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福利厚生費とは?
福利厚生費とは、従業員の生活向上や、労働環境改善を目的に使う費用を指します。通勤費や社内忘年会の飲食費用などもこれに含まれ、たとえ法人でなくても、従業員を雇用していれば個人事業主でも利用する科目です。
ただし、1人で事業を経営している場合や、事業主と専従者(家族従業員)のみで経営している場合は、福利厚生費で処理できる費用はありません。
福利厚生費の基本要件 – 経費処理を認められるには?
福利厚生費として経費処理を認められるためには、以下の基本要件を満たす必要があります。
- すべての従業員が利用できる「機会の平等性」があること
- 社会通念上、常識の範囲とみなされる「金額の妥当性」があること
「機会の平等性」について
事業主が支払った福利厚生費は、全ての従業員に平等に支給されなければなりません。特定の従業員が対象の支出は、福利厚生費として処理できません。
「金額の妥当性」について
福利厚生費に金額の上限はありません。しかし常識の範囲を超えた金額を計上している場合は、税務調査の対象になってしまう可能性があります。この「常識の範囲」については具体的な規定がないので、後述の具体例を参考にしてください。
福利厚生費の具体例
上述の基本要件に加えて、費用ごとに細かな要件があります。具体的な費用と詳細要件について、代表的なものを紹介します。
福利厚生費で処理する主な費用
- 通勤費
- 忘年会や歓送迎会などの飲食費用
- 食事代の補助費用
- 健康診断費用
- 慶弔見舞金
① 通勤費
毎日の通勤にかかる電車賃やガソリン代などの通勤費は、アルバイト・正社員など雇用形態に関係なく、どの従業員の分も福利厚生費として処理できます。
また、処理できる通勤費は限度額が設けられています。限度額は、通勤手段や距離に応じて異なります。たとえば電車やバスなど公共交通機関を利用する場合、限度額は月15万円まで。マイカーや自転車などの場合は、通勤距離に応じて限度額が異なります。
② 忘年会や歓送迎会などの飲食費用
忘年会・新年会・歓送迎会などの飲食費用は、以下の要件を満たせば、福利厚生費として処理できます。
- 全従業員に対しておおむね一律であること
- 社会通念上、事業主の負担金額が高額になりすぎないこと
なお、上記をクリアしていても、従業員に現金を支給すると「給与」扱いとなってしまいます。こうなると、従業員がもらう給与の合計が増えることになります。当然、その従業員の所得税や住民税の増加にも影響するので、注意しましょう。
たとえば忘年会中に、営業成績が優秀な従業員に「賞金」を渡すと、給与扱いとなってしまいます。しかし、「賞品」としてビール券を渡した場合は、福利厚生費で処理できます。
③ 食事代の補助費用
従業員に支給する食事代は、以下の要件をすべて満たす場合のみ、福利厚生費で処理できます。
- 従業員が食事代の半分以上を負担していること
- 事業主負担の食事代が1ヶ月あたり3,500円(税抜)以下であること
たとえば週2回勤務するアルバイト従業員に、事業主が購入した1,000円のお弁当を600円で支給する場合、月間の事業主負担は400円 × 8日 = 3,200円となり、福利厚生費で処理できます。
ただし例外として、残業時などは、食事を現物支給(お弁当など)する場合に限り、全額を福利厚生費として処理できます。このときの金額は1,000~1,500円程度が一般的です。
食事代の補助費用(現金支給が認められる場合)
深夜勤務(22時~翌朝5時)する者に夜食を支給する場合、現物支給が困難であれば、1回300円までなら食事代の現金支給が認められます。
④ 健康診断費用
健康診断や人間ドックの費用は、以下の要件を満たせば福利厚生費で処理することができます。
- 全従業員が対象であること(ただし年齢制限は可能)
- 従業員全員分の受診費用が、事業主から医療機関に直接支払われていること
- 診断内容が常識の範囲内であること
たとえば一般的な健康診断や人間ドックなら問題ありませんが、アレルギー検査などは認められにくい場合が多いです。なお、お金をいったん従業員に渡して、従業員が自分で診療機関に支払った場合は、支給したお金が「給与」とみなされるので注意が必要です。
⑤ 慶弔見舞金
従業員に対して、お祝いやお葬式などの際に、一定の基準(社則など)にしたがって支給するお金は福利厚生費として処理できます。主な例を以下にまとめました。
