「税込経理方式」では、売上や仕入れの金額に消費税を含めて計上します。一方「税抜経理方式」では、金額に消費税を含めず、本体価格と消費税を分けて計上します。本記事では、3つの視点から税込経理方式と税抜経理方式を比較していきます。
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目次
税込経理方式と税抜経理方式の違い
消費税についての記帳方式は、原則「税込経理方式」と「税抜経理方式」の2種類です。消費税の納付義務がない免税事業者は、税込経理方式によって帳簿づけします。消費税の納付義務が課せられている課税事業者は、どちらか好ましい方を選択できます。
税込経理方式と税抜経理方式の比較
税込経理方式 | 税抜経理方式 | |
---|---|---|
概要 | 売上や仕入れなどの金額に消費税を含めて計上する方法 | 売上や仕入れなどの金額に消費税を含めず、分けて計上する方法 |
選択できる事業者 | ・課税事業者 ・免税事業者 |
・課税事業者 |
帳簿づけの手間 | 手間がかからない | 手間がかかる |
損益の把握 | △ | ○ |
減価償却などに おける有利性 |
場合による |
税込経理方式と税抜経理方式のざっくりとした比較は上記のとおりです。ここから、比較項目に挙げた「帳簿づけの手間」「損益の把握」「減価償却などにおける有利性」について、それぞれ詳細をみていきましょう。
ポイント① 帳簿づけの手間
税込経理方式では売上や仕入れの金額を税込価格で記帳していくので、帳簿づけはそこまで難しくありません。一方、税抜経理方式では取引ごとに消費税を分けて記帳するので、手間がかかります。
帳簿づけの労力について比較
税込経理方式 | 税抜経理方式 |
---|---|
売上や仕入れにかかる消費税は金額に含めて計上する →手間がかからない |
売上にかかる消費税は「仮受消費税」、仕入れに係る消費税は「仮払消費税」とする →手間がかかる |
具体的な仕訳例から比較してみます。たとえば5,500円(5,000円+税500円)の商品を仕入れた場合、税込経理方式では以下のように記帳します。借方・貸方ともに税込の金額を記入すればいいので簡単です。
商品仕入れ時の仕訳例(税込経理方式)
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月10日 | 仕入 5,500 | 現金 5,500 | 商品A 仕入れ |
税抜経理方式の場合、以下のように商品の本体価格と消費税を分けて記帳します。仕入れ時にかかった消費税は「仮払消費税」という勘定科目で帳簿づけします。一方、商品販売時には「仮受消費税」の勘定科目を使います。
商品仕入れ時の仕訳例(税抜経理方式)
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月10日 | 仕入 5,000 | 現金 5,500 | 商品A 仕入れ |
仮払消費税 500円 |
とはいえ、会計ソフトを使って帳簿づけをしているなら、税抜経理方式を選択していてもそれほど面倒ではありません。帳簿づけの手間という観点に関していえば、会計ソフトのユーザーにとって実質的には大差なしといえます。
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ポイント② 損益の把握
税込経理方式は帳簿づけがラクな反面、売上や仕入れの正確な金額を把握しにくいという欠点があります。税抜経理方式なら、期中や期末といった時期にかかわらず、いつでも正しい金額を把握できます。
損益の把握について比較
税込経理方式 | 税抜経理方式 |
---|---|
帳簿・損益計算書などの金額は税込で表示 →正確な金額がわかりにくい |
帳簿・損益計算書などの金額は税別で表示 →常に正確な金額がわかる |
下のイメージをご覧ください。税込経理方式と税抜経理方式では、売上や売上原価として表示される金額が異なります。
「売上」を比較してみましょう。税込経理方式では、消費税として預かっている金額までこの売上に含まれてしまいます。一方、税抜経理方式では純粋な売上を確認することができます。正確な金額が把握できるというのは、こういうことです。
税率変動の際は「税抜経理方式」がオススメ
消費税率が変動する際には、税抜経理方式のほうが有利だと言えます。たとえば、2019年10月に消費税率が8%から10%に引き上げられましたが、消費税を別で記帳する税抜経理方式であればミスがあったときに気づきやすいです。
ポイント③ 減価償却などにおける有利性
減価償却における「取得価額」は、適用する方式によって金額が異なります。税込経理方式を採用していれば税込金額で、税抜経理方式を採用していれば税抜金額で、この取得価額を判定することになります。
減価償却などにおける有利性について比較
税込経理方式 | 税抜経理方式 |
---|---|
取得価額に消費税を含む →特別償却・特別税額控除において有利 |
取得価額に消費税を含む →基本的に、減価償却全般において有利 |
- 取得価額とは
- 資産の取得にかかった費用の合計金額を「取得価額」という。本体価格のほか、送料や購入手数料、関税なども含めて考える。
減価償却における取得価額の判定では「税抜経理方式」が有利
たとえば、本体価格280,000円(税込で308,000円)のパソコンを購入した場合でみてみましょう。取得価額の判定は、それぞれ以下のように異なります。
税込経理方式 | 税抜経理方式 |
---|---|
取得価額 308,000円 | 取得価額 280,000円 |
取得価額“30万円”が基準になる「少額減価償却資産の特例」を適用すれば、税抜経理方式ではこのパソコンの購入費用を全額その年の経費として計上できます。一方、税込経理方式では減価償却をして数年にわたり経費計上することになります。
特別償却・特別税額控除における判定は?
特別償却・特別税額控除における取得価額では、税込経理方式のほうが有利です(取得価額 × 一定割合の式で控除額を算出するため)。とはいえ、これは機械の購入や設備投資など、かなり高価なものの取得が対象なので、適用を受ける個人事業主は少ないです。
比較ポイントのまとめ
課税事業者になったら、税込経理方式と税抜経理方式のうちどちらか一方を選ぶことになります。どちらにするか判断しかねる個人事業主には、税込経理方式をおすすめします。税抜経理方式は、こだわりのある事業者が採用するものだと捉えておきましょう。
税込経理方式と税抜経理方式の比較
税込経理方式 | 税抜経理方式 | |
---|---|---|
概要 | 売上や仕入れなどの金額に消費税を含めて計上する方法 | 売上や仕入れなどの金額に消費税を含めず、分けて計上する方法 |
選択できる 事業者 |
・課税事業者 ・免税事業者 |
・課税事業者 |
主なメリット | ・帳簿づけの手間がかからない ・特別償却と特別税額控除において有利 |
・常に正確な金額がわかる ・基本的に、減価償却全般において有利 |
どちらを選択しても、消費税の納付額自体には影響ありません。一般的には、事業規模が小さいと税込経理方式、大きくなるにつれて税抜経理方式を選択する傾向があります。
税込経理方式はこんな事業者にオススメ
- 損益の金額が消費税込みでも問題ない
- 会計ソフトを使わずに帳簿づけを行っている
- 課税事業者になってからも記帳方式を変えたくない
正確な金額を把握するよりも、慣れ親しんだ方式がよいのであれば税込経理方式のままでいることをおすすめします。特に、手書きやエクセルなどで帳簿づけをしている場合、記帳方式の変更は大きな負担になるはずです。
税抜経理方式はこんな事業者にオススメ
- 損益の正確な金額を常に把握したい
- 会計ソフトを使用して帳簿づけを行っている
- 固定資産の取得にあたって、少しでも優遇される措置を受けたい
会計ソフトを使用しているのであれば、税抜経理方式の「帳簿づけの手間がかかる」というデメリットは大した問題ではなくなります。上記に当てはまる事業者は、税抜経理方式の選択を視野に入れるといいでしょう。