「青色申告特別控除」は青色申告者だけが受けられるおトクな控除です。控除額には10万・55万・65万の3パターンがあり、クリアする要件によって、適用される金額が異なります。
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目次
青色申告特別控除とは?
青色申告を行う個人事業主は、「青色申告特別控除」という特殊な控除を受けられます。控除額は10万円・55万円・65万円の3種類で、金額が上がるほど要件が厳しくなります。
青色申告特別控除の主な要件
10万円控除 | 55万円控除 | 65万円控除 |
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2019年分の確定申告まで、青色申告特別控除の控除額は10万円か65万円の2択でした。ただ、65万円控除の要件に電子申告などが加わる関係で、新たに55万円控除の選択肢が増えています。
ちなみに、現金主義による所得計算を特別に認められている事業者は、10万円の控除しか受けられません。とはいえ、該当者は少数なので、現金主義を選択する届出を提出していなければ気にしなくてOKです。
青色申告特別控除が適用される流れ
所得税の金額は、おおよそ以下のような流れで算出されます。青色申告特別控除の金額が大きいほど、所得税額を抑えられるわけです。
① 10万円控除の要件
10万円控除の要件は、強いて言えば「青色申告をしていること」だけです。基本的には、55万円・65万円控除の要件を満たせなかった青色申告者が、10万円控除を受けることになります。
ただ、そもそも所得が少ないと、大きな控除を受けてもあまり意味がありません(青色申告特別控除の差し引きで赤字になることはないため)。なので、そのような場合は、作業面の手間を避けてあえて10万円控除を狙うのもアリです。
貸借対照表の記入は不要
10万円控除の場合でも、確定申告では「青色申告決算書」を提出します。が、4ページ目にある「貸借対照表」を記入する必要はありません。ただし、55万円・65万円控除を受ける際には、この記入が必須になります。
② 55万円控除の要件
55万円控除を受けるためには、青色申告を選択した上で、以下3つの要件をすべてクリアする必要があります。1つでも満たせなかった場合は、自動的に10万円控除が適用されます。
- 事業所得(または事業的規模の不動産所得)を得ている
- 正規の簿記の原則に従って、複式簿記で帳簿づけをしている
- 確定申告書類を申告期限内に提出する
1. 事業所得(または事業的規模の不動産所得)を得ている
ほとんどの個人事業主は「事業所得」を得ているので、この要件はあまり気にしなくてOKです。事業所得がなくても、“事業”と呼べるような規模で不動産所得を得ていれば、この要件をクリアできます。
2. 複式簿記で帳簿づけをしていること
複式簿記とは、取引の“原因と結果”を記録する、ちょっと難しい記帳方式のことです。55万円以上の特別控除をねらう際は、この要件が一番のハードルになるでしょう。ただ、会計ソフトを使えば、そこまで苦労せずに複式簿記が作れます。
3. 確定申告書類を申告期限内に提出する
確定申告を期限内(原則3月15日まで)に済ませましょう。なお、55万円or65万円の控除を受けるためには、青色申告決算書4ページ目の「貸借対照表」まで記入する必要があります。
③ 65万円控除の要件
MAXの65万円控除を受けるためには、55万円控除の要件をクリアした上で、さらに「電子申告」か「電子帳簿保存」のどちらかを行う必要があります。これは、2020年分の確定申告から追加された、新しい要件です。
- 事業所得(または事業的規模の不動産所得)を得ている
- 正規の簿記の原則に従って、複式簿記で帳簿づけをしている
- 確定申告書類を申告期限内に提出する
- 電子申告か電子帳簿保存を行う ←NEW!!
ここで言う「電子申告」とは、e-Tax(イータックス)と呼ばれるシステムを利用して、所得税の確定申告をオンラインで行うことを指します。準備に少し手間がかかりますが、慣れてしまえば書面での確定申告よりラクに済ませられます。
一方「電子帳簿保存」は、主要簿(仕訳帳や総勘定元帳)を電子データの状態で保存することを指します。単純に「パソコンで帳簿づけしていればOK」というわけではなく、電子帳簿保存法対応の会計ソフトなどを利用する必要があります。
どのくらい節税できる?- 控除額ごとの比較
あくまで一例ですが、東京都在住の個人事業主を想定して、青色申告特別控除でどれほど節税できるか計算してみました。
以下は、所得(収入 – 必要経費)をそれぞれ「100万円・300万円・500万円」と仮定し、設定した所得控除を差し引いた場合の、所得税と住民税の合計額です。
所得税・住民税の合計額
白色申告 (控除なし) |
青色申告 10万円控除 |
青色申告 55万円控除 |
青色申告 65万円控除 |
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所得100万 | 40,700 | 25,600 | 2,500 | 0 |
所得300万 | 316,100 | 297,500 | 229,500 | 214,400 |
所得500万 | 733,000 | 702,600 | 568,800 | 548,600 |
基本的には、所得が増えるほど節税額も大きくなります。今回の計算例で所得500万円の場合、10万円控除と65万円控除で、納税額に15万円以上の開きがあります。
一方、55万円控除と65万円控除の差はそこまで大きく表れないので、電子申告や電子帳簿保存が面倒なら、あえて55万円控除をねらうのもアリでしょう。
控除額の申告方法
確定申告の際、青色申告特別控除の控除額は青色申告決算書と確定申告書の両方に記入します。まず青色申告決算書の2ページ目で控除額の計算をしてから、他の欄を記入しましょう。
上図の欄で控除額を計算したら、以下の2箇所を記入しましょう。
青色申告決算書の1ページ目 | 確定申告書 第一表 |
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ちなみに、青色申告特別控除の控除額は、開業年なども月割りで計算する必要がありません。一年の途中で開業しても、その年分の確定申告では10万円か55万円か65万円の控除を受けられるということです。
まとめ – 青色申告特別控除の重要ポイント
青色申告特別控除は、クリアする要件によって控除額が異なります。控除額は10万円・55万円・65万円の3パターンで、それぞれの主な要件は以下のとおりです。
青色申告特別控除の主な要件
10万円控除 | 55万円控除 | 65万円控除 |
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55万円以上の控除をねらうなら、複式簿記が一番のハードルになるでしょう。とはいえ、会計ソフトを活用すれば、簿記の知識がなくても必要な帳簿をカンタンに作れます。
また、実際に控除を受ける際には、以下のような点にも注意しましょう。
青色申告特別控除の重要ポイント
- 10万円控除なら決算書の「貸借対照表」の記入は不要
- 55万円か65万円控除なら「貸借対照表」の記入が必須
- 控除は所得税、住民税、国民健康保険料に反映される
- 個人事業税、国民年金保険料の額には影響しない
- 現金主義の届出をしている場合は10万円控除しか受けられない
なお、65万円控除をねらうなら、ひとまず電子申告を選択するのがおすすめです。電子帳簿保存の実施には厳密なルールが定められており、どうしても手間がかかってしまいます。「パソコンで帳簿づけしていればOK」というわけではないので注意しましょう。