確定申告の際に「事業所得」と「雑所得」のどちらで申告すべきか、迷う場合も多いと思います。これらをハッキリ線引きする基準はないのですが、目安となる考え方を紹介します。その上で、確定申告における扱いの違いを分かりやすく解説します。
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目次
事業所得・雑所得の見極めポイント
ごく簡単に言うと、本業で営む個人事業の収入などで、十分に事業性のあるものを「事業所得」と考えます。一方、会社員の副業収入などで、事業性の薄いものは「雑所得」として扱うことが多いです。
事業所得 | 雑所得 |
---|---|
「事業所得を生ずべき事業」による所得 例:農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業などの所得 |
他の所得に含まれない所得 例:著述家以外の人が得る原稿料・印税・講演料などによる所得 |
ただ、一口に「事業性」と言われても、抽象的でよくわからないと思います。たとえば、以下のようなポイントを総合的に見て、事業性が十分にあるかどうかを判断しましょう。
「事業所得を生ずべき事業」のポイント
営利性・有償性の有無 | 何らかの対価として収益を得られるか |
---|---|
継続性・反復性の有無 | 継続して繰り返し収益を得られるか |
企画遂行性の有無 | 計画的に収益を得られるよう営まれているか |
人的・物的設備の有無 | 従業員や機材などが備えられているか |
資金の調達方法 | 相応のリスクを伴って資金を調達しているか |
精神的・肉体的疲労の程度 | 精神的・肉体的に相応の労力を投じているか |
その者の職業・生活状況 | 収入状況などから、事業に合理性が認められるか |
すべての要素を満たす必要はありませんが、逆に「コレとコレを満たせばOK!」という明確な基準もありません。過去の事例なども踏まえて慎重に判断するのがベターなので、迷ったら税務署で相談するのが安心です。
>> 事業所得と雑所得の見極め方について詳しく
確定申告における扱いの違い
そもそも、なぜ事業所得と雑所得をしっかり区別する必要があるかと言うと、確定申告での扱いが大きく異なるからです。主には以下のような違いがあります。
事業所得 | 雑所得 | |
---|---|---|
損益通算 | できる | できない |
青色申告の特典 | 適用できる | 適用できない |
帳簿の作成・保存 | 義務 | 義務ではない |
主な申告書類 | 決算書 + 確定申告書B | 確定申告書AだけでOK* |
* 事業所得などを得ていない場合
事業所得は、赤字のときに損益通算をできたり、青色申告の特典を利用できたり、節税につながる制度が多いです。それに対して雑所得は、帳簿づけや申告に手間がかからないぶん、節税面では優遇されません。
ちなみに、株式の譲渡などによる事業所得・雑所得は「分離課税」の対象となり、特殊な扱いをする必要があるので、本記事での説明からは除外しています。
① 損益通算の可否
事業所得が赤字のときは、その赤字金額を他の所得から差し引くことができます(損益通算)。一方、雑所得の赤字について同様の処理はできません。
たとえば、アルバイトをしている個人事業主などは、事業が赤字ならそのぶん給与所得を抑えられます。しかし、副業をしている会社員などは、副業(雑所得)が赤字でも、その金額を給与所得から差し引くことはできません。
- 損益通算とは
- 一定のルールに従って、ある所得の赤字金額を他の所得から差し引くこと。赤字になったら損益通算できるのは、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得だけ。つまり、不動産所得や事業所得の赤字金額を雑所得から差し引くことはできるが、雑所得の赤字金額を他の所得から差し引くことはできない。
事業所得が赤字の場合は、赤字になった分を他の所得から差し引き、最終的な納税額を減らすことができるということです。
② 青色申告の特典
青色申告とは、簡単に言うと「ちょっと面倒だけど特典がある申告方式」です。青色申告を選択すると、事業所得に様々な特典を適用できます。一方、雑所得には特典を適用できません。(というより、そもそも雑所得には青色申告という制度がない)
青色申告の主な特典
青色申告特別控除 | クリアする要件に応じて、10万・55万・65万の控除が受けられる |
---|---|
純損失の繰り越し | 損益通算をしても控除しきれなかった事業の赤字金額を、翌年以後3年繰り越せる |
少額減価償却資産の特例 | 30万円未満の備品などについて、減価償却をせずに購入年の必要経費にできる |
青色事業専従者給与 | 専従者( ≒ 家族従業員)に支払った給与の全額を「専従者給与」として必要経費にできる |
