個人事業主・フリーランス向けに、税務調査を受ける前に準備すべきことをまとめます。しっかり用意しておけば、追徴課税などのリスクを最小限にできます。
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税務調査の流れ
「税務調査」とは、税金の申告漏れや不正の調査です。税務署の職員などが個人事業主やフリーランスの仕事場を訪問し、帳簿や書類を見ながら事実確認を行います。多少の日程調整は可能ですが、調査自体を拒むことはできません。
事前通知の際に「過去3年~5年分の調査をします」などと言われるので、その期間の帳簿などを調査当日までに整理する必要があります。日頃から定期的に書類を整理しておくと、突然の通知があっても慌てずに済みます。
なお、調査対象は個人事業主・フリーランス本人の事業所だけでなく、取引先にまで及ぶ場合もあります(反面調査)。必要資料に不足があると反面調査に至りやすいと言われています。
必要書類などの準備
税務調査の通知が来たら、対象となる書類などをすぐに取り出せるように整理した上で、すべて事業所内にまとめておきます。事業所に私物などを置いている場合は、調査官に余計な疑念を与えないためにも、できるだけ自宅へ持ち帰ったほうが賢明でしょう。
自宅兼事業所(SOHO)でも同様に、調査官を通す予定の仕事部屋などにすべての資料を集めておきます。調査当日、別の部屋に資料を取りに行ったりすると「その部屋も見せてください」などと言われるきっかけになりかねません。
必要書類などの準備 – 個人事業主が用意すべきもの(一例)
帳簿 | 売上の書類 | 必要経費の書類 | その他の書類 |
---|---|---|---|
・法定帳簿 ・仕訳帳 ・総勘定元帳 ・売掛帳、買掛帳 ・固定資産台帳 ・現金出納帳 など |
・注文書 ・見積書の控え ・請求書の控え ・納品書の控え ・領収書の控え ・出荷確認表 など |
・請求書 ・納品書 ・領収書 ・出金伝票 ・税金の納付書 ・クレカの明細書 など |
・申告書の控え ・預金通帳 ・契約書 ・棚卸表 ・社会保険の書類 ・年末調整書類 など |
※白色・青色などの申告区分によって帳簿等の保存義務の範囲は異なる
取引先とやり取りした書類や当時の記録は、すべて揃っているのが理想です。万が一、高額な請求書などの重要書類が見つからないときは、取引先に再発行をお願いすることも検討しましょう。少額な経費であれば出金伝票でも対処できます。
過去の申告内容も点検しておこう!【チェック項目】
- 計上漏れがないか
- 二重計上がないか
- 計上時期がずれていないか
- 家事按分(かじあんぶん)が適切か
- 計算ミスや不備がないか
帳簿・書類の整理をしながら、上記のような点検作業をしておくのがオススメです。もしミスがあっても、税務調査を受ける前に気づいて修正申告をすればペナルティを最小限に抑えられます(詳細は後述)。
その他の準備
税務調査官が見るのは帳簿や書類だけではありません。事業所内のあらゆるものが調査対象になりえると考えましょう。余計な疑いを抱かれないためにも、下記のようなポイントも対策しておくとよいです。
税務調査の準備で盲点になりやすい項目(一例)
現金 | 事業と関係ないプライベートの現金はすべて片付ける |
---|---|
収納 | 金庫・ロッカー・事務机・書類棚をきれいにしておく |
備品 | 固定資産台帳に載っている備品の状態を確認する |
掲示物 | カレンダーや付箋などのプライベートな書き込みに注意 |
記念品 | 取引先でない企業名入りの記念品などは処分する |
業務用パソコン | フォルダやメール履歴の整理をしておく |
業務用スマホ | メールやLINEでのやりとり、アドレス帳を整理する |
SNSの投稿内容 | 事業と関係がありそうな投稿をチェックしておく |
事務処理規程 | 実際の事務作業と齟齬がないか確認する |
家族・従業員 | 事前に調査の趣旨などを説明しておく |
もし協力者がいれば調査官役を演じてもらい、当日のシミュレーションをしてみるのもオススメです。
