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「住民税の申告」を行う義務について

更新日: 2024/09/02
「住民税の申告」を行う義務について

個人事業主や会社員に向けて、「住民税の申告」を行う義務について説明します。ネット上の情報では「申告が義務である」と「申告するのがおすすめ」という話が、明確に区別されていないことも多いです。いちど法律に基づいて、キッチリ整理しておきましょう。

INDEX

目次

    住民税の申告義務について

    「住民税の申告」は、1年間の収入等を申告書にまとめ、市役所などに提出する手続きです。住民税の額は、この申告などをもとに決定されます。申告というと「所得税の確定申告」がポピュラーですが、じつは住民税にも申告の手続きが存在するのです。

    実際に住民税の申告を求められるのはレアケースですが、本記事では住民税の申告にスポットをあてて考察していきます。まずは、申告が必要かどうかについて、住民税を基点にしたフローチャートで確認してみましょう。

    住民税の申告義務(確定申告をすれば不要)

    たとえば、一般的な会社員には、そもそも住民税の申告義務がありません。また、それ以外の人も所得税の確定申告を行えば、住民税の申告義務を果たしたことになります。

    結論から言うと、注意が必要なのは「住民税の申告義務はあるが、確定申告の義務はない」という人だけです。

    住民税の申告義務があり、確定申告の義務がない人(主な例)

    • 給与のほかに所得があるが、その合計が年間で20万円以下の会社員
    • 所得税の計算上、課税所得がゼロになる個人事業主

    1つ目には、副業で少額の事業所得雑所得を得ている会社員などが該当します。会社員の場合、基本的に「給与所得以外の所得」が合計20万円以下なら、確定申告の義務はありません。しかし地方税法上、そのような人も住民税の申告義務はあるのです。

    2つ目には、所得の低い個人事業主などが該当します。「所得 ≦ 所得控除」となり、確定申告の義務がないときでも、ひとまず住民税の申告はしたほうがよいと考えておきましょう。(自治体の条例によって、特に所得が低い人は住民税の申告義務がない場合もある)

    Q1. 住民税の申告義務がない人って?

    まず、地方税法では「日本国内に住所がある人は、原則的に住民税の申告が必要ですよ」と定められています。しかし同時に、「こういう人は住民税の申告をしなくていいですよ」とも定められています。

    引用

    第二百九十四条第一項第一号に掲げる者[=市町村内に住所を有する個人(引用者注)]は、三月十五日までに、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申告書を賦課期日現在における住所所在地の市町村長に提出しなければならない。ただし…(中略)…給与又は公的年金等の支払を受けている者で前年中において給与所得以外の所得又は公的年金等に係る所得以外の所得を有しなかつたもの…(中略)…並びに所得割の納税義務を負わないと認められる者のうち当該市町村の条例で定めるものについては、この限りでない。

    地方税法第317条の2(市町村民税の申告等)

    ※ 道府県民税、都民税・特別区民税についても同様に定められている

    要するに、下記のような人は、そもそも住民税の申告義務がないのです。

    住民税の申告義務がない人(主な例)

    1. 前年の所得が給与所得だけだった会社員
    2. 前年の所得が公的年金等の所得だけだった年金受給者
    3. 住民税の所得割を免除される人のうち、市区町村の条例で定める人

    ほとんどの会社員は、この①に該当します。したがって、住民税の申告は不要です。ただ、副業で事業所得や雑所得を得ている会社員は、ここに含まれていないので注意しましょう。

    ③には、おおよそ「住民税が非課税になるくらい所得の低い人」が該当すると考えましょう。ただ、具体的な基準は自治体によって異なるので、気になる人は各自治体のウェブサイトなどで確認してください。(このような条例がない場合もあります)

    Q2. 確定申告をすれば申告不要?

    住民税の申告義務がある人も、確定申告をすれば住民税の申告は不要になります。これは、地方税法で「所得税の確定申告書が提出された時点で、住民税の申告も済んだと見なすよ」と定められているためです。

    引用

    …(前略)…前年分の所得税につき所得税法第二条第一項第三十七号の確定申告書(以下本条において「確定申告書」という。)を提出した場合…(中略)…は、当該確定申告書が提出された日に前条第一項から第四項までの規定による申告書が提出されたものとみなす。…(後略)…

    地方税法第317条の3

    ※「前条第一項から第四項までの規定による申告書」とは住民税の申告書のこと

    たとえば下記のような人には、所得税の確定申告が義務付けられています。その義務さえしっかり果たしていれば、別途で住民税の申告を強いられることはありません。

    確定申告が義務付けられている人(主な例)

    • 「給与所得と退職所得以外の所得」が20万円超の会社員
    • 副業の給与収入と「給与所得と退職所得以外の所得」の合計が20万円超の会社員
    • 所得の合計金額が所得控除の額よりも大きい個人事業主

    確定申告が必要な方 – 国税庁

    なお「確定申告の義務がない人」が、任意で確定申告を行うことも可能です。任意で確定申告をした場合も、住民税の申告は不要になります。ちなみに、任意で確定申告をすることで、所得税の還付を受けられる場合もあります(還付申告)。

    Q3. 対象者が申告をしないとどうなる?

