、罰金、科料、過料などは、必要経費になりません。
租税公課の消費税区分
基本的に、租税公課の消費税区分は「不課税」です。ただ、印鑑証明代のように、税金以外の公的な負担金のなかには「非課税」のものもあります。「不課税」「非課税」の区別をきちんとしておかないと、消費税の納税額が正しく計算できません。しっかりと区別しておきましょう。
>> 消費税の課税・非課税について詳しく
租税公課の消費税 ‐「不課税」「非課税」
不課税 | 非課税 |
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国や地方自治体から提供される、証明書発行などの事務的なサービスは、消費税区分が「非課税」です。収入証紙なども、金券と同じ扱いで「非課税」になります。なお、金券ショップなどで収入印紙を購入した場合だけ、郵便局やコンビニで購入した場合と違って、消費税が「課税」されます。
仕訳例① 商工会議所会費の記帳方法 ‐ 基本のおさらい
それぞれの市などにある商工会議所の会員になると、経営の相談を受けたり、情報交換の場に参加したりできます。商工会議所の会員が納める年会費は、租税公課として経費にできます。商工会議所の会費に、消費税は課されません(不課税)。
たとえば、商工会議所の年会費12,000円を、口座振替で支払った場合の記帳は、以下のようになります。
複式簿記の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
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20XX年4月1日 | 租税公課 12,000 | 普通預金 12,000 | ○○商工会議所会費 |
複式簿記は、青色申告65万円・55万円控除を目指す事業者が選択する記帳方法です。それ以外の事業者は、単式簿記による簡単な記帳で構いません。
単式簿記の記帳例
日付 | 租税公課 | 摘要 |
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20XX年4月1日 | 12,000 | ○○商工会議所会費 |
なお、租税公課ではなく「諸会費」などの勘定科目をつくって、その科目で経費計上しても構いません。このように指導するところも多いです。
仕訳例② 個人事業税の記帳方法 – 税金の分納
分納する税金の記帳では、これから示す「仕訳例②」「仕訳例③」の2パターンについて、どちらの方法を選んでも事業者の自由です。ただし、一度決めたら今後も同じ方法で記帳し続けてください。
- 仕訳例②……税金を実際に納付した日付で経費計上する(現金主義的な記帳)
- 仕訳例③……納税通知書が届いた日付で経費計上する(発生主義的な記帳)
「仕訳例②」では、税金を実際に納付した日付で経費計上する方法をとります。個人事業税は、基本的には8月と11月の2回に分けて納付します(自治体によって多少異なる場合もあります)。たとえば27,000円ずつ現金で納めた場合は、次のようになります。
実際の納付日で経費計上する記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
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20XX年8月26日 | 租税公課 27,000 | 現金 27,000 | 個人事業税 |
20XX年11月22日 | 租税公課 27,000 | 現金 27,000 | 個人事業税 |
仕訳例③ 固定資産税の記帳方法 ‐ 税金の分納
固定資産税は4回払いが基本ですが、4回目を翌年2月とする自治体が多く、その場合は年をまたぎます。「仕訳例②」のように、納付のタイミングで記帳してもよいのですが、そうすると4回目の納付分だけ来年の経費になります。
しかし、固定資産税の納税通知書が届いたタイミングで、1~4回分をまとめて経費計上することにより、今年の経費にすることもできます。納税通知書が届いた時点では、実際にはまだ納付していないので、記帳の際は「未払金」としておきます。
以下は、経費にできる固定資産税の合計金額が80,000円だった場合の記帳例です。
1.まず、固定資産税を一旦「未払金」として記帳する
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
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2024年4月17日 | 租税公課 80,000 | 未払金 80,000 | 固定資産税 |
次に、4月・7月・12月・翌年2月(自治体により多少異なる場合があります)の納付タイミングで、「未払金」を支払ってゆきます。以下は口座振替を利用して、銀行口座から納付した場合の仕訳例です。
2.次に、実際の納付タイミングで「未払金」を消してゆく
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
2024年4月30日 | 未払金 20,000 | 普通預金 20,000 | 固定資産税 |
・ ・ ・ |
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2025年2月28日 | 未払金 20,000 | 普通預金 20,000 | 固定資産税 |
このように仕訳することで、実際の納付日を正しく記帳しつつ、固定資産税の全額を2024年の経費に計上することができます。
仕訳例④ 自動車税の記帳方法 – 家事按分
