会社員の副業収入は事業所得?雑所得?

更新日: 2020/09/29
会社員の副業収入は事業所得?雑所得?

会社員の副業収入は「雑所得」として申告するケースが多いです。しかし、副業でやっていることが事業と呼べる程度であれば、事業所得として申告することを検討しましょう。どちらで申告すべきか判断するポイントを本記事でまとめています。

INDEX

目次

    【大前提】他の所得に当てはまらないかを確認

    そもそも副業収入が事業所得・雑所得以外の所得に含まれる場合は、もちろんその区分に従って申告をしましょう。会社員の副業収入なら、事業所得・雑所得以外にも、たとえば以下のような所得区分が考えられます。

    所得区分 収入の例
    給与所得 副業として勤める会社やアルバイトの給与
    配当所得 株主や出資者として受け取る剰余金や配当金
    不動産所得 土地や建物の貸し付けによる収入*
    譲渡所得 土地や建物の売却などによる収入*
    一時所得 懸賞の賞金や、競馬・競輪の払戻金など

    * 事業規模の場合を除く

    ちなみに、株やFXによる所得は、他の所得と区別して課税されます(分離課税)。それなりの規模で取引を行っているとしても、本記事で説明する事業所得や雑所得とは分けて考えましょう。

    事業所得と雑所得の違い

    事業所得と雑所得は、それぞれ以下のような所得を指します。

    事業所得 雑所得
    「事業所得を生ずべき事業」による所得
    例:農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業などによる所得
    他の所得に含まれない所得
    例:著述家以外の人が得る原稿料・印税・講演料などによる所得

    要するに、副業でやっていることが「事業所得を生ずべき事業」に該当する場合は、その収入を事業所得として申告してよいわけです。ただ、先に言っておくと、会社員の副業が「事業所得を生ずべき事業」と認められるケースは決して多くありません。

    それでもなお、副業収入を事業所得で申告したいと考える人が多いのは、事業所得に「青色申告の特典が適用できる」「損益通算ができる」などの節税メリットがあるためです。それに対して、雑所得には「申告がカンタン」というくらいしかメリットがありません。

    事業所得 雑所得
    記帳の義務 あり なし
    主な申告書類 確定申告書B + 決算書 確定申告書AだけでOK
    青色申告の特典 適用できる 適用できない
    赤字の場合 給与所得などと損益通算できる 損益通算できない

    とはいえ、そもそも所得区分はメリットを比較して選ぶものではありません。節税したいからといって、無理やり事業所得で申告するのはNGです。以降で説明するポイントを参考に、自分の副業が「事業所得を生ずべき事業」に該当するか見極めましょう。

    「事業所得を生ずべき事業」のポイント

    どんな事業が「事業所得を生ずべき事業」に該当するのか、法律や法令では細かく定められていません。そこで参考になるのが「国税不服審判所」の解釈です。国税不服審判所は、いわば“国税の裁判所”で、その判断は先例として大きな意味を持ちます。

    国税不服審判所は、過去に何度も「私の副業は“事業所得を生ずべき事業”だ!」という主張に対して「そうは言えないから雑所得で申告しなさい」と裁決を下しています。下記は、その一例において裁決の根拠となった法令解釈です。

    引用

    ……ある経済的行為が「対価を得て継続的に行う事業」に該当するか否かは、当該経済的行為の営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問題とされるべきであり、この観点からは、当該経済的行為の種類、自己の役割、人的・物的設備の有無、資金の調達方法、費やした精神的・肉体的労力の程度、その者の職業・社会的地位などの諸点を検討する必要がある。
    そして、一定の経済的行為が反復・継続して行われることによって事業として社会的客観性が認められるためには、相当程度安定した収益を得られる可能性がなければならないと解するのが相当である。

    裁決事例集No.79 – 平成22年2月16日裁決

    上記は、数ある裁決事例のひとつに過ぎませんが、この他の事例でも似たようなキーワードが出てきます。それらをまとめると、「事業所得を生ずべき事業」の判定においては、以下のようなポイントが重視されていることがわかります。

    「事業所得を生ずべき事業」の判定ポイント

    営利性・有償性の有無 何らかの対価として収益を得られるか
    継続性・反復性の有無 継続して繰り返し収益を得られるか
    企画遂行性の有無 計画的に収益を得られるよう営まれているか
    人的・物的設備の有無 従業員や機材などが備えられているか
    資金の調達方法 相応のリスクを伴って資金を調達しているか
    精神的・肉体的疲労の程度 精神的・肉体的に相応の労力を投じているか
    その者の職業・生活状況 収入状況などから、事業としての合理性が認められるか

