ごく簡単に言うと、前年の所得が35万円以下の個人事業主や、前年の年収が100万円以下の会社員・アルバイトは、住民税が非課税になる可能性が高いです。しかし、実際のボーダーライン(非課税限度額)は、地域や扶養親族の有無などによって異なります。
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目次
【おさらい】住民税のしくみ
住民税には「均等割(全員が一律で納める金額)」と「所得割(所得に応じて納める金額)」があり、その合計金額を住民税として納付します。
確定申告や年末調整が済んでいれば、自治体が納税額を算出してくれます。なので、非課税になるかどうか、自分で計算する必要はありません。
ただ、医療や教育に関して、住民税非課税の人に対する様々な支援制度があります。申請をしないと受けられない場合もあるので、特に「去年はかなり収入が少なかった…」という人は、自分が非課税の対象でないか確認しておきましょう。
住民税非課税の3パターン
一般的に「住民税非課税」と言うときは、均等割・所得割の両方が非課税の状態を指します。具体的には、以下のような人が該当します。
均等割・所得割の両方が非課税の人
- 生活保護の対象者のうち、生活扶助を受けている人
- 合計所得金額が125万円以下の未成年者、障害者、寡婦、寡夫
- 合計所得金額が市区町村の定める「非課税限度額」以下の人
※ 退職金を受け取った場合などは、一部が課されることもある
「合計所得金額」は、ひとまず所得(収入 – 必要経費)のことだと考えておきましょう。会社員やアルバイトの場合は、年間の額面給与から「給与所得控除」として最低65万円を差し引いた金額を所得と考えます。
ちなみに、上記に該当しなくても、所得割のみ非課税になるケースもあります。ただ、低所得者への支援制度などは「両方が非課税の人」だけを対象としている場合が多いです。
【2021年度から】非課税の基準が改正される
本記事の説明は、2020年度の住民税(2019年の所得から算出した住民税)に関するものです。2021年度(令和3年度)からは、非課税の基準が少しだけ緩和される予定です。
>> 2021年度からの住民税改正について
1. 生活保護のうち生活扶助を受けている人
生活保護の対象者のうち「生活扶助」のお金を受け取っている人は、均等割・所得割の両方が非課税になります。「生活扶助」とは、食費や光熱費の補助にあたる給付のことです。
- 地方税法24条5で、「生活保護法の規定による生活扶助を受けている者」には道府県民税の均等割・所得割を課さないと定められている。また295条では、同様の者に市町村民税の均等割・所得割を課さないと定められている。よって、生活扶助を受ける人には均等割も所得割も一切課されない。
※ 東京都の都民税・特別区民税についても同じ規定が適用される
家賃をまかなう「住宅扶助」や、医療費を軽減する「医療扶助」しか受けていない人は該当しません。生活扶助を受けるのは、生活保護の対象者の中でも収入が低い人だと言えます。受けている扶助の具体的な内容が分からなければ、役所に問い合わせましょう。
2. 所得が125万円以下の未成年者・障害者など
以下のどれかに該当する人は、前年の合計所得金額が125万円以下なら、均等割・所得割の両方が非課税になります。
- 未成年者
- 障害者
- 寡婦、寡夫
ここで言う「障害者」「寡婦、寡夫」は、それぞれ障害者控除(本人の場合のみ)や、寡婦・寡夫控除の対象者のことです。
- 地方税法24条5で、「障害者、未成年者、寡婦又は寡夫(これらの者の前年の合計所得金額が百二十五万円を超える場合を除く。)」には道府県民税の均等割・所得割を課さないと定められている。また295条では、同様の者に市町村民税の均等割・所得割を課さないと定められている。よって、上記の該当者には均等割も所得割も一切課されない。
※ 東京都の都民税・特別区民税についても同じ規定が適用される
「合計所得金額125万円以下」とは、会社員やアルバイトで言うと、年収200万円以下くらいの状態です。ただし、会社やアルバイトの給与以外にも収入がある場合は、それらも合わせて考えます。
3. 所得が市区町村の「非課税限度額」以下の人
前年の合計所得金額が、市区町村の条例で定める「非課税限度額」以下の人は、均等割・所得割の両方が非課税になります。