- 結婚祝や出産祝
- 見舞金
- 香典など慶弔金
- お祝い品、花輪の費用
金額は、支給を受ける従業員の地位などを考慮しつつ、常識の範囲内の金額であればOKです。たとえば結婚式のご祝儀に5万円を包むくらいなら問題ありません。
消費税の課税区分
福利厚生費は、消費税の課税区分が費用ごとに異なります。福利厚生費に含まれる代表的な費用の課税区分は以下の通りです。
課税 | 非課税 |
---|---|
|
|
慰安旅行費は、国内旅行の場合は課税対象となります。一方で海外旅行の場合は国外取引となるので、正確には「非課税(課税対象になじまない取引)」ではなく「不課税(課税されない取引)」になります。
>> 消費税の課税・非課税について詳しく
混同されやすい経費との区別方法
福利厚生費は「法定福利費」と「法定外福利費」で構成されています。法定福利費とは、法律で事業主負担が義務付けられている福利厚生で、主に保険料などが当てはまります。
福利厚生費のうち、「法定福利費」以外のものについては、対象の費用が明確に定められていません。そのため仕訳時には他の経費と悩む人も多く、とくに「給与」や「交際費」などは混同されがちです。
区別方法の具体例
福利厚生費を処理する際の、「給与」や「交際費」との区別方法について、混同しやすい実際の例を挙げながら紹介します。
例1:飲食費用を処理するとき
飲食費用は、「交際費」か「福利厚生費」どちらで処理すればいいのか混同されがちな費用です。ざっくり見分け方を説明すると、従業員全員が対象の場合は「福利厚生費」、従業員の一部や取引先などが対象で、何らかの営業活動が絡んでくる場合は「交際費」となります。
たとえばレストランでの飲食費用を処理するとき、時と場合に応じて以下のように勘定科目が異なります。
- 取引先との新年会で支払った:交際費
- 役員で集まって来年度のミーティングをした:交際費
- 毎年の恒例行事である、全従業員が参加の新年会を開催した:福利厚生費
- 新年会が終了した後に、自由参加の二次会を開催した:交際費
例2:電車賃を処理するとき
電車賃を処理するときに混同しがちなのが、「旅費交通費」です。毎日の通勤にかかる、自宅から会社までの交通費は「福利厚生費」、出張や取引先への訪問など、勤務地~自宅間の往復以外でかかった電車賃は「旅費交通費」で計上しましょう。
例3:ご祝儀を処理するとき
ご祝儀についても、「交際費」と「福利厚生費」で混同されがちです。従業員の結婚式であれば「福利厚生費」、取引先相手の結婚式なら「交際費」で処理しましょう。
福利厚生費の仕訳例
福利厚生費の仕訳例を紹介します。今回は以下のような例について、複式簿記で帳簿づけを行いました。
例:12月20日に、従業員が全員参加する毎年恒例の社内忘年会費用として、現金で50,000円を支払った
複式簿記の記帳例
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年12月20日 | 福利厚生費 50,000 | 現金 50,000 | 社内忘年会費用 |
ポイントは、「従業員が全員参加」「社内忘年会」部分です。なお、この忘年会が自由参加の場合や、取引先などにも招集をかけていた場合は、費用は「接待交際費」扱いとなります。
参考に、同じ支出を単式簿記で帳簿づけすると、記帳例は以下のようになります。
単式簿記の記帳例
日付 | 福利厚生費 | 摘要 |
---|---|---|
20XX年12月20日 | 50,000 | 社内忘年会費用 |
まとめ
福利厚生費とは従業員の生活向上や、労働環境改善のために支出する費用のことを指す勘定科目です。
福利厚生費の重要ポイント
- 対象がすべての従業員かつ金額が常識の範囲内であるときに認められる
- 1人で事業をしている個人事業主には関係がない勘定科目
- 専従者(家族従業員)には利用できない
- 消費税の課税区分は費用ごとに異なる
- 給与や交際費と混同しやすいので仕訳時には注意が必要
福利厚生費の主な具体例
- 通勤費
- 忘年会や歓送迎会などの飲食費用
- 食事代の補助費用
- 健康診断費用
- 慶弔見舞金(結婚祝・香典など)
福利厚生費のうち、「法定福利費」(社会保険や労働保険など)以外のものについては、対象が明確に定められていません。給与などの他の経費と迷った時は、「全従業員が対象かどうか」「金額が妥当であるか」を意識して仕訳を行いましょう。