会社員の副業収入は「事業所得」か「雑所得(業務)」の区分で確定申告するケースが多いです。どちらに該当するかは、帳簿書類の有無や、副業の規模等によって異なります。
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目次
【大前提】他の所得に当てはまらないかを確認
そもそも副業収入が事業所得・雑所得以外に該当する場合は、もちろんその区分に従って申告をしましょう。たとえば、以下のような所得区分が考えられます。
副業収入の所得区分 – 事業所得や雑所得に当てはまらない場合(例)
給与所得 | 副業として勤める会社やアルバイトの給与 |
---|---|
配当所得 | 株主や出資者として受け取る剰余金や配当金 |
不動産所得 | 土地や建物の貸し付けによる収入* |
譲渡所得 | 土地や建物の売却などによる収入* |
一時所得 | 懸賞の賞金や、競馬・競輪の払戻金など |
* 事業規模の場合を除く
ちなみに、株の売却や国内FXによる所得は、通常とは異なる税率で課税されます(分離課税)。デイトレードなどで稼いでいる場合は注意しましょう。
「生活用動産」の売却は非課税
「生活用動産」とは、家具・生活家電・通勤用の自動車・衣服など、生活に通常必要なものを指します。こうした不要品をフリマアプリ等で売っても非課税なので、所得にはカウントしなくてOKです。
事業所得と雑所得の違い
副業で継続的に稼いでいる場合は、基本的に「事業所得」か「雑所得(業務)」のどちらかに該当します。自由に好きなほうを選択できるわけではないので注意しましょう。
事業所得 | 雑所得 |
---|---|
「事業*」による所得 農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業などによる所得 |
他の所得に含まれない所得 シェアリングエコノミー・著述家以外の人が得る原稿料など |
* 不動産所得や山林所得となる事業は除く
ごく簡単に言うと、れっきとしたビジネスなら「事業所得」、小遣い稼ぎ程度なら「雑所得(業務)」となります。ただ、法令上は明確な基準がないため、実務においては国税庁の通達や過去の判例を参考に見分けるしかありません(詳細は後述)。
「事業所得」と「雑所得(業務)」- どっちが有利?
事業所得 | 雑所得 | |
---|---|---|
記帳の義務 | あり | なし |
主な申告書類 | 確定申告書 + 決算書 | 確定申告書 |
青色申告 | できる | できない |
赤字の扱い | 損益通算できる | 損益通算できない |
事業所得には「青色申告の特典が適用できる」「損益通算ができる」などの節税メリットがあります。それに対して、雑所得には「事務作業が少ない」くらいしかメリットがありません。
実務での見分け方 – 国税庁の通達
副業が「事業所得」と「雑所得(業務)」のどちらに該当するかは、“社会通念”に照らして判断します。国税庁の例示によれば、帳簿書類の有無により、おおむね以下のように見分けられます(所得税基本通達35-2 および解説)。
「事業所得」と「雑所得(業務)」の見分け方 – 国税庁の解説
帳簿書類あり | 帳簿書類なし | |
---|---|---|
収入 300万円超 |
「事業所得」である 場合が多い |
原則「雑所得(業務)」 |
収入 300万円以下 |
「雑所得(業務)」 |
※ 社会通念に照らして判定するのが原則です
国税庁は「帳簿やレシートなどの書類がきちんと揃っている場合は、社会通念に照らしても事業と言えることが多いよ」と説明しています。
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ただし、帳簿書類を保存していても、社会通念上の「事業」に該当しなければ「雑所得(業務)」と判定される可能性があります。国税庁は、以下の2パターンを例示しています。
帳簿書類があっても「雑所得(業務)」となりうるケース
3年程度にわたって、副業収入が僅少である場合 |
---|
・年間の副業収入 ≦ 300万円 かつ ・年間の副業収入 < 本業収入の10% |
営利性が認められない場合 |
・3年程度にわたって赤字が続いている かつ ・赤字を解消する取り組みを行っていない |
以上の解説を踏まえつつ、帳簿の有無によって判定すれば、実務上はひとまず問題ないでしょう。ここからは、社会通念上の「事業」について、過去の裁判例などを交えて詳しく解説します。
社会通念上の「事業」とは?