    住民税の申告が必要なのに「うっかり申告をしていなかった!」という場合、それが発覚したときに、本来の住民税に「延滞金」を加えて納めることになります。といっても、故意に脱税でもしていない限り、延滞金が高額になることはそうありません。

    多くの自治体は、収入状況を把握できない人に対して所得の調査書類(「簡易申告書」「未申告調査票」などという)を送付しています。うっかり申告を忘れていても、これが届いた時点で申告・納税をすれば、延滞金が何年分も積み重なることはないのです。

    引用

    ◎収入状況等の調査について(9月~10月頃)
    昨年中の収入(所得)について、所得税の確定申告もしくは個人市・府民税の申告をされていない方、または、勤務先から給与支払報告書が提出されていない方などを対象に、収入状況等の調査のための往復はがきをお送りしますので、調査はがきに記載の期限までにご提出ください。

    個人市・府民税に関する調査について – 大阪市

    ただ、副業会社員や、誰かの扶養親族になっている個人事業主は、このような調査の対象にならないケースも多いです。調査票が届かない場合などは、ほとんど個人の自発的な申告にゆだねられているのが実情なので、自分で申告義務の有無を確認しておきましょう。

    ちなみに、札幌市のウェブサイトでは延滞金のシミュレーションができます。計算方法や利率は全国一律なので、気になる人は試算してみてください。
    >> 延滞金シミュレーション – 札幌市

    【補足】住民税の金額が決まる仕組み

    住民税の税額が決まる仕組みを理解していると、申告の必要・不要が分かりやすいです。

    住民税の税額は、納税者の申告によって決まるのでなく、提出された各種の資料を参考にして自治体の長が決定します(賦課課税方式)。その際には、たとえば下記のような書類が参考にされます。

    会社などが提出する書類 個人が提出する書類
    ・給与支払報告書
    ・公的年金等支払報告書
    ・所得税の確定申告書
    ・住民税の申告書

    「給与支払報告書」は、給与の支払者が「〇〇さんに〇〇円を支払いました」と自治体に報告するための書類です。通常、会社はこの書類の提出を義務付けられています。これによって、自治体は会社員の給与収入を把握できるわけです。

    また、税務署に提出された「所得税の確定申告書」の情報は、自治体にも共有されます。そのため、個人事業主の収入状況についても、自治体は把握することができています。

    しかし「提出された書類では把握できない所得がある人」や「そもそも書類が提出されていない人」について、自治体は住民税を適切に決定することができません。したがって、そのような人は「住民税の申告書」の提出が必要になるのです。

    自治体によって案内が異なる場合も!

    自治体によっては、法律上「住民税の申告が必要ない人」にも、申告書の提出を求めている場合があります。これは、あくまで税額決定などの精度を上げるための措置だと考えられます。そのような案内があるときは、自治体の指示に従っておきましょう。

    たとえば、東京都豊島区は「20万円以下の年末調整を受けていない給与」がある人にも住民税の申告を求めている。しかし、地方税法に照らせば、そのような人に必ずしも住民税の申告義務があるわけではない。また、豊島区の条例でも特段そのような定めは無いことから、あくまで住民に対する要請であると考えられる。
    >> 確定申告の必要はないが、住民税申告の必要があるかた – 豊島区

    まとめ – 2つの申告義務を整理!

    「所得税の確定申告」と「住民税の申告」のそれぞれについて、申告義務の有無でハッキリさせたい部分を下表にまとめました。基本的には下表のとおりになりますが、例外的な事項も存在します。細かな事項については、国税庁の説明等も合わせてご確認ください。

    会社員の場合

    所得税の
    確定申告
    住民税の申告
    本業の収入しか得ていない
    (年収2,000万円以下の場合)
    義務なし 義務なし
    2つ以上の
    会社に勤務
    副業の給与収入 > 20万円 義務あり 義務なし
    副業の給与収入 ≦ 20万円 義務なし 義務なし
    給与の他に
    所得がある
    給与以外の所得 > 20万円 義務あり 義務あり
    給与以外の所得 ≦ 20万円 義務なし 義務あり

    給与所得者で確定申告が必要な人 – 国税庁

    個人事業主の場合

    所得税の
    確定申告
    住民税の申告
    所得 > 所得控除 義務あり 義務あり
    所得 ≦ 所得控除 義務なし 義務あり
    (条例による)

    確定申告が必要な方 – 国税庁

    所得税の確定申告をすれば、住民税の申告義務も履行したことになります。したがって、両方の義務がある人は、所得税の確定申告だけ済ませればOKです。ちなみに、任意で確定申告をした場合も、別途で住民税の申告を行う必要はありません。

    また、上表によらず「住民税が非課税になるくらい所得の低い人」には、住民税の申告義務がない場合もあります。これは各自治体で定められている条例による部分なので、詳しくは各自治体のウェブサイトなどをご確認ください。

    なお、国民健康保険の加入者(個人事業主など)は、確定申告や住民税の申告をもとに保険料が決定されます。自治体に何もデータが無いと、低所得者向けの減免等を受けられない場合があるので、所得がゼロでもどちらか一方は申告をしておくと安心です。

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