    必ずしも、すべての要素を満たす必要はありません。ただ、逆に「コレとコレを満たせばOK!」というわけでもありません。あくまで、このような要素について総合的に検討したうえで判断されるということです。以降で、実際の裁決事例を交えて説明します。

    事例① 事業としての実態が認められなかったケース

    会社役員のAさん(請求人)は、本業とは別に絵画の売買を行っており、その赤字を事業所得の損失として申告していました。しかし、税務署長等から「これは事業所得ではなく雑所得として扱いなさい」と指摘され、その件について不服を申し立てました。

    審判所は、営利性の乏しさなどから「Aさんの絵画売買は“事業所得を生ずべき事業”とは言えない」と裁決を下しています。結果として、Aさんは絵画売買による赤字を、雑所得の損失として修正申告することになりました。

    引用

    ……本件絵画業務についてみると、[1]絵画を販売、展示するための店舗を有していないこと、[2]購入した絵画は美術品ロッカーに保管されたままになっていること、[3]絵画業務の事務について専任の従業員を置かず、請求人の経営する法人の役員に行わせ、しかもその対価も支払っていないことから、本件絵画業務には、人的、物的設備が備わっているとは認められず、本件絵画業務に関する広告宣伝活動を一切していないことや画廊業者の同業者団体に加入していないこと及び古物営業法の営業許可を得ていないことから、外形的にも事業としての実態が認められない。
    また、絵画の購入から売却まですべて特定の画廊に任せて取引をしており、請求人が本件絵画業務において、精神的、肉体的労力をほとんど費やしていないものと認められ、自己の危険と計算において企画遂行しているとは認められない。
    さらに、本件絵画業務は、業務の開始当初の高額な絵画の購入に伴う借入金の利息等の負担が大きいにもかかわらず、[1]絵画の売買回数が極めて少なく、その売買点数も少ないこと、[2]平成4年以降の絵画の購入価額は少額のものがほとんどで、その売買差益もきん少なものであること、[3]業務を開始してから毎年損失となっていることなどから、相当期間継続して安定した収益を得ているとは認められず、その営利性も極めて乏しい。
    以上のことから、本件絵画業務は事業所得を生ずべき事業として社会的客観性を備えたものには該当しないと判断するのが相当である。

    公表裁決事例 – 平成10年6月25日裁決

    おそらく、Aさんは本業の給与所得を相殺するために、副業の赤字を事業所得の損失として扱いたかったのでしょう。しかし、この事例から「そもそも儲ける気ないよね?」という副業は、なかなか「事業所得を生ずべき事業」と認められないことがわかります。

    事例② 企画遂行性などが乏しいと判断されたケース

    大学教員であるBさん(請求人)は、執筆や講演による副業収入を事業所得として申告していました。しかし、税務署長等から「雑所得として申告しなさい」などと指摘を受け、審判所に不服を申し立てました。

    Bさんの執筆・講演活動については、営利性や継続性が認められました。が、その他の観点(下記のA,B,C,D)から「事業所得を生ずべき事業」とは言えない、との裁決が下されています。

    引用

    A 自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無
    ……請求人は……本件業務に必要な取材活動や営業活動を行っていた旨答述するが、そのことを裏付ける証拠等は一切なく、これらの取材活動や営業活動の事実は認め難く、少なくとも企画遂行性に乏しいというべきである。
    B 精神的肉体的労務の投入の有無について
    ……請求人は、a実家とNマンションの間を毎週移動しながら、M大学等において平日に週4日程度の講義を行い、それ以外の時間に本件業務としての講演や執筆活動等を行っていることが認められることからすれば、請求人が本件業務に一定の精神的肉体的労務を投入しているとしても、限定的なものにとどまっていたと認められる。
    C 人的・物的設備の有無について
    ……請求人は、パソコンやプリンター等の備品を使用して本件業務を行っていたが、それ以外の物的設備は有しておらず、また、本件業務のために使用人を雇っていない。なお、請求人は赤字のために使用人を雇えないのは普通のことである旨主張するが、ある程度の事業規模があれば赤字であっても人員を配置しなければ事業自体が遂行できないのであるから、使用人の有無を「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえるか否かの判定要素の一つとすることは不合理ではない。
    D 職業・経験及び社会的地位について
    ……請求人は、平成21年ないし平成23年においてM大学で任期付の准教授として勤務し、同大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていた。
    ……以上の点からすると、請求人は、本件業務に関して、自己の計算と危険において簡易ながら一定の物的設備を整え執筆や講演等の活動を行ったと認められるものの、他方で、その企画遂行性の程度は仮にあったとしても乏しいものにとどまっており、本件業務に投入している精神的肉体的労務も限定的なものであり、さらにM大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていたことからすれば、本件業務は、社会通念上「事業」といえる規模・態様においてなされた活動とまではいえない。