「事業」の定義は、法令では細かく定められていません。そこで参考になるのが、過去の裁判例などです。「事業」の判定基準が示されたケースとしては、次の判例が有名です。
引用
……いわゆる事業にあたるかどうかは、結局、一般社会通念によって決めるほかないが、これを決めるにあたっては営利性・有償性の有無、継続性・ 反復性の有無、自己の危険と計算における企画遂行性の有無、その取引に費した精神的あるいは肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、職歴・社会的地位・生活状況などの諸点が検討されるべきである。
東京地裁 昭和48.7.18 判決
「事業」が論点となった裁判例などは過去にいくつもあり、いずれも同様のポイントが重視されてきました。下表に、キーワードをわかりやすく整理しておきます。
「事業」の判定基準(過去の裁判例・裁決事例から)
営利性・有償性の有無 | 儲けになっているか |
---|---|
継続性・反復性の有無 | 稼ぎが安定しているか |
自己の計算と危険における 企画遂行性の有無 |
他人に丸投げしていないか |
人的・物的設備の有無 | 従業員や機材がそろっているか |
資金の調達方法 | 融資などを受けているか |
精神的・肉体的疲労の程度 | 片手間で済ませていないか |
職業・生活状況 | 生活の糧を得ているか |
これらを総合的に考えて、社会通念上の「事業」かどうかを判定します。すべてを満たす必要はありませんが、満たしている要素が多いほど「事業」として認められやすいでしょう。
なお、上記の表を作成するにあたっては「国税不服審判所」での裁決事例も参考にしています。「国税不服審判所」はいわば“国税の裁判所”のような機関で、その判断が先例として有意義であることには疑いありません。
事例① 事業としての実態が認められなかったケース
会社役員のAさん(請求人)は、本業とは別に絵画の売買を行っており、その赤字を事業所得の損失として申告していました。しかし、税務署長等から「これは事業所得ではなく雑所得として扱いなさい」と指摘され、その件について不服を申し立てました。
審判所は、営利性の乏しさなどから「Aさんの絵画売買は“事業所得を生ずべき事業”とは言えない」と裁決を下しています。結果として、Aさんは絵画売買による赤字を、雑所得の損失として修正申告することになりました。
引用
……本件絵画業務についてみると、[1]絵画を販売、展示するための店舗を有していないこと、[2]購入した絵画は美術品ロッカーに保管されたままになっていること、[3]絵画業務の事務について専任の従業員を置かず、請求人の経営する法人の役員に行わせ、しかもその対価も支払っていないことから、本件絵画業務には、人的、物的設備が備わっているとは認められず、本件絵画業務に関する広告宣伝活動を一切していないことや画廊業者の同業者団体に加入していないこと及び古物営業法の営業許可を得ていないことから、外形的にも事業としての実態が認められない。
また、絵画の購入から売却まですべて特定の画廊に任せて取引をしており、請求人が本件絵画業務において、精神的、肉体的労力をほとんど費やしていないものと認められ、自己の危険と計算において企画遂行しているとは認められない。
さらに、本件絵画業務は、業務の開始当初の高額な絵画の購入に伴う借入金の利息等の負担が大きいにもかかわらず、[1]絵画の売買回数が極めて少なく、その売買点数も少ないこと、[2]平成4年以降の絵画の購入価額は少額のものがほとんどで、その売買差益もきん少なものであること、[3]業務を開始してから毎年損失となっていることなどから、相当期間継続して安定した収益を得ているとは認められず、その営利性も極めて乏しい。
以上のことから、本件絵画業務は事業所得を生ずべき事業として社会的客観性を備えたものには該当しないと判断するのが相当である。
おそらく、Aさんは本業の給与所得を相殺するために、副業の赤字を事業所得の損失として扱いたかったのでしょう。しかし、この事例から「そもそも儲ける気ないよね?」という副業は、なかなか「事業所得を生ずべき事業」と認められないことがわかります。
事例② 企画遂行性などが乏しいと判断されたケース
大学教員であるBさん(請求人)は、執筆や講演による副業収入を事業所得として申告していました。しかし、税務署長等から「雑所得として申告しなさい」などと指摘を受け、審判所に不服を申し立てました。
Bさんの執筆・講演活動については、営利性や継続性が認められました。が、その他の観点(下記のA,B,C,D)から「事業所得を生ずべき事業」とは言えない、との裁決が下されています。
引用
A 自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無
……請求人は……本件業務に必要な取材活動や営業活動を行っていた旨答述するが、そのことを裏付ける証拠等は一切なく、これらの取材活動や営業活動の事実は認め難く、少なくとも企画遂行性に乏しいというべきである。
B 精神的肉体的労務の投入の有無について
