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確定申告の「損益通算」とは?対象の所得・通算の順序・具体例など

更新日: 2021/04/12
確定申告の「損益通算」とは?対象の所得・通算の順序・具体例など

確定申告で「損益通算」を行えば、合計の所得金額が減らすことができ、結果として節税に繋がります。本記事では、損益通算の概要を分かりやすく解説しています。

INDEX

目次

    確定申告の「損益通算」とは?

    損益通算の仕組み

    • 損益通算とは「特定の所得」の赤字を、他の所得の黒字から差し引くこと
    • 特定の所得とは「不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得」の4つ
    • 損益通算における所得同士の差し引きには、決まった順序がある

    所得は、その性質によって10種類に分けられます(詳細は後述)。このうち上記4種類において、1年間の所得を計算した結果が赤字だった場合、他の所得の黒字から差し引いて全体の所得を減らすことが可能です。

    まずは所得をグループ分けする

    損益通算を正しい順番で行うために、まず所得をグループ分けします。分類する所得は以下のとおりです(太字は赤字を損益通算できる所得)。

    10種類の所得
    利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得・雑所得

    これらを、「経常所得(継続して得られる所得)」と「非経常所得(一時的・臨時的な所得)」に分類します。なお、今回は計算の順番をわかりやすくする都合上、非経常所得をA・Bの2つに分けています。

    赤字でも損益通算できない 赤字を損益通算できる
    経常所得 利子所得
    配当所得
    給与所得
    雑所得
    不動産所得
    事業所得
    非経常所得A 一時所得 譲渡所得
    非経常所得B 退職所得 山林所得

    最初にこのグループ分けを把握したうえで、損益通算を行っていきましょう。

    損益通算の順番

    本記事では、損益通算の手順を以下の4ステップに分けて説明します。

    1. 「経常所得」の中で損益通算する
    2. 「非経常所得A」の中で損益通算する
    3. 「経常所得」「非経常所得A」同士で損益通算する
    4. 「非経常所得B」と損益通算する

    ① 「経常所得」の中で損益通算する

    不動産所得が赤字の場合 事業所得が赤字の場合
    損益通算 - 不動産所得が赤字のとき 損益通算 - 事業所得が赤字のとき
    不動産所得以外の経常所得の黒字 – 不動産所得の赤字 事業所得以外の経常所得の黒字 – 事業所得の赤字
    • 不動産所得または事業所得で赤字がある場合、それ以外の所得の黒字から差し引く
    • 不動産所得と事業所得の両方が赤字なら、それらの赤字を合算して黒字から差し引く

    損益通算を行う方は、この手順①だけで終わる場合がほとんどでしょう。もし、①の損益通算を行ってもまだ赤字が残っている場合で、なおかついずれかの非経常所得がある場合には、これ以降のステップに進みます。

    ② 「非経常所得A」の中で損益通算する

    譲渡所得で赤字がある場合は、「一時所得の黒字 - 譲渡所得の赤字」を行います。一時所得がない場合は手順③に進みましょう。

    ③ 「経常所得」「非経常所得A」同士で損益通算する

    手順①か②で赤字が残ったときの方法です。①で不動産所得または事業所得の赤字が残った場合、「②を行った後の一時所得 - ①で残った赤字」を行います。②で譲渡所得の赤字が残った場合、「①を行った後の所得 - ②で残った譲渡所得の赤字」を行います。

    ④ 「非経常所得B」と損益通算する

    さらに、もし山林所得や退職所得の黒字がある場合で、手順③でもなお赤字が残ったときには「非経常所得B (山林所得 + 退職所得) の黒字 - ③で残った赤字」を行います。

    なお、これらすべての手順を行うケースはレアです。ほとんどの方が申告する所得は1~3種類くらいなので、それぞれの状況に応じて手順をとばしましょう。

    損益通算の具体例

    次のように複数の所得を得た場合で、損益通算の計算例をみてみましょう。

    具体例 所得額
    配当所得 株の配当金 200,000円
    不動産所得 所有アパートの家賃収入 800,000円
    雑所得 副業のクラウドソーシングで得た利益 270,000円
    事業所得 個人で営んでいる飲食店の赤字 △1,200,000円

    この場合、損益通算は「手順① 経常所得の中で損益通算する」のみを行います。

    (配当所得 + 不動産所得 + 雑所得) – 事業所得
    = (200,000円 + 800,000円 + 270,000円) – 1,200,000円
    = 70,000円

    よって、この例における1年間の所得は70,000円です。基礎控除の48万円を適用すると所得がマイナスになるので、この年は所得税を納める必要がありません。

    一方、もし損益通算を行わないとすれば、合計所得は127万円になります。これに基礎控除の48万円だけを適用して試算すると、納付する所得税額はおよそ4万円ということになります。

    損益通算NGなもの・OKなもの

    不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の赤字は、いずれも損益通算ができるものでした。しかし、この4種類の所得に含まれていても、損益通算できない赤字があります。

    赤字を損益通算できない所得と具体例

    土地や建物等の譲渡所得 事業用の倉庫を売却した際の損失
    「生活に通常必要でない資産」の譲渡所得 娯楽用に買ったモーターボートを売却した際の損失
    株式等にかかる譲渡所得等 値下がりした持ち株を売却した際の損失
    先物取引にかかる雑所得等 先物取引していた原油が値下がりした際の損失
    特定の不動産所得 損失のうち、土地などの購入にあてた借金の利子

    これらは「分離課税」の対象になる所得です。ざっくり言うと、「他の所得と合計して所得税を算出する」総合課税の所得に対し、「それぞれ別々の税率で所得税を算出する」のが分離課税の所得です。

    この性質上、分離課税の対象所得で発生した赤字は、他の所得の黒字から差し引くことができません。上表の例で言うと、「持ち株の売却で発生した譲渡所得の赤字は、事業所得や給与所得など、他の所得の黒字と損益通算できない」ということです。

    ただし、以下のような譲渡所得の赤字は、分離課税の対象でも特別に損益通算できます。

    マイホームの買い替え 上場株式等の取引
    • 古い家を売って発生した赤字は損益通算できる
    • 適用には一定の要件を満たす必要がある
    • 上場株取引の赤字は損益通算できる
    • 適用には「申告分離課税」としての納税が必要

    マイホームの買い替えの赤字は、通常の損益通算のように、他の所得の黒字から差し引けます。一方、上場株式等の取引の赤字は、同様に上場株式の取引で発生した譲渡所得や配当所得からのみ差し引くことが可能です。

    まとめ

    特定の所得で赤字が発生し、かつ他の所得では黒字が発生している場合、損益通算をすることで納める所得税額を減らすことができます。

    • 損益通算は、ある所得の赤字を別の所得の黒字から差し引きする仕組み
    • 所得は全部で10種類ある
    • 不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の赤字は損益通算が可能
    • 損益通算には決まった手順がある
    • 4つ以外の所得での赤字は、基本的に損益通算できない
    • 4つの所得内でも「分離課税」の所得についての赤字は損益通算できない
    • ただし、マイホームの買い替えなど特別に損益通算できるものもある

    残った赤字は最大3年繰り越せる!

    赤字を繰り越し所得を計算する例 - 1年目に赤字が出た場合

    青色申告であれば、損益通算の後でも赤字が残った場合、その赤字を翌年以降に繰り越すことが可能です。これにより、対象期間中(最大3年間)の所得を少なくして、節税に繋げることができます。

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