    公表裁決事例 – 平成26年9月1日裁決

    活動の営利性や持続性、設備の有無など、部分的に認められている要素もあります。しかし、最終的には計画性の乏しさや、費やした労力の程度、さらに本業で十分に稼いでいる点がネックとなり「事業所得を生ずべき事業」とは認められなかったわけです。

    事例③ 職業や生活状況などが重視されたケース

    病院経営者のCさん(請求人)は、副業として大規模な有価証券の売買や先物取引を行っており、その赤字を事業所得の損失として申告していました。しかし、税務署長等から「これは雑所得として扱いなさい」と指摘され、審判所に不服を申し立てました。

    この事例では、Cさんが行った有価証券の売買等について、規模や労力の大きさが認められています。しかし、最終的には「病院の経営と比べたら、これはほとんど趣味ですね」という判断から、事業所得として扱うことは認められませんでした。

    引用

    ……本件において、請求人が、長期間にわたって有価証券の売買及び商品先物取引を大規模、かつ、継続的に反復して行っていたことが認められ、取引に費やした精神力、肉体的労力の程度も軽視し難いものがあったことは認められるものの、請求人は大規模な病院を経営し、その傍ら本件有価証券の売買及び商品先物取引を行っていたものであり、結局、請求人の趣味と実益を兼ねた投機により損失を被ったにすぎないから、本件有価証券の売買及び商品先物取引は、いまだ社会通念上事業と認められるに足りるものとはいえず、所得税法上の事業には該当しないものというべきであり、したがって、本件有価証券の売買及び商品先物取引から生じた損失を雑所得を生ずべき業務から生じた損失の額と認定した原処分は適法である。

    公表裁決事例 – 平成元年12月25日裁決

    ※ 現在では、株や先物取引による収入は分離課税の対象となっている

    この事例では、Cさんが本業でがっつり稼いでいる、という点が裁決のポイントになったようです。Cさんは「大規模な病院」の経営者なので極端な例ではありますが、副業の扱いを考える際には、本業による収入の程度なども少なからず影響してくるわけです。

    まとめ – 事業所得に含められる副業収入

    本来、事業所得として扱ってよいのは「事業所得を生ずべき事業」による所得だけです。「事業所得を生ずべき事業」の定義は細かく決められていませんが、国税不服審判所の裁決事例では、以下のようなポイントが重視されています。

    「事業所得を生ずべき事業」の判定ポイント

    営利性・有償性の有無 何らかの対価として収益を得られるか
    継続性・反復性の有無 継続して繰り返し収益を得られるか
    企画遂行性の有無 計画的に収益を得られるよう営まれているか
    人的・物的設備の有無 従業員や機材などが備えられているか
    資金の調達方法 相応のリスクを伴って資金を調達しているか
    精神的・肉体的疲労の程度 精神的・肉体的に相応の労力を投じているか
    その者の職業・生活状況 収入状況などから、事業としての合理性が認められるか

    これを踏まえると、会社員の副業収入を事業所得とするのは、なかなかハードルの高いことだとわかります。事業所得として申告してよいか心配なら、前もって税務署で相談しておきましょう。

    ちなみに、事業所得と雑所得では、申告方法や税務上の扱いにおいて、主に以下のような違いがあります。

    事業所得 雑所得
    記帳の義務 あり なし
    主な申告書類 確定申告書B + 決算書 確定申告書AだけでOK
    青色申告の特典 適用できる 適用できない
    赤字の場合 給与所得などと損益通算できる 損益通算できない

    事業所得には節税面でメリットがありますが、帳簿づけや申告書類の作成など、手間が増える部分もあるので注意しましょう。