2020年10月1日から、電子的にやりとりした請求書などの保存要件が少し緩和されます。といっても、個人事業主に大きな影響はありません。本記事では改正の内容を詳しく説明しますが、非常にややこしい話なので、なんとな~く分かっていれば十分です。
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目次
電子帳簿保存法のココが変わる
令和2年度に「電子帳簿保存法」の施行規則が改正されました。これによってメールやチャットで送受信した請求書などの保存が、少しだけ手軽になります。この改正は、2020年10月1日から適用されます。
- 電子帳簿保存法
- 本来、国税に関わる帳簿・書類は紙での保存が義務づけられている。しかし、一定の要件を満たせば電子的な状態での保存も可能。その要件などを定めているのが「電子帳簿保存法」である。
今回の改正では、電子帳簿保存法で定められている要件のうち、下図の赤枠で示した部分が変わります。(要件パターンの名称は、説明のために筆者が付けたものです)
このように、電子帳簿保存法では「保存の対象」と「保存の方法」の組み合わせによって、異なる要件が定められています。今回は、このうち「電子取引の取引情報」の保存要件が緩和されるのです。「電子取引の取引情報」とは、主に以下のようなデータを指します。
「電子取引の取引情報」の例
- 取引先からメールで受領した書類データ(契約書、領収書、請求書など)
- 取引先へメールで交付した書類データ(上記のような書類の元データ)
※ 書類データの代わりに、メールの本文に記載された取引情報なども含む
そもそも、メールでやりとりした請求書や領収書のPDFファイルなども、原則的には紙に印刷して保存する必要があります。しかし、一定の要件を満たせば電子的な状態での保存が認められており、今回の改正ではその要件が少し簡単になるわけです。
青色申告特別控除における「電子帳簿保存」には影響しない
2020年分の確定申告から、65万円の青色申告特別控除を受けるには「電子申告」か「電子帳簿保存」の実施が必須です。しかし、この「電子帳簿保存」は、表中「電子A」の要件を満たして行う「主要簿の電子保存」のことなので、今回の改正とは関係ありません。
>> 青色申告特別控除の改正 – 電子申告と電子帳簿保存はどっちがいい?
改正の詳しい内容
「電子取引の取引情報」を電子保存する際の要件は、以下のとおりです。改正後も大枠は変わらず、「可視性の確保」と「真実性の確保」の両方を満たす必要があります。
「電子取引の取引情報」を電子保存するための要件
可視性の確保 | 記録内容を、画面や書面に速やかに出力できるようにしておくこと(見読可能性の確保) |
---|---|
記録内容の検索に関して、日付や金額の範囲指定や条件の組み合わせ検索など、一定以上の機能を確保しておくこと(検索機能の確保) | |
真実性の確保 | 記録の管理において不正が生じないよう、施行規則で決められた措置のいずれかを行うこと |
※自作のソフト等を使う際は、システム概要を記した書類の備付けも必要
今回の改正によって、「真実性の確保」をクリアするための選択肢が増えます。具体的には、下記の①と③が追加されます。この4つのうち、どれか1つクリアすればOKです。
真実性を確保するための措置(いずれかを実施する)
- あらかじめタイムスタンプが付与された取引情報を送受信する←NEW!
- 送受信した取引情報に、速やかにタイムスタンプを付与する
- 不正な訂正削除ができないシステムを使って送受信や保存を行う←NEW!
- データの不正削除などを防ぐ規程を作り、それに沿って事務処理を行う
「電子帳簿保存法」施行規則の一部を改正する省令要旨 – 財務省
ざっくり言うと、これまでは「タイムスタンプを付与できるシステムの導入」か「面倒な規定の作成」が必須でした。が、今後はもう少し簡単な方法で、真実性の確保が可能になるわけです。
以降では、この改正による主な影響について説明します。電子帳簿保存法に関する知識がないと難しい部分もあるので、よく分からなければ読み飛ばしても構いません。
【改正の影響】タイムスタンプの手間が減るかも!
