青色申告には、白色申告にはない特典が用意されています。一方で、事務的な労力が増えるというデメリットがあります。本記事では、白色申告と比較した際の青色申告のメリット6点とデメリット3点をまとめています。
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目次
青色申告のおさらい
青色申告では、節税につながるメリットが豊富に用意されています。ただ、白色申告と比べると、帳簿づけが大変だったり事前申請が必須だったりと、事務的なことに時間を割く必要があります。
青色申告の主なメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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青色申告の帳簿づけは白色申告と比べて大変ですが、近年ではクラウド会計ソフトの登場で、帳簿づけのハードルは非常に低いものになったといえます。
青色申告のメリット
青色申告のメリットは、主に下記の6つです。
- 青色申告特別控除が適用される
- 少額減価償却資産の特例が受けられる
- 最長3年にわたって赤字を繰り越せる
- 専従者に対する給与を経費にできる
- 申請を出せば現金主義での記帳が可能
- 一括評価による貸倒引当金の特例が適用
ここからは、6つのメリットをそれぞれ詳しく解説していきます。
メリット① 青色申告特別控除が適用される
「青色申告特別控除」が、多くの青色申告者にとって最大のメリットといえます。条件によって、10万円・55万円・65万円の控除を受けられます。白色申告に、このような特別控除はありません。
所得から差し引ける控除額が増えれば増えるほど、節税につながります。ただ、あくまで「所得」の金額を抑えられるだけなので、単純に「税額」から65万円などが差し引かれるわけではありません。
青色申告特別控除の55万円・65万円控除を受けるためには「複式簿記で帳簿をつけなければいけない」など、厳しい条件が設けられています。一方、10万円控除は単式簿記など簡易な簿記での帳簿づけが認められているのでハードルが低いです。
単式簿記とは、お小遣い帳のように簡単な簿記の方法全般のことです。なお10万円控除の場合、届け出をすれば「現金式簡易簿記」という方法も認められます。この方法についてはメリット⑤で説明します。
>> 青色申告の帳簿づけ方法
メリット② 少額減価償却資産の特例が受けられる
青色申告者に適用される特典のひとつに「少額減価償却資産の特例」があります。これは、30万円未満の固定資産を取得した場合、全額をその年の経費として計上できるというものです。白色申告では、この特例を利用できません。
「少額減価償却資産の特例」の限度額は、年間で合計300万円(会計年度が1年未満なら月割の金額)までです。限度額を超えてしまったら、その分は通常の方法で減価償却をします。
この特例は期限付きの制度ですが、これまで何度も延長されてきました。突然廃止されることは考えにくいので、これからも存続するものと考えてよいでしょう。
メリット③ 最長3年にわたって赤字を繰り越せる
業務上の損失で、事業所得や不動産所得が赤字になった場合、青色申告ならその赤字を最長3年にわたって「繰り越す」ことができます。繰り越した赤字は、翌年以降の黒字と相殺できるので金額によっては大きな節税につながります。
一方、白色申告で赤字の繰り越しは、特別な場合を除いてできません。
たとえば、事業を開始した1年目に400万円の損失(赤字)が出たとします。しかし、2年目以降は黒字が出せるまでに持ち直しました。
2年目は150万円(黒字) - 400万円(赤字)、3年目は200万円(黒字) - 250万円(赤字)と計算できるので、2年目と3年目の所得は相殺されてゼロになります。つまり、これらの年は所得税を納める必要がありません。
4年目は、300万円(黒字) - 50万円(赤字)なので、黒字が250万円になります。この250万円の所得をもとに、納税額を計算します。赤字を繰り越すことにより、所得を抑えて税金を減らせるのです。
メリット④ 専従者に対する給与を経費にできる
青色申告者は、事業専従者( ≒ 家族従業員)に支払った給与の全額を「専従者給与」として必要経費にできます。白色申告でも、専従者がいる場合は「事業専従者控除」を適用できますが、この節税効果は限定的なものです。
専従者の給与を経費とするためには、あらかじめ「青色事業専従者給与に関する届出書」を定められた期間までに提出しておく必要があります。(小規模の不動産所得については、専従者給与の算入が認められにくいので注意)
ちなみに、白色申告の場合、支払った給与をそのまま経費にはできませんが、上限つきの「事業専従者控除」を受けられます。事業専従者控除は事前に申請することなく、確定申告の際に必要な情報を記入するだけで適用されます。
メリット⑤ 申請を出せば現金主義での記帳が可能
青色申告の場合、事前に届け出を提出すれば「現金主義」で帳簿づけすることもできます。ただし、現金主義で帳簿づけを行うと55万円控除・65万円の特別控除は受けられず、10万円控除が適用されます。白色申告では、現金主義による記帳は基本的に認められていません。
「現金主義」とは、現金での収入・支出があったタイミングの日付で取引内容を計上する方法のことです。一方「発生主義」とは、収入・支出の事実が確定した時点の日付で取引内容を計上する方法を指します。
