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個人事業の「前払金」 – 前払費用との違い・仕訳例など

更新日: 2021/12/22
個人事業の「前払金」 – 前払費用との違い・仕訳例など

INDEX

目次

    前払金とは?

    • 商品やサービスの代金を前払いした際に使う勘定科目
    • 青色申告決算書の貸借対照表では「資産」に含まれる
    • 消費税区分は「不課税」

    「前払金(前渡金)」 は、一言でいうと「代金を前払いしたときに使う勘定科目」です。たとえば、下記のような場面で使われます。

    「前払金」で記帳する場面(一例)

    • 商品を仕入れる際、納品前に手付金を支払った
    • 事業用の車を購入する際、頭金を支払った
    • 航空券のチケットを前もって購入した
    • ホテルの宿泊費用を事前決済した
    • 電子マネー(Suicaなど)にチャージした
    • プリペイドカードに入金した

    上記のような支払いは、いったん「前払金」の科目で資産計上しておき、のちに然るべきタイミングで必要経費などに振り替えましょう。この作業により、翌年以降の必要経費を誤って当年に計上せずに済みます。

    なぜいったん「資産」に計上するかというと、代金を前払いすることで「商品やサービスの提供を受ける権利を得た」と考えるからです。

    仕訳例① 代金の一部を事前に支払ったとき

    たとえば、10万円の商品を仕入れるとき、事前に手付金として2万円を支払ったら、以下のように記帳します。

    1. 手付金を支払ったとき

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年10月23日 前払金 20,000 現金 20,000 商品Aの仕入
    手付金

    支払った手付金は、この時点ではまだ経費に計上しません。「前払金」の勘定科目で、いったん「資産」に計上しておきます。

    続いて、実際に商品を受け取って残りの代金を支払ったら、次のように仕訳をします。

    2. 商品を受け取ったとき

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年11月1日 仕入 100,000 現金 80,000 商品Aの仕入
    前払金 20,000 商品Aの仕入
    手付金

    商品の受け取り時に払った現金8万円をここで記帳します。このとき「前払金」として記帳していた2万円も仕入に振り替え、合計10万円をここで仕入に計上(経費計上)します。

    上記のように代金の一部を前払いした場合、支払った手付金や頭金などは「前払金」で記帳しましょう。前払いした時点で手付金などを経費計上すると「棚卸資産」の計算に影響が出る場合があります。

    仕訳例② 代金の全部を事前に支払った場合

    たとえば、翌年1月の出張に備えて、12月に航空券(17,000円)を購入したとします。このとき、航空券代は以下のように記帳します。

    1. 航空券を購入したとき

    日付 借方 貸方 摘要
    2021年12月29日 前払金 17,000 現金 17,000 C社訪問
    羽田~伊丹 往復
    航空券代

    たとえ航空券を年内に購入したとしても、実際に飛行機に搭乗するのは翌年なので、航空券代はいったん「前払金」で記帳します。

    2. 飛行機に搭乗したとき

    日付 借方 貸方 摘要
    2022年1月4日 旅費交通費 17,000 前払金 17,000 C社訪問
    羽田~伊丹 往復
    航空券代

    飛行機に搭乗した日付で、「前払金」で記帳しておいた航空券代を経費に振り替えます。この一連の仕訳によって、前払いした航空券代はキチンと「翌年分の経費」にカウントされます。

    年をまたがない場合は「期中現金主義」でOK

    代金を全額前払いした商品やサービスについて、その提供が年内に行われるなら、「前払いした時点」で経費計上しても税務上は問題ありません。このような考え方を「期中現金主義」といいます。

    仕訳例③ 電子マネーにチャージしたとき

    事業用の現金からSuicaに1万円をチャージした場合、以下のように記帳することができます。

    1. チャージしたとき

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年8月1日 前払金 10,000 現金 10,000 Suicaチャージ

    チャージした金額は、必ずしも「前払金」で記帳する必要はなく、「仮払金」や「貯蔵品」などでも問題ありません。「預け金」や「電子マネー」などの科目を新たに設けてもOKです。 >> 科目を追加するときの注意点

    2. チャージ残高で支払いをしたとき

    日付 借方 貸方 摘要
    20XX年8月4日 消耗品費 110 前払金 110 ボールペン
    (Suica)


    20XX年8月7日 接待交際費 1,980 前払金 1,980 C社訪問 手土産代
    (Suica)


    20XX年8月7日 事業主貸 130 前払金 130 お茶購入
    (Suica)

    チャージ残高から支払いをしたら、その度に「前払金」を経費へ振り替えていきます。チャージ残高をプライベートで使ったときは、借方を「事業主貸」で記帳しましょう。

    ちなみに、上記の仕訳はあくまで原則に則った方法です。ほかの仕訳方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

    チャージ式決済の仕訳について詳しく – Suica・PASMO・PayPayなど

    混同しやすい勘定科目

    「前払金」と混同しやすいものとして、下記のような勘定科目が挙げられます。

    前払費用 「継続的なサービス」に対して前払いした金額(資産)
    個人事業なら「前払金」と厳密に使い分ける必要はない
    仮払金 内容が未確定の取引に対して仮で支払った金額(資産)
    使途が明確な手付金等には「前払金」を使うのが妥当
    前受金 商品などを提供する前に受け取った金額(負債)
    手付金・頭金などを「受け取った側」が使用する
    未払金 すでに商品などの提供を受けたものの、支払いが済んでいない金額(負債)
    商品などの代金を「支払う側」が使用する

    特に迷いがちなのは「前払金」と「前払費用」の使い分けです。「企業会計原則」ではそれぞれ下記のように定義されています。とはいえどちらを使っても税額に影響は出ないので、個人事業では厳密に使い分けなくて構いません。

    • 前払金………商品や“単発”のサービスなどに対して前払いした金額
    • 前払費用……火災保険やリースなど“継続的”なサービスに対して前払いした金額

    前払金のポイントまとめ

    • 「前払金」は、商品やサービスの代金を前払いした際に使用する勘定科目
    • 大きな分類では「資産」に含まれる
    • 消費税区分は「不課税」
    • 前払金で記帳したお金は、後にしかるべきタイミングで経費へ振り替える
    • 期中現金主義による記帳なら「前払金」の計上を省略できる場合も多い

    商品やサービスについて代金を前払いしたら、その金額はいったん「前払金」の勘定科目で帳簿づけするのが原則です。そして、実際に商品やサービスの提供を受けたタイミングで、前払金を経費に振り替えます。

    ただし、代金をすべて前払いした場合は、その代金を支払ったタイミングで経費に計上できるケースが多いです。このような考え方を「期中現金主義」といい、年をまたがない前払い取引であれば多くの場合で利用できます。

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