真実性を確保するための措置(いずれかを実施する)
- あらかじめタイムスタンプが付与された取引情報を送受信する←コレ
- 送受信した取引情報に、速やかにタイムスタンプを付与する
- 不正な訂正削除ができないシステムを使って送受信や保存を行う
- データの不正削除などを防ぐ規程を作り、それに沿って事務処理を行う
上記の①は、要するに「タイムスタンプを付けてから送受信したデータは、もう真実性が確保できていると考えてOK」という意味です。ですから、送信側がスタンプを付けてから送ってくれたデータは、電子保存できます。(スタンプが付与されていない場合も、他の措置を行えば電子保存が可能)
- タイムスタンプ
- 対象の電子データが、ある時点から改ざんされていないことなどを証明するもの。タイムスタンプの付与・確認には、基本的に専用ソフト等の利用が不可欠である(無料で利用できるものもある)。
ちなみに、タイムスタンプを使った措置は改正前から認められています(②の措置)。しかし従来は、タイムスタンプを付けて送信されたデータでも、受信時に改めてタイムスタンプを付与する必要がありました。改正により、そのような作業が不要になるわけです。
先進的な企業なら、送信するデータに一律でタイムスタンプを付与しているかもしれません。そのような企業から受け取ったデータは、すでに「真実性の確保」は満たすことになりますから、あとは「可視性の確保」ができていれば、電子保存できます。
【改正の影響】クラウドの活用で電子保存がラクになるかも!
真実性を確保するための措置(いずれかを実施する)
- あらかじめタイムスタンプが付与された取引情報を送受信する
- 送受信した取引情報に、速やかにタイムスタンプを付与する
- 不正な訂正削除ができないシステムを使って送受信や保存を行う←コレ
- データの不正削除などを防ぐ規程を作り、それに沿って事務処理を行う
「不正な訂正削除ができないシステム」とは、「訂正削除の内容があとで確認できるシステム」や「そもそも訂正削除ができないシステム」のことを指します。要するに、③は「不正ができないようなソフトを使えば、面倒な作業は一切不要だよ」という意味です。
たとえば、訂正・削除の事実や内容が記録されるクラウドサービス等を介して、取引先とデータのやりとりを行うとします。その場合、そのシステム上でやりとりしたデータについては、すべて「真実性が確保できている」と考えてよいのです。
引用
問25 具体的にどのようなシステムであれば、訂正又は削除の履歴の確保の要件を満たしているといえるのでしょうか。
【回答】
規則第8条第1項第3号に規定する訂正又は削除の履歴の確保の要件を満たしたシステムとは、例えば、
① 電磁的記録の訂正・削除について、物理的にできない仕様とされているシステム
② 電磁的記録の訂正又は削除を行った場合には、訂正・削除前の電磁的記録の訂正・削除の内容について、記録・保存を行うとともに、事後に検索・閲覧・出力ができるシステム
等のシステムが該当するものと考えます。
しかし、現状の個人事業向けソフト・サービスでは、履歴を残さずに記録の訂正・削除ができてしまう場合が多いです。ひとまず「制度上は可能になった」という段階なので、システム面についてはメーカー各社の対応を待つことになりそうです。
まとめ
令和2年度の税制改正で、「電子取引の取引情報」を電子保存する際の要件が緩和されました。この改正は、2020年10月1日から適用されます。なお、要件さえ満たしていれば、実施にあたって届け出などは必要ありません。
「電子取引の取引情報」を電子保存するための要件
可視性の確保 | 記録内容を速やかに出力できるようにする(見読可能性の確保) |
---|---|
日付や金額による範囲指定や条件の組み合わせなど、一定以上の検索機能を確保する(検索機能の確保) | |
真実性の確保 | 以下のいずれかの措置を行う ① タイムスタンプが付与された取引情報を送受信する←NEW! ② 送受信したデータに、速やかにタイムスタンプを付与する ③ 不正な訂正削除ができないシステムを使う←NEW! ④ 不正削除などを防ぐ規程を作り、それに沿って処理を行う |
※自作のソフト等を使う際は、システム概要を記した書類の備付けも必要
改正によって、データの「真実性を確保するための方法」の選択肢が増えたわけです。この影響で、たとえば「タイムスタンプが付いた状態で受信したデータ」や「訂正削除の履歴が残るシステムを介して送受信したデータ」の電子保存が少しラクになります。
ちなみに、主要な個人事業向けのソフト・サービスの中では、以下の2つが「電子取引の取引情報」の電子保存に対応しています。
- freee会計(プレミアムプランのみ)
- マネーフォワード クラウド(2020年9月下旬より一部対応予定)
たとえ要件が緩和されても、上記のようなソフトを使わない限り、個人事業主が「電子取引の取引情報」の電子保存に着手するのは難しそうです。
ただ、今回の改正をうけて、対応可能なソフト・サービスが増える可能性もあります。気になる人は、各社の対応状況をマメにチェックしておくとよいでしょう。