個人事業主の税務調査でよく聞かれること(一例)
- 開業時期や起業理由
- 事業内容(受注~売上回収までの流れなど)
- 家族構成や従業員の有無
- 月々の家賃やローン支払額
- 取引先の会社名や年間取引額
- 決済手段や取引銀行名
- 記帳などの経理業務の流れ
- 趣味や休日の過ごし方
- 経費計上した飲み代や食事代などの内容
いくら周到に用意しても、予想外の質問は飛んでくるものです。記憶が曖昧なまま不正確な回答をするくらいなら「記憶にないです」と言い切ったほうがよいでしょう。しつこく聞かれたら「後日調べて正式に回答します」と返せばOKです。
ただし、事業に関係がある書類などを勝手に処分して隠したり、偽の証拠や記録を捏造したりするのは絶対にやめましょう。これは「仮装隠蔽」という悪質行為にあたり、重加算税(最大40%)のペナルティを受ける原因にもなります。
ペナルティを最小限にする方法
税務調査の通知をきっかけとして申告漏れに気づいたら、調査を受ける前に自ら修正申告をしましょう。本来なら10%の「過少申告加算税」が課されるケースでも、5%に半減してもらえます。他の税金でも以下のように軽減を受けられる場合があります。
申告漏れなどに気づいたときの対処方法 – 調査前にできること
対処方法 | ペナルティの軽減 | |
---|---|---|
所得税 | 税務調査前に「修正申告書」を提出する | 過少申告加算税 10%→5%* |
源泉所得税 | 税務調査前に不足額をすべて納付する | 不納付加算税 10%→5% |
印紙税 | 「印紙税不納付事実申出書」を提出する | 過怠税 200%→10% |
消費税 | 税務調査前に「修正申告書」を提出する | 過少申告加算税 10%→5%* |
住民税 | 事業所得については対処不要 | – |
個人事業税 | 対処不要 | – |
* 過少申告加算税は15%→10%のパターンもある
「源泉所得税」については、従業員などを雇っていない個人事業主・フリーランスは気にしなくてOKです。従業員や専従者の所得税は、雇い主が給与から天引きする形で預かっておき「源泉所得税」として納付するのが基本です。
「印紙税」は、“5万円以上の取引”で領収書を発行する際などにかかる税金です。通常は「収入印紙」を領収書などに貼り付ける形で納付します。税務調査で貼り忘れを指摘されると、元の税額に対し200%の過怠(かたい)税が上乗せされるので要注意です。
地方税に関しては、法人事業税などのごく一部の税金を除き、そもそも過少申告加算金のようなペナルティはありません。所得税の修正申告をすれば、住民税や個人事業税などの地方税も自動的に修正されるので特別な対処は必要ありません。
まとめ
個人事業主の場合、一般的な税務調査では「過去3年~5年分」の帳簿や書類をまんべんなくチェックされます。日頃のファイリング作業なども税務調査対策を意識して行うと効率的です。
必要書類などの準備 – 個人事業主が用意すべきもの(一例)
帳簿 | 売上の書類 | 必要経費の書類 | その他の書類 |
---|---|---|---|
・法定帳簿 ・仕訳帳 ・総勘定元帳 ・売掛帳、買掛帳 ・固定資産台帳 ・現金出納帳 など |
・注文書 ・見積書の控え ・請求書の控え ・納品書の控え ・領収書の控え ・出荷確認表 など |
・請求書 ・納品書 ・領収書 ・出金伝票 ・税金の納付書 ・クレカの明細書 など |
・申告書の控え ・預金通帳 ・契約書 ・棚卸表 ・社会保険の書類 ・年末調整書類 など |
※白色・青色などの申告区分によって帳簿等の保存義務の範囲は異なる
もし税務調査の通知が来たら、上記のような書類をすべて仕事部屋などに集めておきます。事業に無関係のモノはできるだけ片付けたほうがよいです。調査当日をイメージして、定番の質問をシミュレーションしておくのもオススメです。
家族や従業員がいる場合は、余計な心配をさせない配慮も必要でしょう。「税務署の任意調査に協力することになったが、普段どおり過ごして構わない」「仕事場の私物などは〇〇日までに片付けておくように」などと伝えておけばOKです。