この非課税限度額は、基本的に「級地区分」によって異なります。これはおおまかにいうと、物価が高い地域から1級地・2級地・3級地と定められており、たとえば東京23区・川崎市・さいたま市・福岡市などが1級地に当たります。
>> お住まいの地域の級地を確認 – 厚生労働省
級地区分 | 非課税限度額 |
---|---|
1級地 | 扶養なし:35万円 扶養あり:35万円 × (1 + 養う人数) + 21万円 |
2級地 | 扶養なし:31.5万円 扶養あり:31.5万円 × (1 + 養う人数) + 18.9万円 |
3級地 | 扶養なし:28万円 扶養あり:28万円 × (1 + 養う人数) + 16.8万円 |
※ 地域によってはこの通りでない場合もある
ここで言う「扶養」とは、扶養親族と同一生計配偶者のことです。その人数に応じて非課税限度額が上がるわけです。ちなみに、同一生計配偶者は、おおよそ「あなたと生計を共にする、年収103万円以下の妻・夫」のことを指します。
- 厳密に言うと、市町村が定めているのは“市町村民税の均等割の非課税限度額”だが、地方税法24条5-3で「市町村民税の均等割を課することができないこととされる者に対しては…(中略)…道府県民税の均等割を課することができない」とされているため、道府県民税の均等割も同じ基準で非課税になると言える。なお、地方税法施行令47条3で、市町村民税の均等割の非課税限度額の上限が定められており、これが所得割の非課税限度額を超えることはないため、この基準で均等割が非課税になる人は、必ず所得割も非課税になる。
※ 東京都の都民税・特別区民税についても同じ規定が適用される
【計算例】住民税が非課税になるケース
たとえば、1級地にあたる東京23区内に住んでいて、配偶者や子供を養っていなければ、非課税限度額は35万円です。前年の合計所得金額が35万円以下なら、均等割も所得割も課されません(給与収入だけなら、年収100万円以下)。
同じく東京23区内で、配偶者と子供1人を養っている場合、非課税限度額は以下の計算式で算出します。
- 35万円 × (1 + 2) + 21万円 = 126万円
この場合、前年の合計所得金額が126万円以下なら、均等割・所得割ともに非課税になるわけです。給与以外に収入がなければ、合計所得金額126万円以下とは、およそ年収206万円以下の状態を指します。
所得割だけ非課税になるケース
前述の1~3に該当しなくても、前年の「総所得金額等」が下記の金額以下になる人は、「所得割」が非課税になります。これは地域によらず、全国一律のルールです。なお「総所得金額等」も、ひとまず所得のことだと考えておきましょう。
所得割が非課税になるボーダーライン
扶養なし | 35万円 |
---|---|
扶養あり | 35万円 × (1 + 養う人数) + 32万円 |
※ ここで言う「扶養」は、扶養親族と同一生計配偶者のこと
- 地方税法の附則3条3-1,4で、前年の総所得金額等が「三十五万円にその者の同一生計配偶者及び扶養親族の数に一を加えた数を乗じて得た金額(その者が同一生計配偶者又は扶養親族を有する場合には、当該金額に三十二万円を加算した金額)以下」の人には、道府県民税・市町村民税の所得割を課さないと定められている。
※ 東京都の都民税・特別区民税についても同じ規定が適用される
実際はもう少し所得があっても、所得控除や税額控除の差し引きによって、結果的に所得割がゼロになる可能性があります。いずれにしても、上記の金額をちょっと超えたくらいなら、所得割が高額になることはありません。
【計算例】所得割が非課税になるケース
配偶者や子供を養っていないなら、ボーダーラインは一律35万円です。前年の総所得金額等が35万円以下なら、所得割は課されません。
一方、たとえば配偶者と子供1人を養っている場合、所得割が非課税になるラインは以下の式で算出します。
- 35万円 × (1 + 2) + 32万円 = 137万円
前年の総所得金額等が137万円以下なら、所得割が非課税になるということです。給与以外に収入がなければ、年収がおおよそ221万円以下だと、総所得金額等は137万円以下に収まります(事業の赤字などを繰り越していない場合)。
「合計所得金額」「総所得金額等」とは?
