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インボイス制度で屋号のみを記載することはできる?氏名を公表したくない場合は?

更新日: 2024/12/13 投稿日: 2022/07/15
インボイス制度で屋号のみを記載することはできる?氏名を公表したくない場合は?

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目次

    インボイス制度で屋号のみを記載することはできる?

    結論から言うと、個人事業主の場合、インボイス制度では「氏名を公表せずに屋号のみを公開する」ことはできません。国税庁が運営する「公表サイト」を通じて、クライアントに本名などが知られる仕組みになっています。

    インボイス制度による本名バレの仕組み(氏名のネット公開)

    クライアントにインボイス(正式名称: 適格請求書)を発行する際は、必ず自分の登録番号(T+13ケタ)を請求書に記載しなくてはいけません。クライアントが公表サイトにアクセスし、この登録番号を入力すると、画面に本名などの情報が表示されます。

    公表サイトに掲載される個人事業主の情報

    必須 氏名 原則として戸籍名を掲載するが、以下でも代用可能
    ・旧姓の氏名*
    ・外国人の通称*
    登録番号 インボイスに必ず記載する「T + 13ケタ」
    登録年月日 インボイスが発行できるようになった日
    取消年月日 インボイスが発行できなくなった日(取消or失効)
    任意 屋号 主なビジネスネーム
    所在地 主な事業所の所在地

    * ただし、旧姓や通称は住民票に併記されているものに限る

    上記の情報にアクセスできるのは、登録番号を知っている人だけです。本名からの逆引き検索などはできません。「会社に副業がバレたらまずい」という人もいるかもしれませんが、登録番号を知られない限り、公表サイトからバレることはないと考えてOKです。

    「どうしても個人名を公表サイトに掲載したくない!」という場合は、法人化すれば法人名のみの公表で済みます。ただ、法人謄本には代表者の氏名などが記載されており、その気になれば基本的には誰でも閲覧できるため、根本的な解決策にはなりえないでしょう。

    氏名を隠して活動している個人事業主・フリーランスに生じる弊害

    インボイス制度により、取引先から「適格請求書(インボイス)」という形式の請求書を要求されることがあります。この影響で、氏名を隠して活動している個人事業主・フリーランスには下記のような弊害が生じます。

    • インボイスの発行には「適格請求書発行事業者」になる手続きが必要
    • 適格請求書発行事業者になると、国税庁のサイトで名前などが公表される
    • 個人事業主は氏名の公開が必須(法人の場合は会社名など)
    • 氏名の代わりに「屋号」や「ペンネーム」を掲載することはできない

    インボイスを発行できない場合、クライアントから取引を敬遠される恐れがあります。かといって、インボイスを発行するために「適格請求書発行事業者」になると、名前などの情報がネットで公開されてしまうわけです。

    【インボイス制度】本名がネット公開されるサイトの例

    名前を隠して「ペンネーム・ビジネスネーム・芸名」などで活動している個人事業主やフリーランスは、”本名バレ”のリスクがあることを理解しておく必要があります。会社に隠れてこっそり副業をしている会社員などにとっても、ちょっと厄介な仕組みです。

    そもそもインボイス制度とは

    インボイス制度とは、ざっくり言うと「国が定めた請求書様式(= 適格請求書)」を普及させるための制度です。制度開始後は、取引先から「請求書は適格請求書の形式でヨロシク」とお願いされる場合があります。

    適格請求書は、従来の一般的な請求書に「登録番号」や「税率ごとの消費税額」などを加えた様式になっています。

    【インボイス制度】区分記載請求書と適格請求書の違いを比較

    適格請求書に記載する「登録番号」は、税務署が認めた「適格請求書発行事業者」だけに割り振られるIDのようなものです。制度上、消費税の免税事業者は「適格請求書発行事業者」になれません(登録番号を割り振ってもらえない)。

    「免税事業者」とは、消費税を税務署に納める義務がない事業者のこと。逆に、消費税の納付義務がある事業者を「課税事業者」と呼ぶ。個人事業主の場合は、前々年の売上が1,000万円を超えると自動的に「課税事業者」になる。

    適格請求書を発行できないと、課税事業者が商品を買ってくれなくなる恐れがあります。課税事業者は、経費を支払うときに適格請求書をもらっておかないと、税務署に納める消費税額が増えてしまう場合があるからです。このあたりは、下記の記事で詳しく説明しています。
    >> インボイス制度の基本を5分でおさらい!

    本名がバレる仕組み

    適格請求書発行事業者になると、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で名前が公開されます。

    このサイトは、簡単に言うと「取引相手が本当に適格請求書発行事業者なのか」を確認するためのサイトです。適格請求書に記載された「登録番号」を入力することで、その事業者の情報を閲覧できます。

    インボイス制度による本名バレの仕組み(氏名のネット公開)

    個人事業主の場合、「氏名又は名称」の欄には必ず本名が記載されます(住民票に「旧姓」や「通称」が併記されている人は、その名前を掲載することもできる)。このほか、任意で「屋号」や「事務所の住所」を一緒に公開することも可能です。

    このサイトでは、適格請求書発行事業者の一覧表もダウンロードできます。この一覧表には、全事業者の「登録番号」や「登録日」が掲載されています。(従来は名前や所在地も載っていたが、2022年9月26日以降は削除されている)
    インボイス制度の「本名バレ」は解決した?名前が公開される仕組み

    インボイス制度による氏名公表(適格請求書発行事業者の一覧)

    氏名を他人に知られたくない人はどうしたらいい?

