個人事業主向けに、主要な会計ソフトの「電子帳簿保存法」への対応状況をまとめました。適切な会計ソフトを導入すれば、2024年から本格化した改正電帳法にもスムーズに対応できます。
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目次
電子帳簿保存法に対応した会計ソフト【比較一覧表】
個人事業主向けの会計ソフトについて、電子帳簿保存法への対応状況を一覧表にまとめました。これから導入するなら、少なくとも「帳簿」と「電子取引データ(メールで受け取った請求書ファイルなど)」の保存に対応した会計ソフトがおすすめです。
料金(税込) | 帳簿 | 決算書類 | 電子取引 データ |
紙の書類 (スキャナ保存) |
|
---|---|---|---|---|---|
やよいの白色申告 オンライン |
0円/年~ クラウド |
○ | ○ | ○ | ○ |
やよいの青色申告 オンライン |
9,680円/年~ クラウド |
○ | ○ | ○ | ○ |
freee会計 | 12,936円/年~ クラウド |
○ | ○ | ○ | ○ |
マネーフォワード クラウド確定申告 |
11,880円/年~ クラウド |
○ | ○ | ○ | ○ |
ジョブカン青色申告 | 13,200円/年 クラウド |
○ | ○ | × | × |
やよいの青色申告 | 13,200円~ インストール |
○ | ○ | ○ | ○ |
やるぞ!青色申告 | 9,680円~ インストール |
○ | ○ | × | × |
ジョブカン Desktop 青色申告 |
5,500円~ インストール |
○ | × | × | × |
料金(税込) | 帳簿 | 決算書類 | 電子取引 | 紙の書類 |
「帳簿」に○が付いている会計ソフトは、ソフト内で作成した帳簿をそのまま電子保存できます。この機能がないと、帳簿をわざわざ印刷して保存しなくてはなりません。
「電子取引データ」とは、メール等で送受信した請求書や領収書ファイルのことです。これについては、2024年1月分から紙での保存がNGになっています。電子取引データの保存機能がある会計ソフトを使えば、別途で専用システムを導入しなくても、改正に対応できます。
電子帳簿保存法とは?基本のおさらい
電子帳簿保存法とは、帳簿などをデータ保存する際のルールを定めた法律です。帳簿や書類は、基本的に「紙で保存する」か「データ保存する」かを選べます。たとえば「帳簿はデータ保存するけど、請求書は紙で保存する」という選択も可能です。
例外として「電子取引データ」だけは、原則的に全事業者がデータ保存しないといけません。ここでいう電子取引データとは、メールでやり取りした請求書等のPDFファイルや、ネットショップからダウンロードした購入明細データなどを指します。
電子保存の対象となる帳簿や書類 ‐ データ保存に対応すべき?
帳簿 | 優良な電子帳簿 | 無理に対応しなくてOK |
---|---|---|
その他の電子帳簿 | ぜひ対応したい | |
決算書類の保存 損益計算書、貸借対照表など |
無理に対応しなくてOK | |
取引関係書類の保存 紙でやり取りした請求書など |
対応できたら便利(スキャナ保存) | |
電子取引データ メールで送受信した請求書など |
原則、全員が対応しなくてはいけない |
取引関係書類の「スキャナ保存」とは、コピー機についているスキャナや、スマホのカメラなどを使う保存方法です。ちゃんと要件を満たせば、紙で受け取った請求書やレシートを画像データとして保存できます。もとの紙のほうは捨ててもOKです。
ちなみに、紙に手書きで作成した“帳簿”と“決算書”は、スキャナ保存の対象外です。紙の帳簿などは紙のまま保存しないといけません。帳簿や決算書を電子保存したい場合は、会計ソフトなどで作成しましょう。
帳簿の電子保存は2パターン【優良・その他】
帳簿の電子保存は「優良な電子帳簿」と「その他の電子帳簿」の2種類に分けられます。「優良」の要件は非常にシビアで、個人事業主にとってはハードルが高いです。がんばって「優良」を選んでもメリットが少ないので、「その他」に対応できれば充分です。
優良な電子帳簿 | その他の電子帳簿 | |
---|---|---|
事前の届出 | 必要 | 不要 |
保存の要件 | 厳しい | ゆるい |
優遇措置 | あるけどショボい | なし |
「優良な電子帳簿」に対応すれば、下記2つの優遇措置が受けられます。ただ、先述したように、それほど大きなメリットではありません。
「その他の電子帳簿」では上記の優遇措置を受けられません。ただ「その他の電子帳簿」のほうが圧倒的にお手軽です。帳簿をペーパーレス化したいだけなら、ひとまず「その他の電子帳簿」で問題ありません。
電子帳簿保存法対応の会計ソフトを使うメリット
- 紙の書類保管が不要になる
- 専門知識がなくても簡単に電子保存できる
- 法令の変化にもメーカーが対応してくれる
紙の書類保管が不要になる
