2021年度(令和3年度)の税制改正大綱から、個人事業主に関係がありそうな項目を紹介します。大きな改正はありませんが、押印義務や電子帳簿保存の見直し、住宅ローン控除の特例やセルフメディケーション税制の改正が目を引きます。
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目次
主な改正内容 – 個人事業主向け
本記事で紹介するのは、2020年12月に閣議決定された、2021年度(令和3年度)の「税制改正大綱」です。以下の内容を盛り込んだ法案が、2021年3月26日に可決されました。
主な改正内容(予定)
改正項目 | 適用開始時期 |
---|---|
税務関係書類における押印義務の見直し | 2021年4月~ |
電子帳簿保存制度の見直し | 2022年1月~ |
土地にかかる固定資産税などの負担調整措置 | 2021年1月~ |
住宅ローン控除の特例の要件変更 | 2021年1月~ |
セルフメディケーション税制の延長・見直し | 2022年1月~ |
改正法は、2021年4月1日から施行されます。上表のように、適用開始時期は項目ごとに異なりますのでご注意ください。
>> 税制改正のプロセスをわかりやすく解説
その他の改正内容
- ベビーシッター等の料金に対する助成の非課税措置の新設(2021年分~)
- 教育資金、結婚や子育て資金に対する贈与税の非課税措置の見直し(2021年4月~)
- 短期退職所得における2分の1課税の見直し(2022年分~)
- 固定資産税などもeLTAXで電子納付が可能に(2023年度~)
- 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化(2023年度~)
他にも色々ありますが、一般的な個人事業主に関係がありそうなものは、大体これくらいです。ここからは、主な改正内容についてざっくりと紹介していきます。
「押印義務」
2020年12月21日以降は「税務関係書類」への押印が実質不要となりました。確定申告書や決算書も、この「税務関係書類」に該当するので、今後はハンコを押さなくてもOKです。
引用
提出者等の押印をしなければならないこととされている税務関係書類について、次に掲げる税務関係書類を除き、押印を要しないこととするほか、所要の措置を講ずる。
(中略)
(注2) 上記の改正は、令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用する。
(注3) 上記の改正の趣旨を踏まえ、押印を要しないこととする税務関係書類については、施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする。
ちなみに、以下のような書類には、今後もハンコを押さなくてはなりません。といっても、あまり見かける機会はないでしょう。
- 担保提供関係書類および物納手続関係書類
- 相続税などの財産分割協議に関する書類
「電子帳簿保存制度」
電子帳簿保存の承認申請が不要になり、要件も緩和されます。この改正は、2022年1月から適用される予定です。2021年の帳簿づけにおいては、まだ影響はありません。
個人事業主への影響
- 帳簿書類のペーパーレス化が簡単になる
- 65万円の青色申告特別控除の要件はほとんど緩和されない
1.ペーパーレス化の要件(例:仕訳帳・総勘定元帳などの場合)
2021年まで | 2022年から | |
---|---|---|
事前の手続き | 承認申請が必要 | 不要 |
システム要件 | 多い & 難しい | ほぼなし |
システムの概要書 | 備え付け & 事前提出 | 備え付けのみ |
2021年までは、ペーパーレス化の要件が非常に厳しく、多大な労力が必要です。しかし2022年以降は、これらが上表のように大幅に緩和されます。
>> ペーパーレス化の要件など【2021年12月までの現行制度】
>> 緩和後の要件など【2022年1月からの新制度】
2.65万円の青色申告特別控除の要件はほとんど緩和されない
青色申告特別控除については、別途で要件が定められることになります。その要件においては、従来の要件がほぼ据え置きとなります。そのため、個人事業主が電子帳簿保存により65万円の青色申告特別控除の要件を満たすのは、改正後もおすすめできません。
>> 電子帳簿保存がまだまだ個人事業主におすすめできない理由【現行制度】
「固定資産税」
新型コロナによる経済への打撃を和らげるため、土地にかかる固定資産税・都市計画税などの負担が軽減されます。具体的には、一定の宅地等について、以下の調整が行われます。
2021年度のみ | 固定資産税評価額の据え置き |
---|---|
2021年~2023年度 | 従来の「負担調整措置」の継続 |
固定資産税評価額の据え置き
固定資産税や都市計画税の税額は、固定資産税評価額をもとに算出されます。2021年度は、3年に一度の固定資産税評価額の更新年度です。ここ数年は全国的に地価が上昇傾向にあったため、2021年度に限り、上記の調整が図られることになりました。
2021年度の固定資産税評価額は、2020年度を上回らないよう計算されます。その後、2022年度の時点で、改めて固定資産税評価額が更新されます。
従来の「負担調整措置」の継続
ここでいう「負担調整措置」とは、固定資産税評価額が急激に増えた土地については、税額の上がり幅が緩やかになるよう調整する措置のことです。この措置が、2023年(令和5年)まで延長されます。
「住宅ローン控除の特例」
「住宅ローン控除の特例」の要件が、以下のように改正されました。この特例により、控除期間が3年延びて13年間となります(通常の控除期間は10年間)。
- 消費税率10%で取得した住宅である
- 契約時期が2020年10月1日~2021年9月30日である
- 入居時期が2021年1月1日~2022年12月31日である
- 床面積要件と所得要件を満たしている
上記の「契約時期」は、居住用家屋を新築した場合です。増改築や、中古住宅の取得などの場合は、2020年12月1日~2021年11月30日に契約している必要があります。
床面積要件と所得要件(以下のどちらかを満たすこと)
- 「床面積が40㎡以上 50㎡未満」かつ「合計所得金額が1,000万円以下」
- 「床面積が50㎡以上」かつ「合計所得金額が3,000万円以下」
「セルフメディケーション税制」
セルフメディケーション税制は、2021年12月31日までの特例でした。改正により、これが5年延長され、2026年12月31日まで有効となります。同時に、対象となる医薬品などの範囲も見直されます。
上記の改正によって、実際にどの医薬品が対象となるかは未定です。とはいえ、適用開始は2022年分の確定申告なので、とりあえず今年は関係ありません。
健康診査の領収書や結果通知表は添付不要に
現行制度では、健康診査などの一定の取組を行ったことを証明する「取組関係書類」を確定申告書に添付する必要があります。2021年分の確定申告(=2022年2月16日~3月15日に行う確定申告)以降は、この書類の添付を省略できます。
まとめ – 令和3年から適用されるもの
過去に行われた税制改正(2016年度~2019年度)を含めて、2021年(令和3年)に適用開始となる主な改正をまとめておきます。一般的な個人事業主にとって関係がなさそうなものは省きました。
すでに改正が決まっていたもの
2016年度~2019年度の税制改正 | 適用開始時期 |
---|---|
なし | – |
2020年度の税制改正 | |
・利子税、還付加算金等の引下げ ・以下の手続きがオンライン化 「ダイレクト納付の利用届出」 「振替納税の通知依頼」 ・オンライン交付された納税証明書が印刷可能に |
・2021年1月~ ・2021年1月~ ・2021年7月~ |
今回改正されたもの
2021年度の税制改正 | 適用開始時期 |
---|---|
・税務関係書類における押印義務の見直し ・土地にかかる固定資産税などの負担調整措置 ・住宅ローン控除の特例の延長 |
・2021年4月~ ・2021年1月~ ・2021年1月~ |
ちなみに、住民税については、令和3年度(2021年度)から基礎控除や青色申告特別控除などの改正が適用されます。2021年度の住民税は、2020年分の確定申告をもとに計算されますが、所得税とは控除額や非課税範囲が一部異なります。