自宅兼事業所にかかる固定資産税や、事業でも使うマイカーにかかる自動車税などは、事業に使っている割合だけ、家事按分して経費にできます。
自動車の場合、利用時間などをもとに事業用の割合を決めます。たとえば、一週間で合計10時間自動車に乗るとして、そのうち5時間は事業用に使っている場合は、家事按分して経費にできる割合は50%です。
例 自動車税45,000円、按分の割合が50%のときの租税公課
自動車税が45,000円で、按分の割合が50%のとき、事業用として22,500円を経費にできます。その場合の記帳は、次のようになります。
事業用の銀行口座から振替納付した場合の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
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20XX年5月31日 | 租税公課 22,500 | 普通預金 45,000 | 自動車税 |
事業主貸 22,500 | 自動車税(按分50) |
事業用の口座に私用分の支払いがあるときは、このように「事業主貸」の勘定科目で仕訳をします。家事按分の割合は、摘要欄などにメモしておくと後でわかりやすいです。納付書の控えなどに書いてもよいです。
現金で納付した場合の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月31日 | 租税公課 22,500 | 現金 22,500 | 自動車税 |
現金で納付した場合は、このように経費分のみ記帳すればOKです。
仕訳例 番外編 ‐ 所得税の還付金は「事業主借」で
所得税が報酬から天引きされるフリーランスの事業者や、予定納税をしている事業者など、確定申告の結果、所得税の「還付金」が事業用口座に振り込まれることがあります。このときは租税公課ではなく「事業主借」で仕訳をします。
事業用口座で所得税の還付金を受け取ったときの仕訳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年4月15日 | 普通預金 9,000 | 事業主借 9,000 | 所得税還付金 |
プライベートの口座に振り込まれた場合は、記帳不要です。なお、これは払いすぎた税金が戻ってきたにすぎないので、受け取った年の所得にはなりません。
「還付金」と「還付加算金」の違い
還付金が発生し、実際に受け取るまでの期間は、国にお金を預けている状態になります。そのため還付金にプラスして、利息のように「還付加算金」が一緒に振り込まれる場合があります。還付加算金は、受け取った年の雑所得になります。
還付加算金は比較的少額ですが、税務署が正確に把握している数字ですから、翌年の確定申告では必ず雑所得として申告するのを忘れないようにしましょう。
還付金 | 還付加算金 |
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租税公課は減価償却しなくてOK
「家や車を買ったときの税金って、減価償却しなくていいの?」と思うかもしれませんが、結論から言うと、基本的には一括でそのまま経費にして大丈夫です。
「減価償却(げんかしょうきゃく)」というのは、簡単に言うと、店舗や事業用車などの「固定資産」を購入したとき、その「取得にかかった費用」を何年かに分けて経費にしてゆくことです。
個人事業主が納付するような税金は、基本的にこの「取得にかかった費用」には含まれないので、減価償却の必要はありません。したがって、納付した年に租税公課としてそのまま経費計上してOKです。
減価償却しなくてよい税金の代表例
毎年かかる税金 | 事後的にかかる税金 |
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ただし不動産を購入する際は、本来は売り手が負担するはずの固定資産税を、買い手側が負担するような契約を結ぶことがあります。このような特別な場合は、代わりに負担した固定資産税も「取得にかかった費用」の一部として、減価償却をする必要があります。
まとめ ‐ 租税公課の記帳について
租税公課の記帳は、「税金の分納」と「家事按分」をするときの方法を、きちんと理解した上で行なうのが重要です。租税公課の消費税区分は基本的に「不課税」ですが、「非課税」の場合もありますので、消費税を納める可能性がある事業者は注意してください。
税金を分納するときのポイント 2パターン
税金を分納する場合、どのタイミングで経費計上するかが重要です。「実際の納付日(現金主義的な記帳)」と「納税通知書が届いた日(発生主義的な記帳)」の2パターンがあります。どちらを選んでもよいですが、一度決めたら以後も同じ方法にしてください。
実際の納付日で経費計上 | 納税通知書が届いた日に経費計上 |
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租税公課を家事按分するときのポイント
自宅兼事業所にかかる固定資産税、事業でも使うマイカーにかかる自動車税などは、家事按分して事業用の割合だけ経費にできます。事業用を区別する際は、たとえば自動車の利用時間など、合理的な基準にしてください。
- 固定資産税 × 事業用の割合(%) = 必要経費
- 自動車税 × 事業用の割合(%) = 必要経費
- 事業口座から私用分の納税をしたときは、「事業主貸」で仕訳をする
- コンビニなどで現金で納税したときは、私用分の記帳はしてもしなくてもよい
なお、基本的に固定資産税や自動車税は減価償却せずに、そのまま「租税公課」として経費計上して構いません。