山林の伐採や譲渡によって生じる「山林所得」についてまとめました。山林所得の課税方式は「申告分離課税」です。所得税を計算する際は、その他の所得とは切り離して考え、独自の計算方法を用いて金額をもとめます。
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目次
山林所得とは
「山林所得」とは、山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生じる所得のことです。
ただし、山林の取得から5年以内に生じた所得は「事業所得」か「雑所得」になります。この場合、山林から生じた所得だからといって特別な処理をする必要はないので、通常の事業所得や雑所得と同じように申告しましょう。
保有期間が5年以内 | 保有期間が5年超 | |
---|---|---|
事業として営まれている | 事業所得 | 山林所得 |
事業として営まれていない | 雑所得 |
保有期間が5年以内
“事業として営まれているかどうか”について、具体的な判断基準は設けられていません。保有期間が5年以内の山林から生じた所得について「事業所得」か「雑所得」、どちらに分類するかは、山林の規模や業務の実態などから総合的に判断することになります。
保有期間が5年超
山林の保有期間が5年を超えていれば「山林所得」として扱います。これを事業として営んでいれば、青色専従者給与を経費にできる(または白色専従者控除を受けられる)などの優遇があります。事業かどうかの判断には、山林面積50ヘクタールの基準などがありますが、こちらも総合的な判断が必要です。
また、保有期間が5年超の山林を“山ごと”譲渡する場合、山林所得として扱われるのは“木の部分”のみです。残りの“土地部分”は「譲渡所得」として扱います。
他の所得と「損益通算」ができる
もし山林所得が赤字になったら、他の所得(事業所得・不動産所得・譲渡所得)の黒字と相殺(損益通算)することができます。
- 損益通算とは
- 事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得が赤字になった場合、ある一定のルールに従って、他の所得の黒字金額から差し引くことができる。これを「損益通算」という。
たとえば、林業を営みながら個人事業も行っているとしましょう。事業所得は400万円の黒字、山林所得は30万円の赤字となった場合、損益通算によって合計所得金額は370万円になります。
課税方式は「申告分離課税」
山林所得は「申告分離課税」の対象です。他の所得とは切り離し、個別に所得税の金額を計算します。
樹木は育成期間が長く、一度伐採すると次に利益を得るまでに月日がかかります。また、山林所得は他の所得に比べて金額が大きくなりがちです。このような性質への配慮として「総合課税」の所得より低い税率で計算することができます。
課税対象にならない山林所得もある
所有期間が5年を超える山林によって生じた所得であっても、以下のような場合に発生した山林所得は、所得税の課税対象にはなりません。
- 山林を国や地方公共団体に寄附した
- 山林を公益法人等に寄附し、国税庁長官の承認を受けた
- 山林を相続税の物納にあてた
- 滞納処分や強制執行、競売、破産手続などにより山林を譲渡した
これらのいずれかに該当する場合、もし所得を計算する上で損失が生じても、その損失はなかったものとされます。上記のようなケースで発生した所得は、課税対象にならないかわりに、損益通算もできないのです。
所得の計算方法
山林所得は、山林の伐採・譲渡によって得た「総収入」から、「必要経費」や「特別控除」を差し引いて求めます。
山林所得の計算方法
必要経費
山林所得で必要経費にカウントできるのは、山林の管理・育成・搬出などにかかった費用です。たとえば以下のような費用が、必要経費として扱えます。
- 取得費…………植林費用など
- 育成費…………下刈費用など
- 管理費…………山林の維持管理にかかった費用など
- 譲渡費用………伐採費、搬出費、仲介手数料など
長年にわたって山林を所有してきて、詳細な経費の計算が難しい場合は「概算経費控除」という必要経費の特例を利用できます。この特例は、伐採・譲渡をした年から起算して15年前の12月31日以前から、引き続きその山林を所有している人が対象です。
この特例を利用すると、収入から譲渡費用(伐採費など)を差し引いた金額の50%相当に、譲渡費用を加えた金額を必要経費にすることができます。
特別控除
山林所得には、最高「50万円」の特別控除が適用できます。収入から必要経費を差し引いた金額が50万円以上なら、控除額は「50万円」です。50万円未満なら、控除額は「収入金額 – 必要経費」の金額になります。とくに要件などはなく、山林所得を得ている人なら誰でも受けられる控除です。
この他、山林所得の税金を軽減できる特例がいくつか用意されています。たとえば、自治体の首長などから森林経営計画の認定を受けた所有者は「森林計画特別控除の特例」にもとづき、特別な控除を受けられます。
税金の計算方法
山林所得にかかる所得税は、他の所得とは合算せず「5分5乗方式」という独自の計算方法で求めます。
5分5乗方式 – 山林所得の所得税の計算方法
国税庁は「山林所得に対する所得税の税額表」を公開しています。求められる金額は「5分5乗方式」と同じですが、こちらの表を使ったほうが簡単に税額を求められます。
山林所得に対する所得税の税額表
課税される山林所得金額 | 所得税率 | 計算上の控除額 |
---|---|---|
200,000,000円 ~ | 45% | 23,980,000円 |
90,000,000円 ~ 199,999,000円 | 40% | 13,980,000円 |
45,000,000円 ~ 89,999,000円 | 33% | 7,680,000円 |
34,750,000円 ~ 44,999,000円 | 23% | 3,180,000円 |
16,500,000円 ~ 34,749,000円 | 20% | 2,137,500円 |
9,750,000円 ~ 16,499,000円 | 10% | 487,500円 |
1,000円 ~ 9,749,000円 | 5% | 0円 |
「課税される山林所得金額」に1,000円未満の端数があれば切り捨て
表中の「計算上の控除額」は、計算時の手間を省くためだけに設定されている数字です。必要経費の特別控除や、所得に関する特別控除とはまったくの別物です。
計算例
たとえば、山林所得1,000万円にかかる所得税の金額は、上記の税額表を利用すると下記のように求められます。なお、五分五乗方式で求めても同じ計算結果になります。
- ・10,000,000円 × 10% - 487,500円 = 512,500円
確定申告の提出書類
山林所得の確定申告では、主に下記の書類を提出します。確定申告書は、ポピュラーな「第一表・第二表」に加えて「第三表」も提出する必要があります。
山林所得の申告で提出する主な書類
- 山林所得収支内訳書(計算明細書)
- 申告書 第一表・第二表
- 申告書 第三表(分離課税用)
山林所得収支内訳書(計算明細書)
山林所得の計算は「山林所得収支内訳書」 で行います。収入・必要経費・特別控除の金額などを記入して、課税される山林所得の金額を求めましょう。
確定申告書 第三表 (分離課税用)
「申告書 第三表(分離課税用)」は、分離課税の所得を申告する際に使用します。ここで計算した数字を確定申告書の第一表に転記して、最終的な税額を求めます。
まとめ
所有期間が5年を超える山林を、伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡したことによって得た収入は「山林所得」になります。
山林所得の概要
概要 | 所有期間が5年を超える山林によって生じた所得 |
---|---|
課税方法 | 申告分離課税 |
所得の求め方 | 総収入 - 必要経費 - 特別控除 = 山林所得 |
主な提出書類 |
|
保有期間が5年以下の山林によって得た所得は、「事業所得」か「雑所得」として扱います。この場合は、本記事で紹介したような計算はしません。山林の伐採・譲渡が事業として営まれていれば「事業所得」、そうでなければ「雑所得」です。
なお、山林を山ごと譲渡した場合、山林所得にカウントされるのは“木々の部分”のみです。土地の部分は「譲渡所得」として扱います。