本記事では、令和3年度(2021年度)の住民税について、5つの改正点を解説します。2021年に納付すべき住民税額は、2020年分の所得にもとづいて決定されます。
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目次
主な改正点は5つ
2021年の住民税から適用される改正点は、主に上記の5点です。これらの改正で、事業主がこれまでよりも不利になることは、基本的にはありません。
ただ、所得が2,400万円を超える人は、トータルで従来より不利になります。また、副業として個人事業を営んでいる会社員も、やや不利になる可能性があります。これは後ほど、順番に説明します。
なお、2021年に納める住民税は、2020年に得た所得をもとに決定されます(これを2021年度の住民税という)。といっても、所得税の確定申告をすれば、住民税の金額は自動的に自治体から通知されるので、上記の改正に伴って特別な手続きは必要ありません。
① 青色申告特別控除が10万・55万・65万円の3段階に
住民税においても、青色申告特別控除は有効です。2020年分以降の所得計算について、青色申告特別控除の金額が10万円・55万円・65万円の3段階に改正されまました(住民税に反映されるのは2021年度以降)。当然ながら、白色申告者には影響ありません。
先述の通り、住民税の計算においては、前年の所得が参照されます。よって、上記の変更は2021年度の住民税から適用となります。各要件を満たして、2020年分の「所得税の確定申告」を行えば、住民税にも自動的に反映されます。
2020年分「所得税の確定申告」っていつ?
65万円の控除を受けたい場合は、従来の要件に加え、新要件(電子申告をすること or 電子帳簿保存をすること)を満たす必要があります。電子申告は「確定申告書等作成コーナー」という国税庁のサイトを利用すれば、比較的簡単に行えます。
>> 電子申告を最短で行う方法【個人事業主向け】
② 基礎控除額が10万円アップ
2021年度の住民税から、基礎控除の金額が10万円アップします。これまで33万円だった基礎控除額が、43万円に増えるのです。ただし、従来のように一律ではなく、以下の所得制限が加わります。
合計所得金額 | 基礎控除額(所得税) |
---|---|
2,500万円超 | 0円 (控除なし) |
2,450万円 ~ 2,500万円 | 15万円 |
2,400万円 ~ 2,450万円 | 29万円 |
0円 ~ 2,400万円 | 43万円 |
※「~」は「超 ~ 以下」
この改正で従来より不利になるのは、所得2400万円を超える人だけです。なので、ほとんどの人は10万円アップと考えて構いません。
なお、基礎控除を前提に作られている他の制度についても、この改正に合わせて変更が加えられます。詳しくは、続く③~⑤の項目をご覧ください。
③ 配偶者控除などの要件緩和
所得控除のなかには、基礎控除の金額をもとに所得要件を定めているものがあります。そのため、基礎控除額の10万円アップと連動して、それらの所得要件も10万円ずつ緩和されました。
基礎控除に伴って所得要件が緩和された控除
たとえば、所得税や住民税において配偶者控除を受けるには、配偶者の合計所得が「38万円」以下でないとダメでした。これが緩和され、2021年度以降の住民税においては、「48万円」以下に変更されます。
といっても、住民税にこれらの控除が適用されるかどうかは、前年分の確定申告内容をもとに自治体が判定をします。なので、所得税の確定申告をきちんと行っていれば、要件について自分であれこれ考える必要はありません。
ちなみに、上記の「38万円」や「48万円」というのは、所得税における基礎控除の金額です。住民税においても、所得要件の判定を行う際は、この同じ数字で考えることになっているのです。
④ 非課税範囲の改正
2021年度より住民税の非課税範囲が、以下のように広がります。これは、基礎控除の10万円アップや、ひとり親控除の創設による影響です。
- 各「非課税限度額」が10万円アップ
- ひとり親に対する非課税制度が新設
住民税には、自治体ごとに「非課税限度額」が設定されています。簡単に言うと「住民税がかからないギリギリの所得」のことです。家族構成や居住地、年齢、結婚歴などによって、細かく金額が定められています(改正後は、少なくとも38~45万円程度)。
また、ひとり親にも非課税限度額が新たに設けられました。2021年度以降の住民税で、前年の合計所得が135万円以下なら、未婚のシングルマザー・ファザーは非課税となります(ただし、事実婚をしていない場合)。
⑤ 給与所得控除が10万円ダウン
2021年度以降の住民税については、給与所得控除が以下のように低くなります。個人事業主であっても、会社などから給与をもらっている場合はこの影響を受けます。給与所得がなければ、無視して構いません。
① 一律10万円の引き下げ
給与所得控除の金額が、一律で10万円ダウンします。ただ、代わりに基礎控除が10万円アップするので、トータルで見れば基本的に不利になることはありません。
② 上限額などの引き下げ
しかし、給与所得控除の上限金額なども、図のように引き下げとなります。同時に、その上限が適用される給与年収も850万円に引き下げられます。そのため、給与年収が850万円を超える場合は、基礎控除と総合して考えても従来より不利になってしまいます。
所得金額調整控除の創設
「給与収入850~1,000万円以下」の場合には、子育て・介護世帯であるなどの一定要件を満たしていれば「所得金額調整控除」が適用されます。これによって「② 上限額などの引き下げ」の影響はないことになります。ただ、この場合も「① 一律10万円の引き下げ」の影響は受けます。
新型コロナ関連で貸付や給付を受けた場合は?
2020年中は「持続化給付金」など、貸付や給付の制度を利用した事業主も多いでしょう。住民税は所得を得た翌年に課税されるので、2021年度の住民税にどのような影響があるか、簡単に説明します。
貸付金 (返すべきお金) | 給付金 (返さなくてよいお金) |
---|---|
所得に含めない | 所得に含める |
「貸付金」は、所得には含めません。よって、住民税額にも影響しません。一方「給付金」は、基本的には所得に含まれます。したがって、持続化給付金のような給付金を得れば所得が上がるので、住民税額にも影響します。その他の助成金や補助金についても、同様です。
>> 貸付を受けたときの税金や仕訳は?
>> 助成金をもらったときの税金や仕訳は?
非課税の給付金 – 特別定額給付金など
たとえば「特別定額給付金」や「子育て世帯への臨時特別給付金(児童手当への上乗せ)」は、法律により非課税となります。給付金でありながら、所得にはカウントされないということです。このように、法律で個別に非課税と定められている場合もあります。
また、所得税法上で非課税とされる給付等については、住民税においても非課税とされます(ただし法令による特段の定めがある場合を除く)。育児休業給付金や児童手当、健康保険や国民健康保険の療養給付などが、そうした非課税の給付に該当します。
まとめ
2021年度からの住民税改正において、控除額に変更があるのは以下の3つです。
- 青色申告特別控除が3段階(10万、55万、65万円)に
- 基礎控除が10万円アップ
- 給与所得控除が10万円ダウン
大抵の場合、トータルで考えれば従来より不利になることはありません。例として、代表的なパターンを3つ挙げてみます。
【例1】青色申告特別控除が65万円から55万円になった
【例2】青色申告特別控除が65万円のまま
【例3】白色申告者で会社勤めもしている(給与収入あり)
なお、基礎控除の改正に伴って、配偶者控除など、一部の所得控除の要件が緩和されます。また、非課税限度額も増えます。とはいえ、これらは自治体により自動的に計算されるので、細かく把握していなくても問題ありません。