消費税は、消費者が事業者に税金を預け、預けられた税金を事業者が代わりに納める“間接税”とされています。ただ、一部においては、消費者が預けたはずの税金が税務署に納められず、事業者の取り分になります。これが俗にいう、消費税の「益税(えきぜい)問題」です。
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益税が発生する要因
現行の制度では、受け取った消費税相当の金額が合法的に事業者の利益となるケースがあります。一般的には、この金額そのものを「益税」と呼んだり、問題自体を「益税問題(または益税)」と呼んでいます。益税は、主に以下2つの制度によって発生するといわれています。
- 事業者免税点制度(免税事業者が得る益税)
- 簡易課税制度(課税事業者が得る益税)
税務署に納める消費税額の計算業務は煩雑で、小規模な事業者にとっては負担が大きいです。そのため、零細事業者の納税が免除される「事業者免税点制度」や、納付金額の計算を簡単に済ませる「簡易課税制度」が設置されています。
ただ、近年は会計ソフトが普及していることなどから、以前よりも消費税の納付にかかる事務処理が困難ではなくなったと考えられます。
要因① 事業者免税点制度(免税事業者が得る益税)
すべての事業者は、消費税の納付という観点から「課税事業者」と「免税事業者」に大きく二分できます(消費税の事業者免税点制度)。消費税の納付が免除されているのが、免税事業者です。
課税事業者・免税事業者にかかわらず、事業者は売上(報酬)を受け取る際に消費税相当分を請求できます。課税事業者はその受け取った消費税を納める義務がありますが、免税事業者の場合、この受け取った分はそのまま懐に入ります。
たとえば、商品を売り上げて顧客から「30,000円+消費税相当分3,000円=33,000円」を受け取ったとします。免税事業者なら、この3,000円を納付する必要はないので、事業者のものになります。
免税事業者の要件
- 前々年の課税売上高が1,000万円以下である
- 特定期間の課税売上高、もしくはその間に支払った給与が1,000万円以下である(個人事業における特定期間は前年1月1日~6月30日のこと)
上記の要件を両方満たす事業者が、免税事業者です。開業当初から2つ目の要件を満たせなくなるほど儲かっているケースを除き、ひとまず開業してからの2年間は免税事業者でいられると考えてOKです。
要因② 簡易課税制度(課税事業者が得る益税)
課税事業者は基本的に「売上時に受け取った消費税 - 仕入時に払った消費税」の計算で、納付する消費税の金額を算出します(原則課税方式)。しかし、一定の要件をクリアすると「簡易課税制度」を適用できます。益税を目当てにこの制度を選択する事業者は多いです。
簡易課税制度とは、簡単に説明すると「小規模な事業者は納付する消費税額の計算を簡単にできる」という制度です。年間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、届出書を事前に提出することで簡易課税制度を選択できます。
簡易課税制度で計算する際に使用する「みなし仕入率」ですが、この数値は事業の種類ごとに一定の割合が定められています。仕入などで支払った実際の消費税額よりも、みなし仕入率で計算した金額のほうが大きくなれば、この差額が「益税」と呼ばれます。
たとえば小売業の場合、売上時に預かった消費税が30万円なら、差し引ける金額は24万円になります(小売業のみなし仕入率は80%)。仮に、実際の仕入にかかった費用が20万円だとしたら、差額の4万円分が益税となるわけです。
インボイス制度によって益税がなくなる?
2023(令和5)年10月に「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が導入されました。これにより、結果として「事業者免税点制度によって発生する益税」が減少するのではないかといわれています。
- インボイス制度
- この制度下では、課税事業者が仕入税額控除を受けるときに「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となる。この適格請求書は、税務署長に認められた課税事業者だけが発行できる(免税事業者は発行できない)。
インボイス制度が導入されると、「適格請求書」が発行できない免税事業者は、課税事業者と取引しづらくなると考えられています。
ただ、インボイス制度の影響で大きな混乱が起きないよう、様々な救済措置も用意されています。消費税の80%が控除される「2割特例」などもあるので、対象となっている事業者はぜひ有効活用していきましょう。