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個人事業主の保険や年金は経費にできる? 仕訳例・控除による節税方法など

更新日: 2025/04/16
個人事業主の保険や年金は経費にできる? 仕訳例・控除による節税方法など

個人事業主が支払うさまざまな保険や年金の保険料のうち、代表的なものについて、経費として扱えるかどうかをまとめました。経費にできなくても、所得控除の対象となる保険料もあります。経費とする場合の仕訳例や保険料控除の受け方も、あわせて説明します。

INDEX

目次

    経費や控除の対象になる保険料【一覧表】

    個人事業主が支払う主な保険料について、節税に寄与するものを一覧表にまとめました。節税方法としては「経費にできる場合」と「所得控除の対象になる場合」の2パターンがあります。

    個人事業主が支払う主な保険料【一覧表】

    経費 控除 備考
    火災保険料 事業分のみ経費
    地震保険料
    自動車保険料
    健康保険料 従業員分のみ経費
    厚生年金保険料
    雇用保険料
    労災保険料
    介護保険料
    生命保険料
    傷害保険料
    国民年金保険料
    国民健康保険料

    ※「△」は、一定の状況下で経費にできるもの

    これを覚えきれない方は、以下の3つに分類して考えるとわかりやすいです。本記事でも、この順番に沿って解説を進めていきます。

    ① 事業用の車や建物にかかる保険料 経費にできる
    ② 従業員のための保険料 経費にできる
    ③ 事業主や家族従業員のための保険料 所得控除が受けられる*

    *一部例外あり

    事業の設備や備品、従業員のために支払う保険料は経費にできます。一方、事業主本人や家族のために支払う保険料は、原則として経費にできません。その代わり、所得控除を受けられる場合があります。

    そもそも必要経費・所得控除とは?

    所得税算出のおおまかな流れ

    上図の通り、必要経費所得控除の金額が多いほど、税負担は軽くなります。帳簿付けや確定申告を正しく行うことで、税負担を最小限に抑えられるわけです。

    ① 経費になるもの – 事業の建物や車などの保険料

    事業で使用するものに限り、建物や車にかかる保険料は、経費として計上可能です。ただし、自宅兼事業所のように、プライベートでも使用するものは、保険料の全額を経費にはできません。

    経費 勘定科目
    火災保険料 損害保険料

    ※ 事業分のみ

    地震保険料
    自動車保険料

    ※「△」は、一定の状況下で経費にできるもの

    事業でもプライベートでも使うものは、事業で使う部分にかかる保険料のみ経費にできます。そのため、「家事按分(かじあんぶん)」という考え方に基づき、事業用の部分にかかる保険料を計算することが必要です。

    家事按分とは、事業用とプライベート用の部分を“使用する割合”で分けることをいいます。家事按分が有効なのは、使用部分を客観的な基準(面積や時間など)で明らかに区分できる場合だけです。

    火災保険料・地震保険料

    店舗や事務所といった事業用の建物などにかけられた火災保険料と地震保険料は、経費として扱えます。ただし、プライベートでも使う建物(事務所兼自宅や店舗兼住宅など)は、下図のように家事按分が必要です。

    火災保険料・地震保険料

    上図の例でいうと、火災保険料10万円のうち、事業で使用している割合は50%です。したがって、家事按分により「10万円 ✕ 50% = 5万円」を経費にできます。

    プライベート用の部分については経費とならないので、注意しましょう。火災保険料は所得控除の対象にもなりません。地震保険料のみ、地震保険料控除の対象になりえます(詳細は後述)。

    自動車保険料

    事業で使う車にかかる自動車保険料は、経費にできます。加入義務がある自賠責保険も、任意加入の保険も、扱いは同じです。事業専用の車であれば、保険料の全額を経費にできます。

    事業でもプライベートでも使う車の場合は、事業で使用する分のみ経費にできます。たとえば、使用日数や時間、走行距離などを基準に計算し、事業で使用している割合を算出します。

    自動車保険料

    ② 経費になるもの – 従業員のための保険料

    個人事業主が従業員を雇っている場合、従業員のための保険料は、福利厚生の一環として経費にできると考えてOKです。一方、事業主本人や家族のための保険料は、経費計上できません。

    経費 勘定科目
    健康保険料 福利厚生費

    ※ 事業者負担分のみ

    厚生年金保険料
    雇用保険料
    労災保険料
    介護保険料
    生命保険料
    傷害保険料

    ※「△」は、一定の状況下で経費にできるもの

    社会保険料

    事業主が従業員のために支払う社会保険料は経費にできます。具体的には、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つです。労使折半などにより、事業主が負担した分は経費計上できます。