……請求人は、a実家とNマンションの間を毎週移動しながら、M大学等において平日に週4日程度の講義を行い、それ以外の時間に本件業務としての講演や執筆活動等を行っていることが認められることからすれば、請求人が本件業務に一定の精神的肉体的労務を投入しているとしても、限定的なものにとどまっていたと認められる。
C 人的・物的設備の有無について
……請求人は、パソコンやプリンター等の備品を使用して本件業務を行っていたが、それ以外の物的設備は有しておらず、また、本件業務のために使用人を雇っていない。なお、請求人は赤字のために使用人を雇えないのは普通のことである旨主張するが、ある程度の事業規模があれば赤字であっても人員を配置しなければ事業自体が遂行できないのであるから、使用人の有無を「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえるか否かの判定要素の一つとすることは不合理ではない。
D 職業・経験及び社会的地位について
……請求人は、平成21年ないし平成23年においてM大学で任期付の准教授として勤務し、同大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていた。
……以上の点からすると、請求人は、本件業務に関して、自己の計算と危険において簡易ながら一定の物的設備を整え執筆や講演等の活動を行ったと認められるものの、他方で、その企画遂行性の程度は仮にあったとしても乏しいものにとどまっており、本件業務に投入している精神的肉体的労務も限定的なものであり、さらにM大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていたことからすれば、本件業務は、社会通念上「事業」といえる規模・態様においてなされた活動とまではいえない。
活動の営利性や持続性、設備の有無など、部分的に認められている要素もあります。しかし、最終的には計画性の乏しさや、費やした労力の程度、さらに本業で十分に稼いでいる点がネックとなり「事業所得を生ずべき事業」とは認められなかったわけです。
事例③ 職業や生活状況などが重視されたケース
病院経営者のCさん(請求人)は、副業として大規模な有価証券の売買や先物取引を行っており、その赤字を事業所得の損失として申告していました。しかし、税務署長等から「これは雑所得として扱いなさい」と指摘され、審判所に不服を申し立てました。
この事例では、Cさんが行った有価証券の売買等について、規模や労力の大きさが認められています。しかし、最終的には「病院の経営と比べたら、これはほとんど趣味ですね」という判断から、事業所得として扱うことは認められませんでした。
引用
……本件において、請求人が、長期間にわたって有価証券の売買及び商品先物取引を大規模、かつ、継続的に反復して行っていたことが認められ、取引に費やした精神力、肉体的労力の程度も軽視し難いものがあったことは認められるものの、請求人は大規模な病院を経営し、その傍ら本件有価証券の売買及び商品先物取引を行っていたものであり、結局、請求人の趣味と実益を兼ねた投機により損失を被ったにすぎないから、本件有価証券の売買及び商品先物取引は、いまだ社会通念上事業と認められるに足りるものとはいえず、所得税法上の事業には該当しないものというべきであり、したがって、本件有価証券の売買及び商品先物取引から生じた損失を雑所得を生ずべき業務から生じた損失の額と認定した原処分は適法である。
※ 現在では、株や先物取引による収入は分離課税の対象となっている
この事例では、Cさんが本業でがっつり稼いでいる、という点が裁決のポイントになったようです。Cさんは「大規模な病院」の経営者なので極端な例ではありますが、副業の扱いを考える際には、本業による収入の程度なども少なからず影響してくるわけです。
まとめ
会社員などの副業であっても、帳簿書類を保存している場合は「事業所得」に該当することも多いです。国税庁の通達などでは、以下のように例示されています。
「事業所得」と「雑所得(業務)」の見分け方 – 国税庁の解説
帳簿書類あり | 帳簿書類なし | |
---|---|---|
収入 300万円超 |
「事業所得」である 場合が多い |
原則「雑所得(業務)」 |
収入 300万円以下 |
「雑所得(業務)」 |
※ 社会通念に照らして判定するのが原則です
「事業所得」の場合、そもそも帳簿書類の保存が義務付けられています。その義務をきちんと果たしていなければ、「ほんとに“事業”の自覚ありますか?」と疑われても仕方ないでしょう。
「事業所得」と「雑所得(業務)」- 取り扱いの違い
事業所得 | 雑所得 | |
---|---|---|
記帳の義務 | あり | なし |
主な申告書類 | 確定申告書 + 決算書 | 確定申告書 |
青色申告 | できる | できない |
赤字の場合 | 損益通算できる | 損益通算できない |
「事業所得」のほうが、記帳などの手間がかかるぶん節税メリットも大きいです。自分の副業が「事業」に該当するか、国税庁の通達などを参考に見極めておきましょう。