事業所得については、青色申告をすることで節税効果が見込めるわけです。ちなみに、事業所得と雑所得の両方を得ていても、青色申告の特典を適用できるのは事業所得に関わる部分だけです。
③ 記帳義務の有無
事業所得を得ている人は、その事業の売上や経費などを帳簿に記録し、保存しておく義務があります(所得税法148条・232条)。そのため、もし税務調査が入れば、帳簿の内容もチェックされます。
しかし、雑所得に関わる取引については、記帳の義務が定められていません。まったく帳簿をつけていなくても、そのことでペナルティを受けたりしないのです。
事業所得 | 雑所得 | |
---|---|---|
青色申告 | 白色申告 | |
帳簿の作成・保存が義務 (細かいルールがある) |
帳簿の作成・保存が義務 (簡易的でもよい) |
帳簿の作成・保存が義務でない |
とはいえ、雑所得の場合でも、収入や必要経費の金額が記載された書類(請求書や領収書など)はとっておきましょう。確定申告の際には、それらをもとに所得金額を算出します。なお、申告後も5年ほど保存しておけば、万が一税務調査が入っても安心です。
ちなみに、2022年分の確定申告から、副業などで雑所得を得ている人のうち「その業務による前々年の収入が300万円超の人」は、領収書などの保存が義務になります。帳簿を作る必要が無いことは変わりませんが、書類の扱いには注意しておきましょう。
④ 確定申告の提出書類
事業所得の申告では、主に「確定申告書B」と「決算書」を提出します。一方、雑所得は基本的に「確定申告書A」だけで申告できます。
主な提出書類
事業所得の申告 | 雑所得の申告 |
---|---|
・確定申告書B ・収支内訳書(白色申告者のみ) ・青色申告決算書(青色申告者のみ) |
・確定申告書A |
「確定申告書A」は、言ってみれば“簡易版”の申告書です。給与所得の申告にも対応しているので、副業をしている会社員なども使えます(雑所得 + 給与所得のパターン)。
ただし、申告内容に事業所得が含まれるときは、必ず「確定申告書B」を使います。加えて、売上や必要経費の内訳などを記載した「決算書(収支内訳書 or 青色申告決算書)」の提出も必須になるので、けっこう手間がかかります。
どちらでも変わらないこと
事業所得でも雑所得でも、以下のポイントは変わりません。
- 確定申告が必要になるライン
- 必要経費の考え方
- 税率
- 特定の事業にかかる個人事業税
確定申告が必要になるライン
たとえば、副業をする会社員は、副業収入が事業所得・雑所得のどちらに該当する場合でも、その所得が20万円を超えたら確定申告が必要です。また、給与所得がない人は、基本的に各種の所得金額が、所得控除の額を超えると確定申告が必要になります。
必要経費の考え方
事業所得も雑所得も、基本的に「収入 - 必要経費」で算出することは変わりません。必要経費とは、収入を得るために要した売上原価や販売費などのことで、その範囲も原則としては同じです。(ただし、専従者や青色申告に関するものを除く)
税率
事業所得・雑所得どちらの場合でも、所得税や住民税の税率は同じです。株式の譲渡などよる所得には特殊な税率が適用されるケースもありますが(分離課税)、事業所得・雑所得の区別で税率が変わることはありません。
特定の事業にかかる個人事業税
個人事業税は、基本的には事業所得者が納める税金です。ただし、厳密に言えば、個人が営む“特定の事業”(法定業種)にかかる税金です。なので、雑所得者であっても、特定の事業を営んでいれば、事業所得者と同様に課税される場合があります(地方税法72条の50)。
まとめ
事業所得と雑所得は、主に以下のような点で扱いが異なります。なお、事業所得は青色申告を選択できるため、申告方式によって異なる項目もあります。
事業所得 | 雑所得 | ||
---|---|---|---|
青色申告 | 白色申告 | ||
損益通算 | ○ | ○ | ✕ |
青色申告の特典 | ○ | ✕ | ✕ |
帳簿作成・保存 | 義務あり | 義務あり(簡易的) | 義務なし |
主な申告書類 | ・確定申告書B ・青色申告決算書 |
・確定申告書B ・収支内訳書 |
確定申告書Aだけ* |
* 2022年分の申告から改正される
事業所得には青色申告の特典を適用できるため、雑所得より節税はしやすいです。また、事業所得が赤字の場合は、損益通算により他の所得を抑えられるので、トータルで節税につなげられます。一方、雑所得には会計や申告の手間が少ないというメリットがあります。
とはいえ、そもそも「事業所得と雑所得のどっちで申告しようかなぁ」と自由に選べるわけではありません。その所得を得ることにどれほど事業性があるかを見極めた上で(具体的には、冒頭で示したようなポイントを参考に)、しかるべき申告方法を選択しましょう。