    社会保険料

    一方、事業主本人や家族のために支払う社会保険料は、原則として経費にはできません。その代わり、社会保険料控除の対象になりえます(詳細は後述)。

    生命保険料・傷害保険

    従業員を被保険者や受取人とする場合、生命保険や傷害保険の保険料も経費になりえます。従業員のための生命保険、プライベートや仕事中のケガなどに備える傷害保険は福利厚生とされるからです。

    同様に、福利厚生とみなされる従業員の健康診断や人間ドックの費用なども、経費として扱うことができます。

    ③ 控除になるもの – 本人や家族のための保険料

    事業主や家族のための保険料は、原則として経費にはできませんが、所得控除の対象になる場合があります。個人事業主が自分の生活や家族のために支払う保険料について、控除にできる・できないを表にまとめました。

    控除 所得控除の種類
    国民年金保険料 社会保険料控除
    国民健康保険料
    介護保険料
    生命保険料 生命保険料控除
    地震保険料 地震保険料控除
    火災保険料 (控除できない)
    傷害保険料

    なお、ここでいう「家族」とは、生計を一にする親族を指します。ざっくりいうと、同居している場合や、別居中で生活費の仕送りをしている場合などは、生計を一にしていると考えてOKです。

    国民健康保険料・国民年金保険料・介護保険料

    個人事業主が、自分や家族のために支払った社会保険料は、その全額が「社会保険料控除」の対象になります。国税庁によれば、国民健康保険・国民年金・介護保険などが該当します。

    生命保険料

    事業主本人や家族のために支払った生命保険は、「生命保険料控除」の対象です。生命保険料控除の対象となる保険は、以下の3種類に分類できます。各種、主なものを表にまとめました。

    生命保険 介護医療保険 個人年金保険
    ・定期保険

    ・終身保険

    ・養老保険

    ・学資保険

    など

    ・医療保険

    ・がん保険

    ・介護保険

    ・所得補償保険

    ・就業不能保険
    など

    ・個人年金保険
    上限3万円 上限2万5,000円 上限3万円

    ※ 上限額は、所得税における金額です。

    なお、上表のとおり、生命保険料控除には種別ごとに上限額が設けられています。この上限を超えて保険料を支払っても、超えた部分は控除できないので注意しましょう。

    地震保険料

    個人事業主が自宅などにかけている地震保険料は、「地震保険料控除」の対象です。事務所兼自宅などに掛けられた保険については、家事按分が可能です。事業部分は経費に、プライベート部分は所得控除の対象になりえます。

    火災保険料・傷害保険料

    事業主が自分の生活のために支払う火災保険料や傷害保険料は、経費にできない上、所得控除の対象にもなりません。ただし、前述の通り、事務所兼自宅などの火災保険料は、家事按分により一部を経費にできます。

    仕訳例 – 保険料を経費計上する場合

    保険料を経費として仕訳する際に、一般的に使われている勘定科目をまとめました。常識の範囲であれば、どのような勘定科目で仕訳をしても構いません。ただし、一度これと決めたら、翌年以降も同じ科目を使うのが原則です。

    一般的な勘定科目
    火災保険料 損害保険料 or 保険料
    地震保険料
    自動車保険料 損害保険料 or 車両費
    従業員の生命保険料 福利厚生費
    従業員の傷害保険料
    従業員の社会保険料 福利厚生費 or 法定福利費

    ※ 太字の勘定科目は、確定申告で提出する決算書の様式にあらかじめ印字されているもの

    例① 火災保険料(年6万円)の仕訳例

    契約期間が1年以内の火災保険なら、決算月の12月をまたぐ契約であっても、基本的には下記のように経費計上して構いません短期前払費用の特例)。地震保険料や自動車保険料についても、考え方は同じです。

    日付 借方 貸方 摘要
    202×年5月1日 保険料

    60,000

    現金

    60,000

    火災保険料

    1年分

    ちなみに、複数年分を一括で支払った場合は、その年の12月分までしか経費にできません。翌年1月以降の分は、いったん「前払費用」として計上する必要があります。

    前払金(前払費用)の仕訳方法をわかりやすく解説

    例② 生命保険料(月1万円 × 5人)の仕訳例

    福利厚生の一環として、複数の従業員の生命保険料を一緒に支払う場合は、以下のように記帳すればOKです。これは、いわゆる掛け捨て型の生命保険を想定しています。

    日付 借方 貸方 摘要
    202×年4月30日 福利厚生費

    50,000

    普通預金

    50,000

    生命保険料

    4月分

    なお、貯蓄性(満期返戻金など)がある商品の場合は、保険料の一部を経費にできないこともあります。とはいえ、個人事業主でそこまでの福利厚生を用意する方は稀でしょうから、あまり気にする必要はありません。