会計ソフトで作った帳簿や書類をそのまま電子保存できれば、いちいち紙に印刷しなくて済みますし、部屋のスペースも圧迫しません。紙のレシートなども、会計ソフトでデータ化すれば捨てられます。データなので検索も簡単です。
専門知識がなくても簡単に電子保存できる
電子帳簿保存法のややこしい要件を知らなくても、対応の会計ソフトを使うだけで簡単に電子保存ができます。一方、エクセルなどで自作した帳簿の場合は、電子帳簿保存法について理解しないと電子保存できません。
法令の変化にもメーカーが対応してくれる
電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを利用していれば、法改正などがあってもメーカー側で対応してくれます。電帳法はここ数年で何度も改正されていますし、デジタル技術の進歩・普及を見据え、今後のさらなる法改正にも備えたほうがよいでしょう。
電子帳簿保存法対応の会計ソフトを選ぶポイント
宣伝などで「電子帳簿保存法に対応!」と謳われていても、その対応範囲は会計ソフトによってまちまちです。必要な機能に対応しているか、しっかり確認した上で会計ソフトを選びましょう。
機能の必要性 | 対象文書(主な例) | |
---|---|---|
① 優良な電子帳簿 | なくてもOK | ・仕訳帳 ・総勘定元帳 ・現金出納帳 ・預金出納帳 |
② その他の電子帳簿 | 必須級 | |
③ 決算書類 | あれば便利 | ・損益計算書 ・貸借対照表 |
④ スキャナ保存 | 人による | ・紙のレシート ・紙の契約書 |
⑤ 電子取引データ | 必須級 | ・メールでやり取りした請求書 ・メールでやり取りした領収証 |
①「優良な電子帳簿」として電子保存する機能
「優良な電子帳簿」に対応できる会計ソフトを選んでも、すぐに「優良」の要件を満たせるわけではありません。自分で税務署に届け出をしないといけませんし、日々の記帳も通常より面倒になります。安易な気持ちで「優良」を選ぶのはやめておきましょう。
②「その他の電子帳簿」として電子保存する機能
「その他の電子帳簿」に対応した会計ソフトなら、作成した帳簿を紙に印刷せずに済みます。帳簿をペーパーレス化するだけなら「その他」に対応できれば充分です。とくにクラウド型が使いやすく、帳簿をつけるだけで自動的に電子保存されます。
③ 決算書類を電子保存する機能
決算書類とは、損益計算書や貸借対照表のことです。年に数枚作るだけの書類で、かさばるものではないので、紙で保存しても邪魔になりにくいです。よって、電子保存の優先度はあまり高くないと言えます。対応していればラッキー、ぐらいの感覚でOKです。
④ スキャナ保存の機能
紙でやり取りした請求書やレシートなどは「スキャナ保存」の対象です。スキャナ保存に対応したスマホアプリなどを使って、紙の書類を簡単にデータ化できます。ただ、紙のほうが管理しやすいと感じる人もいるでしょうから、ここは好みが分かれるところです。
⑤ 電子取引データを電子保存する機能
電子取引データの電子保存は、原則として全事業者が対応しなくてはいけません。いまのところ、経過措置により要件がゆるめられていますが、このような措置がいつまで続くかわからないので、早めの対応が吉でしょう。
【補足】JIIMA認証はあまり重視しなくてOK
「JIIMA認証」とは、法令の各要件をクリアしている、というお墨付きのことです。上記のようなマークで、対応状況をひと目で見分けられます。ただ、JIIMA認証の記載がないソフトでも、実際は対応している場合があります。あくまで指標の一つと考えましょう。
クラウド会計ソフト大手3社の電子帳簿保存法への対応
個人事業主向けのクラウド会計ソフトのなかでは、とくに大手3社の「弥生・freee・マネーフォワード」の人気が高いです。いずれも電子帳簿保存法にしっかり対応しているので、各種文書の電子保存も簡単にできます。
弥生 | freee | マネーフォワード | |
---|---|---|---|
優良な電子帳簿 | × | ◯ | ◯ |
その他の電子帳簿 | ◯ | ◯ | ◯ |
決算書類 | ◯ | ◯ | ◯ |
スキャナ保存 | ◯ | ◯ | ◯ |
電子取引データ | ◯ | ◯ | ◯ |
弥生のクラウド会計ソフトは「優良な電子帳簿」には非対応ですが、「その他の電子帳簿」にはしっかり対応しています。特別な事前設定などは不要で、ただ帳簿をつけるだけで自動的に電子保存されます。紙に印刷する必要もありません。
freeeとマネーフォワードのクラウド会計ソフトは、どちらも「優良な電子帳簿」に対応しています。優良帳簿として利用するには、税務署への届出と事前設定が必要です。この設定などをしなかった場合は、自動的に「その他の電子帳簿」として電子保存されます。
やよいのオンラインシリーズ
「やよいの白色申告 オンライン」と「やよいの青色申告 オンライン」は、初心者におすすめの低価格な会計ソフトです。電帳法に未対応の部分もありますが、「徹底的にペーパーレス化したい!」という強いこだわりがなければ、現状の機能でも十分でしょう。
