個人事業主の「社会保険料控除」についてまとめました。国民年金や国民健康保険などの社会保険の費用は、所得控除のひとつ「社会保険料控除」の対象です。上限はなく、その年に支払ったすべての保険料を控除として所得から差し引けます。
INDEX
目次
社会保険料控除とは
「社会保険料控除」は、所得控除のひとつ。その年に支払った国民年金や国民健康保険といった社会保険の費用は、全額が「社会保険料控除」の対象です。
事業者本人の保険料以外にも、同一生計の家族(配偶者やそのほかの親族)の保険料も支払っていれば、その分を含めた金額を所得から差し引くことができます。家族のなかで一番高所得の人が、家族全員分の社会保険料をまとめて支払えば、節税につながります。
国民健康保険の場合、控除を申告する際に保険料を支払ったことの証明書などは不要です。国民年金の保険料に関しては、国民年金機構が発行する「控除証明書」の用意が必須になります。
個人事業主が支払う社会保険 – 年金・医療・介護
そもそも社会保険とは「年金保険」「医療保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の総称です。この5つの保険にかかる費用が、社会保険料控除の対象となります。>> 社会保険を詳しく
そのなかでも個人事業主は、年金保険の「国民年金」と医療保険の「国民健康保険(国保)」に加入します。介護保険の保険料は、40歳以上になると国保に上乗せされます。雇用保険や労災保険は、従業員に対する保険。一人で事業を営んでいる事業主には関係ありません。
事業主本人が被保険者の場合
加入について | 保険の種類 | |
---|---|---|
年金保険 | 加入義務あり | 国民年金 |
医療保険 | 加入義務あり | 国民健康保険 or 組合の保険 |
介護保険 | 加入義務あり(40歳以上) | 国民健康保険 or 組合の保険 |
雇用保険 | 加入できない | ― |
労災保険 | 加入できない(特別加入を除く) | ― |
「国民年金」は20歳以上60歳未満の国民全員が加入する
年金保険の「国民年金」にはすべての国民が加入します。個人事業主の場合、任意で「国民年金基金」を上乗せして支払うこともできます。この費用も「社会保険料控除」の対象です。ちなみに、会社員が加入するものは「厚生年金」と呼びます。
>> 個人事業主の年金制度
医療保険は「国保」か「組合の保険」どちらかを選べる
ほとんどの個人事業主は、各自治体が運営している「国民健康保険(国保)」に加入します。業種によっては、組合の保険に加入することも可能です。どちらのほうが安いかは地域や業種によって異なるので、一度確認しておきましょう。
>> 個人事業主の医療保険
40歳以上になると介護保険に自動加入
介護保険料の納付は、40歳以上が対象となっています。加入に特別な手続きなどは必要なく、40歳になると自動的に加入している医療保険から介護保険分の保険料が上乗せされる、という仕組みです。
>> 個人事業主の介護保険
事業者でも労災保険に加入できる場合がある(一人親方など)
労災保険には、「特別加入」の制度があります。業種によって条件は異なりますが、一人親方(事業者自身とその家族だけで事業を行う)などは、任意で労災保険に加入できます。この場合、労災保険の保険料は「社会保険料控除」の対象です。
>> 一人親方の労災保険
従業員を雇う場合 – 社会保険料控除には含まれない
個人事業でも、常に5人以上の従業員を雇用していれば、社会保険に加入する義務があります(一部の業種を除く)。従業員数が5人未満の場合、従業員の過半数が同意しているなら加入できます。
>> 個人事業の従業員が加入する社会保険
加入した場合、従業員が対象の社会保険料は半額を事業者が負担しなくてはなりません(雇用保険は一定割合。労災保険は全額)。この負担した保険料は「社会保険料控除」の対象外。ただし、勘定科目「福利厚生費(あるいは法定福利費)」として必要経費に計上できます。
雇っている従業員が被保険者の場合
保険の種類 | 事業主側の負担 | |
---|---|---|
年金保険 | 厚生年金 | 半額を負担 |
医療保険 | 健康保険(被用者保険) | 半額を負担 |