    例③ 社会保険料(従業員1名)の仕訳例

    従業員の社会保険料について、事業主負担分は以下のように仕訳するのが原則です。「お給料を振り込むとき」と「納付手続きをするとき」の2回に分けて記帳します。

    日付 借方 貸方 摘要
    202×年3月25日 福利厚生費

    20,000

    未払金

    20,000

    3月分社保

    事業主負担

    202×年4月30日 未払金
    20,000
    普通預金

    20,000

    3月分社保

    事業主負担

    申告書の記入例 – 確定申告による所得控除の受け方

    個人事業主が支払った保険料は、自動的に控除されるわけではなく、確定申告により適用を受ける必要があります。どうすれば適用を受けられるのか、申告書の記入例を用いてわかりやすく説明します。

    確定申告で所得控除を受ける流れ

    まず、保険料の控除証明書を用意しましょう。基本的に毎年10月〜11月ごろには、各種の控除証明書が郵送などで届きます。ただし、国民健康保険と介護保険については、控除証明書はありません。

    次に、控除証明書などをもとに、確定申告書の第一表第二表に保険料を記入します。紙の用紙に書く際は「第二表第一表」の順番で、以下のように記入しましょう。

    確定申告書 第二表 – 保険料の金額をそのまま記入する

    確定申告書 第二表 - 保険料の金額をそのまま記入する

    第二表には、控除額ではなく、支払った保険料の内訳をそのまま記入する点に注意しましょう。実際の控除額は、次の第一表に記入します。

    確定申告書 第一表 – 控除額の計算結果を記入する

    確定申告書 第一表 - 控除額の計算結果を記入する

    社会保険料は全額が控除の対象となりますが、生命保険料・地震保険料には上限があります。国税庁の確定申告書等作成コーナや、会計ソフトを使って確定申告をすれば、これらの計算はすべて自動でやってくれます。

    個人事業主におすすめの会計ソフトを徹底比較! 

    確定申告書類の提出方法

    ① 税務署の窓口に直接持参する
    ② 税務署か業務センターに郵送する
    ③ e-Taxで電子申告する
    確定申告書類の提出方法まとめ【メリット・デメリット】

    確定申告書が完成したら、上記のいずれかの方法で提出します。とくにこだわりがなければ「③電子申告」がおすすめです。マイナンバーカードを持っていなくても、電子申告は簡単にできます。

    まとめ

    個人事業主が支払う保険料は、以下の対応を行うことで税金を軽減できます。

    ・経費として扱えるもの→帳簿に記載して経費計上する
    ・控除の対象となるもの→申告書に記載して確定申告する

    それぞれの保険料について、経費にできるか否か、控除の対象となるのかをきちんと理解することが大切です。

    まとめ

    経費として扱えるもの – 帳簿に記帳する

    事業でもプライベートでも使用する建物や車にかかる保険料は、事業で使用する部分のみを経費にできます。事業で使用する割合を計算し(家事按分)、保険料にその割合を掛けた額を経費として計上可能です。

    一般的な勘定科目
    火災保険料 損害保険料 or 保険料
    地震保険料
    自動車保険料 損害保険料 or 車両費
    従業員の生命保険料 福利厚生費
    従業員の傷害保険料
    従業員の社会保険料 福利厚生費 or 法定福利費

    ※ 太字の勘定科目は、確定申告で提出する決算書の様式にあらかじめ印字されているもの

    控除の対象となるもの – 確定申告書に記載する

    前述の経費に該当しない保険料であっても、所得控除の対象になる場合があります。この「経費にはできないが控除を受けられるもの」については、確定申告で所定の手続きを行うことで、所得税と住民税を軽減できます。

    所得控除の種類
    国民年金保険料 社会保険料控除
    国民健康保険料
    介護保険料
    生命保険料 生命保険料控除
    地震保険料 地震保険料控除

    正確な会計処理を行うためにも、節税効果を上げるためにも、支払った保険料を正しく把握し、適切に処理しましょう。

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