料金(税込) | 優良な電子帳簿 | その他の電子帳簿 |
---|---|---|
白色:無料~ 青色:11,330円/年~ |
× | ○ |
決算関係書類 | 電子取引データ | 紙の書類 (スキャナ保存) |
○ | ○ | ○ |
帳簿の電子保存
弥生の会計ソフトでは、作成した帳簿が自動的に電子保存されます。特別な操作は必要ありません。「優良な電子帳簿」の要件には未対応ですが、電子帳簿保存の特典(過少申告加算税の軽減など)を狙わないなら気にしなくてOKです。
決算書類の電子保存
弥生の会計ソフトで作成した決算書類(損益計算書や貸借対照表)は、自動的に電子保存されます。特別な操作は必要ありません。
電子取引の電子保存
メール等で交付・受領した契約書や請求書は、弥生の「スマート証憑管理」を使って電子保存します。「スマート証憑管理」は、弥生ユーザーが無料で使えるクラウドサービスです。下図のような画面から、簡単に書類データをアップロードして保存できます。
「スマート証憑管理」は、弥生が提供する請求書作成サービスの「Misoca(ミソカ)」とも連携できます。連携しておくと、たとえばMisocaを使って請求書を発行した際に、そのデータが自動でスマート証憑管理にアップロードされます。
紙で授受した書類の電子保存(スキャナ保存)
紙で交付・受領した書類も、弥生の「スマート証憑管理」を使って電子保存(スキャナ保存)が可能です。紙の書類をスマホカメラ等で撮影し、そのデータを「スマート証憑管理」にアップロードしましょう。アップロードの流れは、先述した電子取引データの場合と同様です。
freee会計
「freee会計」は、先進的なDX対応に定評のあるクラウド会計ソフトです。電子帳簿保存法にもバッチリ対応しています。弥生やマネーフォワードと比較すると、お値段はちょっと高めですが、安心して電子帳簿保存を始められます。
料金(税込) | 優良な電子帳簿 | その他の電子帳簿 |
---|---|---|
12,936円/年~ | ○ | ○ |
決算関係書類 | 電子取引データ | 紙の書類 (スキャナ保存) |
○ | ○ | ○ |
帳簿の電子保存
freee会計では、作成した帳簿が自動的に電子保存されます。ユーザーが特別な操作をする必要はありません。なお、最初に簡単な設定をしておくだけで「優良な電子帳簿」の要件にも対応できます。
決算書類の電子保存
freee会計で作成した決算書類(損益計算書や貸借対照表)は、自動的に電子保存されます。特別な操作は必要ありません。
電子取引の電子保存
freee会計は、電子取引の保存にも簡単に対応できます。たとえば、請求書がPDFで届いたら、そのファイルをソフト内の「ファイルボックス」にアップロードします。あとは、書類の情報(日付・取引先・金額など)をパパっと入力すればOKです。
なお、freee会計には請求書や領収書の作成機能もあります。ソフト内で作成した取引書類は、自動的に電子保存されます。書類の交付方法(メール or 紙)に関わらず、電子保存のための特別な操作は必要ありません。
紙で授受した書類の電子保存(スキャナ保存)
紙で受領した書類も、スマホカメラ等で撮影すれば電子保存が可能です。電子取引と同じように、画像を「ファイルボックス」にアップロードして、日付・取引先・金額などを入力しましょう。
- freee会計では、最安の「スタータープラン(12,936円/年)」だと、書類を月に5枚までしかファイルボックスに取り込めない。6枚以上の書類を取り込むには「スタンダードプラン(26,136円/年)」を選択する必要がある。
マネーフォワード クラウド
「マネーフォワード クラウド」は、複数のクラウドソフトをセット提供するサービスです。セットに含まれる「クラウド確定申告」や「クラウドBox」などのソフトを組み合わせて、電子帳簿保存法に対応します。
料金(税込) | 優良な電子帳簿 | その他の電子帳簿 |
---|---|---|
11,880円/年~ | ○ | ○ |
決算関係書類 | 電子取引データ | 紙の書類 (スキャナ保存) |
○ | ○ | ○ |
帳簿の電子保存
「マネーフォワード クラウド確定申告」で作成した帳簿は、「優良な電子帳簿」の要件に従って保存できます(最初に簡単な設定が必要)。特別な事前設定などをしなくても、「その他の電子帳簿」の要件は満たせます。
決算書類の電子保存
「マネーフォワード クラウド確定申告」で作成した決算書は、自動的に電子保存されます。特別な操作は必要ありません。
電子取引の電子保存
メール等でやり取りした契約書や請求書は「マネーフォワード クラウドBox」を使って電子保存できます。操作の流れは、書類データをドラッグ&ドロップでアップロードして、日付などを入力するだけです。
紙で授受した書類の電子保存(スキャナ保存)
紙で受領した書類は、スマホカメラ等で撮影して「マネーフォワード クラウド確定申告」にアップロードします。記帳画面に「添付ファイル」というボタンがあるので、そこから請求書や領収書の画像をアップロードして保存します。