「合計所得金額」とは、事業所得・給与所得・不動産所得など、様々な所得をひっくるめた金額のことです。「所得」というのは、単純な収入のことではありません。たとえば、事業所得と給与所得は、それぞれ以下のような金額を指します。
- 事業所得……個人事業の収入から必要経費を差し引いた金額
- 給与所得……会社の給与などから給与所得控除を差し引いた金額
多くの場合、個人事業主なら事業所得、会社員やアルバイトなら給与所得の金額がそのまま「合計所得金額」になると考えてOKです(両方を得ている人は合計で考える)。ただ、他にも所得を得ている場合は、それらも合わせて考えなくてはなりません。
なお、前年の合計所得金額は、前年分の確定申告書で確認することもできます。また、前年の給与所得が知りたい会社員・アルバイトは、年末調整の際に会社から受け取った「源泉徴収票」を確認しましょう。
確定申告書 | 源泉徴収票 |
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「総所得金額等」は損失の繰越控除をしたあとの金額
「総所得金額等」は、簡単に言うと「合計所得金額」から過去の損失(事業の赤字や、災害による損失など)を差し引いた金額です。前年分の確定申告で「損失申告」をしていない人は、“合計所得金額 = 総所得金額等”と考えて問題ありません。
もし、繰り越している純損失や雑損失がある場合は、それらの繰越控除を「合計所得金額」に適用したあとの金額が「総所得金額等」になります。
>>「合計所得金額」や「総所得金額等」の考え方について詳しく
住民税非課税の人を対象とした制度
均等割・所得割の両方が非課税の人(前述の1~3に該当する人)は、以下のような優遇・支援の対象になります。ちなみに「住民税非課税世帯」とは、全員が住民税非課税の世帯のことです。
住民税非課税の人を対象とした主な制度
高額療養費 の軽減 |
高額な医療費の一部が支給される制度(高額療養費制度)において、自己負担額の上限が低くなる |
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介護保険料 の軽減 |
65歳以上で年金収入が一定以下の場合に、介護保険料が軽減される |
0~2歳の 保育無償化 |
住民税非課税世帯の子供は、0歳から一部の保育施設の利用料が無料になる |
高等教育の 修学支援 |
住民税非課税世帯の学生は、大学の授業料などの減免を受けられる (非課税でなくても一部の支援は受けられる) |
NHK受信料 の免除 |
障害者のいる住民税非課税世帯などは、NHKの放送受信料が全額免除される |
この他にも、自治体が独自に行う支援制度の対象になる場合もあります。
国民年金・国民健康保険の保険料も軽減される?
国民年金と国民健康保険の保険料は、住民税の非課税と直接的には関係ありません。ただ、住民税が非課税になるほど所得が低い人なら、ほぼ確実に保険料が減額 or 免除されます。
なお、会社員などが加入する厚生年金や健康保険の場合は、住民税が非課税でも、特別に保険料が減免されることはありません。ただ、健康保険組合に加入している場合は、組合によってルールが異なります。
まとめ
以下のどれかに該当する人は、住民税の均等割・所得割の両方が非課税になります。一般的に「住民税非課税」と言うと、このような状態を指します。
- 生活保護の対象者のうち、生活扶助を受けている人
- 合計所得金額が125万円以下の未成年者、障害者、寡婦、寡夫
- 合計所得金額が市区町村の定める「非課税限度額」以下の人
※ 退職金を受け取った場合などは、一部が課されることもある
③「非課税限度額」は、基本的に市区町村の級地区分によって異なります。おおよそ、物価が高い方から1級地・2級地・3級地となっています。
級地区分 | 非課税限度額 |
---|---|
1級地 | 扶養なし:35万円 扶養あり:35万円 × (1 + 養う人数) + 21万円 |
2級地 | 扶養なし:31.5万円 扶養あり:31.5万円 × (1 + 養う人数) + 18.9万円 |
3級地 | 扶養なし:28万円 扶養あり:28万円 × (1 + 養う人数) + 16.8万円 |
※ 地域によってはこの通りでない場合もある
①~③に該当しない場合でも、前年の総所得金額等が下記の金額以下なら、住民税の「所得割」は非課税になります。
所得割が非課税になるボーダーライン
扶養なし | 35万円 |
---|---|
扶養あり | 35万円 × (1 + 養う人数) + 32万円 |
※ ここで言う「扶養」は、扶養親族と同一生計配偶者のこと
ちなみに、これをちょっと超えても、所得控除や税額控除の差し引きで所得割がゼロになる場合もあります。ただし、住民税非課税の人を対象とした支援制度などを利用できるのは、主に「均等割も所得割も非課税の人」なので注意しましょう。