介護保険 | 健康保険(被用者保険) | 半額を負担 |
雇用保険 | 雇用保険 | 業種に応じた一定割合を負担 |
労災保険 | 労働者災害補償保険 | 全額を負担 |
雇用保険の負担割合は、業種によって異なります。ちなみに一般的に雇用保険と労災保険は、「労働保険」として保険料を一緒に納付します(一元適用事業)。建設業など、事業によっては分けて納付をする場合があります(二元適用事業)。
青色事業専従者は「労働者」に該当しない
いわゆる家族従業員の「青色事業専従者」は従業員とみなさないので、事業者と同じく雇用保険や労災保険に加入できません。ただ、こちらも「特別加入」の制度を利用して労災保険に加入することができます。
その他の所得控除 – 社会保険料控除には含まれない
「社会保険料控除」は、社会保険(年金保険・医療保険・介護保険・雇用保険・労災保険)の保険料が対象の所得控除です。ただし、年金や医療に関わる保険でも、一般の保険会社が提供しているものは別の所得控除があてはまります。
たとえば、個人で保険会社と契約して加入する生命保険料や個人年金保険料、介護医療保険料などは「生命保険料控除」の対象です。
また、個人型年金加入者掛金(iDeCo/イデコ)の掛金は「小規模企業共済等掛金控除」に該当します。
社会保険料控除の仕訳例
国民年金や国民健康保険の保険料は事業に関係のないプライベートな費用なので、帳簿づけする必要はありません。ただ、事業用の口座から納付したときは、プライベートな費用であることを表す勘定科目「事業主貸」で記帳します。
複式簿記の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
2020年4月30日 | 事業主貸 16,540 | 普通預金 16,540 | 国民年金の納付 |
確定申告の際に青色申告65万円控除をねらうなら、上記のように「複式簿記」で仕訳をします。ちなみに「単式簿記」なら、下記のように帳簿づけします。
単式簿記の記帳例
日付 | 事業主貸 | 摘要 |
---|---|---|
2020年4月30日 | 16,540 | 国民年金の納付 |
確定申告書に控除額を記入する
個人事業主の場合、確定申告の際に社会保険料控除の申告を行います。支払った国民年金や国民健康保険などの金額を確定申告書に記入することで、控除を受けられるのです。「確定申告書B」の第一表と第二表に記入する欄が設置されています。
確定申告書B 第一表 | 確定申告書B 第二表 |
---|---|
![]() |
![]() |
第一表には、その年に支払った社会保険の合計金額を記入する欄だけあります。第二表には、その内訳として社会保険の種類ごとに支払った金額も記入します。
確定申告書Bの記入例
確定申告書B 第一表(拡大) | 確定申告書B 第二表(拡大) |
---|---|
![]() |
![]() |
第二表に4種類以上の社会保険を記入したい場合
第二表の「社会保険の種類」欄は3項目しかありません。3つでは足りない場合は、枠に線を引いて項目を増やすなどして記入すれば良いです。
国民年金の保険料を申請するには「控除証明書」が必須
国民年金の保険料は、確定申告書とともに「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」を提出します。この証明書は、日本年金機構が発行しています。e-Taxで電子申告するなら、証明書の添付は不要です。
提出の際は、「添付書類台紙」という用紙に控除証明書を貼り付けます。基本的にはノリを使いますが、ホッチキスやテープなどで貼り付けても大丈夫です。
「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」は、基本的に毎年11月頃に届きます。10~12月の間にその年の保険料を初めて納付した場合は、翌年2月頃に送付されます。
国民年金は前納・後納・追納の分も控除の対象
国民年金には、保険料を前払いできる「前納割引制度」や、学生であることなどを理由に免除されていた期間の保険料をあとから支払う「追納制度」があります。これらの制度を利用して支払った保険料も「社会保険料控除」の対象です。