現金主義による帳簿づけが認められるのは、小規模事業者のみです。小規模事業者とは、前々年の事業所得等が300万円以下の人を指します。
この条件に当てはまる青色申告者が「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を定められた期間までに税務署へ提出すれば、現金式簡易簿記(現金主義の方法で記帳する簡易な簿記)での記帳が認められます。
ただ、現金主義の場合、55万円・65万円の青色申告特別控除は受けられず、必ず10万円の控除が適用されてしまいます。55万円や65万円の控除を受けたい方は、少し面倒ですが複式簿記で「発生主義」にもとづいた帳簿づけを行う必要があります。
>> 発生主義と現金主義の違い – 取引を計上する日付
メリット⑥ 一括評価による貸倒引当金の特例が適用
青色申告者には、貸倒引当金の一部を経費として扱うことが認められています(一括評価による貸倒引当金の特例)。白色申告者でも経費として扱うことはできますが(個別評価)その場合は条件や計算方法がちょっと面倒です。
貸倒引当金とは、取引先から回収できる可能性が低い売掛金や貸付金などの一部を、あらかじめ負債として見積もっておく金額のことです。取引先の経営状況が明らかに悪く、売掛金をすべて回収できそうにない場合などに一部を経費に計上できます。
「個別評価」では、貸し倒れる可能性が高い場合のみ経費として扱えます。一方「一括評価」なら、年末に売掛金があれば誰でも繰り入れが可能です。経費に計上できるのは、基本的に売掛金の5.5%です(金融業は3.3%)。
貸倒引当金は、将来受け取れないかもしれない状態の売上の一部を、いったん経費として扱うものです。貸し倒れにならなかった場合は、翌年に収入として計上することになります。
つまり「一括評価による貸倒引当金の特例」は、例年よりも特別大きな利益が出た年でなければ、節税メリットを享受しにくい特典といえます。
>> 貸倒金と貸倒引当金の違い
青色申告のデメリット
青色申告のデメリットとしては、主に下記の3つが挙げられます。
- 複式簿記で帳簿づけをする
- 確定申告時に提出する書類が多い
- 事前に申請書を提出する必要がある
ここからは、3つのデメリットをそれぞれ解説していきます。
デメリット① 複式簿記で帳簿づけをする(55万円・65万円控除の場合)
青色申告における最大のデメリットといえるのは「複式簿記での帳簿づけが必要なこと」です。白色申告であれば、複式簿記よりもシンプルな単式簿記の方法で記帳できます。
青色申告の55万円控除・65万円控除をねらう場合、初心者にはハードルが高い複式簿記の方法で帳簿づけをする必要があります。これはハードルが高めの記帳方法ですが、会計ソフトを使えば簿記の知識がなくても大抵なんとかなります。
>> 青色申告の会計ソフト比較
また、前述のとおり10万円控除なら複式簿記ではなく、単式簿記での帳簿づけが認められています。さらに小規模事業者なら、申請をすれば「現金主義」でOKなので、日々の帳簿づけがより簡単になります。
デメリット② 確定申告時に提出する書類が多い
青色申告では「青色申告決算書」という書類を確定申告時に提出します。大きくは損益計算書と貸借対照表の2つで構成されていて、55万円・65万円控除を受けるなら4ページすべてに記入しなくてはなりません。
とはいえ、会計ソフトで帳簿づけを行っていれば、提出書類の作成もさほど大変ではありません。会計ソフト上で書類を作成して印刷するか、画面に表示されている情報を確定申告書に書き写せばOKです。
なお、65万円控除を受けるには複式簿記など55万円控除の要件を満たした上で、さらに「e-Taxで申告する」「電子帳簿保存を行う」このどちらかの要件をクリアする必要があります。
>> 青色申告特別控除とは
デメリット③ 事前に申請書を提出する必要がある
青色で確定申告をするためには「青色申告承認申請書」を、定められた期間内に所轄の税務署に提出する必要があります。白色申告では、事前に提出する書類はないので、誰でも自由に選択できます。
「青色申告承認申請書」は、一度出せば翌年以降に提出する必要はありません。基本的には、青色申告に変更する年の3月15日が提出期限となります。たとえば、2024年分から青色で申告したいなら、2024年3月15日までに申請書を提出しておく必要があります。
提出期限日が土日祝日にあたる場合、翌平日が期限日
ただ、その年に開業したばかりなら「開業日から2ヶ月以内」に提出すればOKです。4月1日に開業したなら、4~5月の間に提出しておきましょう。
>> 青色申告承認申請書の提出期限
青色申告のメリットとデメリットまとめ
青色申告には、白色申告にはない特典が用意されています。労力的なデメリットもありますが、時間に余裕のある方は節税効果が見込める青色申告にトライしてみましょう。
青色申告の主なメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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青色申告をする際、注意したいのが事前に「青色申告承認申請書」を提出する必要があることです。定められた期間内に提出できないと、その年の分は白色申告をするほかありません。
「現金主義での記帳が可能」と「専従者に対する給与を経費にできる」については、それぞれ個別に申請書の提出が必要です。提出期限は「青色申告承認申請書」と同じなので、希望する方は税務署に行く際、同時に提出しておきましょう。