    インボイスを発行する以上、取引関係者に氏名を知られることは原則として避けられません。その上でどのような対策ができるのか、わかりやすく整理します。

    1. 適格請求書発行事業者になるのを諦める
    2. クライアントに「秘密保持契約(NDA)」を結んでもらう
    3. 中間業者に取引を委託して「媒介者交付特例」を使う

    対策① 適格請求書発行事業者になるのを諦める

    そもそも適格請求書発行事業者にならなければ、公表サイトに掲載されることもありません。その場合は、当然ながらインボイスは発行できないため、クライアントから取引を敬遠されたり、消費税分の値下げを要求されたりする恐れもあります。
    インボイス制度で値下げ要求されたら?免税事業者の対応方法まとめ

    対策② クライアントに「秘密保持契約(NDA)」を結んでもらう

    クライアントから第三者への情報漏洩については、一定の対策が可能です。秘密保持契約(NDA)により、仕事で知り得た情報について他言できないよう約束をすることで、漏洩リスクを抑えられます。

    テンプレートから簡単に契約書を作成できる電子契約サービスもあるので、それほど難しい手続きではありません。ただ、契約書の性質上、当事者の氏名や住所を記載するのが通例なので、クライアントには氏名だけでなく住所まで知られてしまうのが難点です。
    個人事業主向けの電子契約サービスまとめ【無料〜】

    対策③ 中間業者に取引を委託して「媒介者交付特例」を使う

    下図のように中間業者を挟むことで、氏名を知られる相手を中間業者だけに限定できます。クライアントとは直接インボイスを交わさないため、登録番号を知られずに済みます(消費税法施行令70の12①)。

    インボイス制度の「媒介者交付特例」をわかりやすく図解

    ペンネームや芸名で活動するクリエイター(YouTuber・VTuber・漫画家・作家・アーティスト・俳優など)の個人情報を目的として、クライアントを装って近づいてくる悪質なケースなどにも、この方法なら対処可能です。ただ、中間業者に対しては登録番号を教える必要があるため、万全を期すのであれば、中間業者と秘密保持契約を交わしておくとよいです。

    なお、この「媒介者交付特例」は、商品の販売や請求書の発行などの業務を委託する際の事務負担を軽減するために設けられた制度です。個人のプライバシー保護を目的とした制度ではない点は理解しておきましょう。

    まとめ ‐ 屋号や氏名に関するQ&A

    インボイス制度により、国税庁の「公表サイト」で個人事業主の氏名が公開されています。氏名などの情報を閲覧できるのは、登録番号を知っている人だけです。本記事で解説した内容などを、Q&A方式でコンパクトにまとめます。

    本名バレを回避する方法はある?
    現状、個人事業主が「適格請求書発行事業者」になると、氏名のネット公開は避けられません。本名を隠したい場合は「取引先と秘密保持契約(NDA)を結ぶ」などの方法で、拡散防止の対策をしましょう。
    秘密保持契約にも使える!電子契約サービスまとめ
    どうしても本名を知られたくない場合は?
    そもそも「適格請求書発行事業者」にならなければ、本名がネット公開されることはありません。ただ、適格請求書(インボイス)を発行できないと、課税事業者から取引を敬遠される恐れがあるので、慎重に検討する必要があります。
    法人化すれば氏名は公表されない?
    国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」に関しては、法人化すれば氏名は公表されません。そのかわりに、法人名や法人の所在地などが公表されます。

    ただ、法人の登記を行うと、代表者の氏名や住所が「登記事項証明書」に記載されます。この証明書は、赤の他人であっても、法人名や所在地を知っていれば、オンライン手続きにより手数料500円ほどで取得できます。

    本名の代わりに「旧姓」や「通称」でもいいの?
    住民票に「旧姓」か「通称」が併記されている場合に限っては、本名の代わりにそれらを公開することもできます。住民票に旧姓・通称を併記できるのは外国人住民の方だけです。
    そもそも氏名をネット公表する目的は?
    「適格請求書発行事業者公表サイト」は、登録番号の有効性を確認するためのサイトです。本来は、取引相手から受け取った適格請求書について「この登録番号ってホンモノかな?」などと確認する目的で利用されます。
    逆に、本名から登録番号などを調べることはできる?
    従来は、登録事業者の全件データをダウンロードして、そのファイル上で「文字検索」をすれば、名前から登録番号などを逆引きすることも可能でした。しかし、現在は全件データから住所や氏名が削除されたので、名前から登録番号を調べることはできなくなっています。
    屋号も公開できるって聞いたんだけど?
    「氏名に加えて屋号も公開する」ということは可能です。しかし「氏名の代わりに屋号を公開する」ということはできません。屋号の公開は任意ですが、本名の公開は必須です。
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