よくある質問
Q. 対応状況で特に重要なのはどの部分?
「帳簿の電子保存に対応しているか?」は必ずチェックしましょう。帳簿に関しては、会計ソフトでそのまま保存しておくのが断然ラクです。会計ソフトが帳簿の電子保存に対応していない場合、何らかの別ソフトにデータをエクスポートするか、紙で保管しておくなどの対応が必要になります。
Q.「優良な電子帳簿」にも対応しているほうがいい?
必ずしも「優良な電子帳簿」の要件に対応している会計ソフトを選ばなくて構いません。青色申告65万円控除の要件は「電子帳簿保存」ではなく「電子申告」を実施することでもクリアできます。
Q. 会計ソフトが「書類」の電子保存に対応していない場合は?
パソコン等で作成した書類の保存(電子データ保存)については、要件がさほど厳しくないので、OSに標準で備わっているファイル管理機能でも対応できます。一方、紙で作成 or 受領した書類の保存(スキャナ保存)については、会計ソフト等を利用するのが無難です。
Q. 会計ソフトが「電子取引の取引情報」の電子保存に対応していない場合は?
電子取引の取引情報は、OSに標準で備わっているファイル管理機能(エクスプローラーやFinderなど)でも電子保存に対応できます。ただ、その場合は「事務処理規程」を作ったり、ファイル名を工夫したりする必要があるので、はじめから対応している会計ソフトを使うほうがラクではあります。
まとめ – 大手会計ソフトの電子帳簿保存法対応
大手3社のクラウド会計ソフトを使えば、2024年以降の改正電帳法にもスムーズに対応できます。細かな保存要件を把握していなくても、ひとまずソフトの説明に従って処理しておけばOKです。
大手クラウド会計ソフトの電帳法対応【比較一覧表】
弥生 | freee | マネーフォワード | ||
---|---|---|---|---|
帳簿 | 優良 | × | ○ | ○ |
その他 | ○ | ○ | ○ | |
決算関係書類 | ○ | ○ | ○ | |
電子取引 | ○ | ○ | ○ | |
紙の書類 (スキャナ保存) |
○ | ○ | ○ | |
利用料金 (税込) |
【白色申告】 フリープラン 0円 ベーシックプラン 12,650円/年 初年度は無料 トータルプラン 23,100円/年 初年度は半額 |
スターター 1,628円/月 12,936円/年 スタンダード 2,948円/月 26,136円/年 プレミアム 43,780円/年 |
パーソナルミニ 1,408円/月 11,880円/年 パーソナル 1,848円/月 16,896円/年 パーソナルプラス 39,336円/年 |
|
【青色申告】 セルフプラン 11,330円/年 初年度は無料 ベーシックプラン 18,975円/年 初年度は無料 トータルプラン 33,000円/年 初年度は半額 |
||||
弥生 | freee | マネーフォワード |
「改正電帳法に低コストで対応したい!」という個人事業主には、弥生のクラウド会計ソフトがおすすめです。「優良な電子帳簿」には未対応ですが、実務上の重要なポイントには問題なく対応できます。
「この機会に電子保存にバッチリ対応しておきたい!」という個人事業主は、freee会計を検討してもよいでしょう。帳簿書類の電子保存に幅広く対応できるうえ、保存に関わる操作もシンプルでわかりやすいです。