新型コロナの影響を受ける個人事業主向けに、税金や社会保険料を猶予・減額・免除してもらえる制度についてまとめました。コロナ関連の特例は一部終了していますが、ベーシックな救済制度を利用できる場合もあります。
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目次
納付が難しい場合はどうする?
現状、税金・社会保険料の納付が難しいときは、下記のような制度を利用できます。
納付が難しい場合の措置
国税 (所得税や消費税) |
申告や納付をしばらく待ってもらえる 【要件】税務署が認めるような理由で、申告・納付が困難であることなど |
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地方税 (住民税や個人事業税) |
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国民年金 | 保険料の一部 or 全額を免除してもらえる 【要件】前年の所得 or 当年の見込み所得が基準額以下であることなど |
国民健康保険 | 保険料の一部 or 全額を免除してもらえる 【要件】収入が前年比で30%減少していることなど |
昨年はコロナ関連の特例で、各種の救済制度を利用するハードルが下がっていました。しかし、国税・地方税についてはすでに特例期間が終了しています。したがって、猶予を受けるには、もともと存在する制度を頼ることになります。
国税・地方税 | 国民年金・国民健康保険 |
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コロナ関連の特例措置は終了 要件は少し厳しいが ベーシックな救済制度がある |
コロナ関連の特例措置が継続 昨年度に引き続き 要件のハードルは低い |
なお、本記事で説明するのは、あくまで代表的な制度です。これ以外の救済制度を利用できることもあるので、気になる人は税務署で相談してみましょう。
国税(所得税や消費税など)
国税の納付に関して、コロナ関連の特例措置はすでに終了しています。しかし、要件を満たせば、下記のようなベーシックな救済制度を利用できます。ざっくり言うと、どちらも「納付を待ってもらえる制度」ですが、要件や期間が異なります。
- 申告・納付期限の個別延長
- 納税の猶予
① 申告・納付期限の個別延長
概要 | 申告・納付の期限を個別に延長してもらえる制度 |
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遅延の事由 具体例 |
・本人や経理担当者が新型コロナに感染した ・本人や経理担当者が感染者と濃厚接触をした ・保健所や医療機関から外出自粛の要請を受けた |
措置 | 申告・納付の期限を「申告・納付が可能になった日」から最大2ヶ月後まで延長できる |
>> 新型コロナによる確定申告期限の個別延長について(2021年)
期限の個別延長を受けたいときは「申告・納付が可能になった日」から2ヶ月以内に、所定の申請書を税務署へ提出しましょう。申請書の様式はわりとシンプルですが、申告・納付ができなかった理由を具体的に書く必要があります。
- 令和元年分の確定申告については、申告書にひとこと添えるだけで、簡単に申告・納付の個別延長を受けられた。しかし、令和2年分の確定申告においてはその方法が通用せず、別途申請書の提出が必要となる。
② 納税の猶予
概要 | 特定の事情がある場合に限り、1年にわたって納税を猶予してもらえる制度 |
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遅延の事由 具体例 |
・新型コロナの消毒作業で備品や棚卸資産を廃棄した
・本人か生計を一にする親族が病気にかかった ・事業を廃止 or 休止した ・利益の減少などにより事業が著しい損失を受けた |
措置 |
・原則として1年にわたって納税が猶予される ・その間、延滞税は大幅に軽減 or 免除される |
納税の猶予を申し込む際は、税務署に「猶予申請書」を提出します。個別延長の申請書と比べると難しい様式で、納付計画なども記入しなくてはなりません。なお、本来は「財産収支状況書」等の提出も必要ですが、こちらは口頭での説明だけでも問題ないようです。
地方税(住民税や個人事業税など)
地方税にも、国税と同様の猶予制度がもともと設けられています。なお、国税と同じく2021年2月1日まではコロナ関連の特例制度が適用できましたが、現在は終了しています。
納付の猶予
概要 | 特定の事情がある場合に限り、1年にわたって納税を猶予してもらえる制度 |
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遅延の事由 具体例 |
・新型コロナの消毒作業で備品や棚卸資産を廃棄した
・本人か生計を一にする親族が病気にかかった ・事業を廃止 or 休止した ・利益の減少などにより事業が著しい損失を受けた |
措置 |
・原則として1年にわたって納税が猶予される ・その間、延滞税は大幅に軽減 or 免除される |
>> 新型コロナウイルスの影響により納税が困難な方へ – 総務省
地方税による規定は自治体ごとに異なる部分もありますが、これについては法律で定められた全国一律のルールです(地方税法15条)。ただ、申請時の提出書類は自治体によって異なります。詳しくは、各自治体のウェブサイト等でご確認ください。
国民年金の保険料
国民年金の納付が難しい場合には、下記のような免除制度が用意されています。本来は「前年の所得」が基準額を下回った際に利用できる制度ですが、現在は特例的に「当年の見込み所得」が基準額を下回る場合でも利用できます。
国民年金保険料の免除制度
概要 | 保険料の一部 or 全額を免除してもらえる制度 |
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要件 | 世帯主・本人・配偶者それぞれの所得が、後述する「基準額」以下であること |
措置 |
・所得に応じて、保険料の4分の1~全額を免除してもらえる ・将来的に、免除されていた期間の分も一定の割合で年金を受け取れる |
要件にある「基準額」は下記のとおりです。あなた以外に世帯主や配偶者がいる場合は、その人たちの所得も基準額以下でないと免除を受けられません。
基準額 | 免除区分 |
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158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 4分の1免除 |
118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 半額免除 |
78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 4分の3免除 |
(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 | 全額免除 |
- 本人と配偶者“だけ”が全額免除の基準額を下回るときは、免除制度とは別の「納付猶予制度」を利用できる。納付猶予制度を利用している間、将来的な年金の受給額が増えることはないが、受給資格期間は伸びるため、単に「未納」扱いになるよりは断然よい。
なお、免除制度(もしくは納付猶予制度)を利用する場合も、あとから保険料を「追納」すれば、将来的な年金の受給額を満額に持ち直すことができます。少し要件がややこしいですが、ひとまず申請して審査を受けてみるのもアリです。
>> 国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度 – 日本年金機構
国民健康保険の保険料
令和3年度分の国民健康保険料(2021年7月から納める保険料)については、厚労省から下記のような通達が出されています。したがって、基本的には全ての自治体で同様の減免制度を利用できるものと思われます。
国民健康保険料の減額制度(厚労省が示す基準)
概要 | 保険料を減額してもらえる制度 |
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要件 | 世帯の「主たる生計維持者」が以下の要件をすべて満たすこと ① コロナの影響で、前年から30%減少する見込みの収入*がある ② 前年の合計所得金額が1,000万円以下である ③ ①の収入を除くと、前年の合計所得金額が400万円以下である |
措置 | 「主たる生計維持者」の前年所得に応じて、保険料が減額される |
* 給与収入・事業収入・不動産収入・山林収入のどれか
要件にある「主たる生計維持者」とは、要するに「世帯主」のことです。その人の前年所得に応じて、保険料が下記の割合で減額されます(具体的な減免額は自治体が計算してくれます)。
前年の合計所得金額 | 減免の割合 |
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750万円~1,000万円 | 20%減額 |
550万円~750万円 | 40%減額 |
400万円~550万円 | 60%減額 |
300万円~400万円 | 80%減額 |
~300万円 | 全額免除 |
※「~」は「〇〇円超〇〇円以下」を表す