- 前納割引制度……期間よりも早く保険料を納めること(前払い)
- 追納制度…………免除・猶予されていた期間の保険料を納めること(後払い)
【前納割引制度】最大1ヶ月分の保険料が割引に
「前納割引制度」を利用すると、毎月納付するよりも納める金額が低くなります。特に「2年前納」を選んだ場合、約1ヶ月分も割引されます。この前払いした2年分の保険料は、全額をその年の控除対象にするか、3年にわたって分割するか選べます。
【追納制度】将来受け取れる年金の金額が増える
国民年金は、条件を満たすと一定の期間だけ納付が免除されます。免除された場合は、通常よりも将来もらえる年金の金額が減少します。それを防ぐため、免除期間分もあとからキチンと支払って、将来受け取る年金を増やそう、というものが「追納制度」です。
「後納制度」は2018年9月に終了
2015年10月~2018年9月の間は、過去5年分の未納金を支払える制度が設けられていました(5年後納制度)。現在、後払いできる未納金は過去2年分まで。この後払いした保険料も、「社会保険料控除」の対象です。
個人事業主と会社員・公務員の違い
個人事業主は、一年間の所得や納める税金を自身で計算して、税務署に申告する必要があります(確定申告)。会社員や公務員の場合は、たいてい勤務先が税金の精算手続き(年末調整)を行ってくれるので、確定申告は不要です。
会社員でも、副業や株式売買など本業以外の所得が20万円を超える場合は、確定申告をしなくてはいけません。また、年末調整時に控除証明書を提出し忘れた場合などは、確定申告をすることで控除を受けられます。
ちなみに、個人事業主と会社員・公務員では加入する社会保険が異なります。会社員や公務員は「厚生年金」や「健康保険」に加入しており、所得に応じた金額が給与から天引されています。これらの保険料は、勤務先が従業員分をまとめて支払ってくれています。
個人事業主 | 会社員・公務員 | |
---|---|---|
年金保険 | 国民年金 | 厚生年金 |
医療保険 | 国民健康保険 or 組合の保険 | 健康保険(被用者保険) |
脱サラして個人事業主になった場合 – 厚生年金も控除の対象
年の途中に会社を退職して個人事業主になった場合、会社員時代に天引きされていた「厚生年金」も社会保険料控除の対象になります。つまり、その年に支払った「厚生年金」分と、脱サラしてから支払った「国民年金」の保険料を合わせた金額を所得から差し引けるのです。
【年金保険】個人事業主と会社員・公務員の違い
その年に支払っていた「厚生年金」の詳しい金額は、日本年金機構が運営する「ねんきんネット」で確認できます。「ねんきんネット」は、自分の年金情報を確認・管理できるウェブサービスです。
そもそも社会保険料控除は、その年に支払った社会保険の費用が対象です。「厚生年金」のほかにも「健康保険」や「雇用保険」など、給与から天引きされていた社会保険料は控除の対象として認められるので、忘れずに申告しておきましょう。
社会保険料控除の重要ポイントまとめ
社会保険には「年金保険」「医療保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5種類があります。これらの公的な社会保険にかかる費用は、所得控除のひとつ「社会保険料控除」の対象です。
個人事業主は大抵の場合、年金保険の「国民年金」と医療保険の「国民健康保険」に加入します。これらにかかった保険の費用が、「社会保険料控除」として所得から差し引けるということです。
社会保険料控除の重要ポイント
- その年に支払った社会保険料すべてが控除の対象
- 生計が同じ家族の分も申告者が支払っていれば、その合計金額が控除額に
- 国民年金の保険料については、申告時に「控除証明書」が必要
- 国民年金は前納や追納をした分も控除の対象になる
- 国民年金や国保はプライベートな支出なので、記帳は不要
- 脱サラした場合、その年に天引きされていた「厚生年金」の保険料も控除される
「社会保険料控除」は、その年に支払った社会保険の金額を確定申告の書類に記入するだけで、控除を受けられます。「確定申告書B」の第一表と第二表に、控除金額を記入する欄が用意されています。